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アジの塩焼き

昨日、父が心臓カテーテル手術をした。

先日心不全をおこし、かかりつけの病院からの紹介状で循環器内科のある病院に入院したのだ。

父は約20年前に心筋梗塞で倒れ、緊急カテーテル手術で命拾いしたのであるが、そのときに行った手術のとき、針金がじょりじょりと音を立てながら自分の足の付け根から入れられている感触の気持ち悪さと恐怖が忘れられず、
「今後二度とこのカテーテル手術はせーへん!」と言い切って20年暮らしてきたのだ。

実は去年もおととしも倒れてこの病院に救急車で運ばれ、そのたびに
「カテーテル手術をしましょう!」とお医者様に勧められながらも、頑として譲らずにきていたのであった。

不思議なご縁で、救急車で運ばれた時、2度とも同じ先生に診てもらっていたのだった。


そしてこのたび入院した際に担当だと挨拶に来てくださった先生が、また

この先生だったのである。

若い先生でとても明るくはきはきしていて爽やかなのだ。

「お父さん!僕が担当になりましたよ!」

「おお!先生!よろしお願いします!!」

父も嬉しそうにしている。

そして入院中の治療計画について、担当の先生から家族と本人に向けてのお話があった。

「カテーテルは絶対嫌なんよね?」

笑顔で先生が父に言った。

「はぁ…まぁね…。」

さすがに3度目お世話になる先生に対して珍しく遠慮気味に答える父。

「あのね、カテーテル検査してみないと心不全を繰り返す原因がはっきりしないんよね。心機能は通常60%ないとあかんとこ、お父さんは27%しかない状態やからね。これはちゃんと検査せなあかんと思うよ。」

「こうやって数字で言われると説得力が増すもんやなぁ。」

内心、先生の話を聞きながらそんなことを考えていた。

「あのね、カテーテル検査をしてね、こりゃ血管詰まってるわ!って部分があったらそのまま手術することになると思うけどね、よろしいですか?検査だけで問題ないなら、時間は15分程度やからね。」

「はぁ、まぁ検査は受けますわ。」

ようやく納得した父であったが、多分先生は頑固な父がこの際でないと手術をしないと踏んでいるのだろうと思っていた。

手術当日、家族が付き添うように言われて病室に行くと、生理食塩水の点滴をぶら下げた父がいた。

「こんなもん昨日から刺されてかなわんねん!」

あ、こりゃ絶対手術やなと感じたが黙っていた。

午前中に済むはずの検査を待っていたが、次々に救急車が到着し、そのすべてが心筋梗塞の急患で緊急手術だと聞き驚いた。

父の検査は結局夕方の5時からになったのであるが、その間に4人の方の命を先生方が救ったのである。

日が暮れた病院で、手術室に向かう父は車いすに乗るように看護師さんに言われ、おとなしく言われるまま車いすに乗った。その後姿が一回り小さく見え、ちょっと泣きそうになった。

そんな感傷的な気分の自分に向かって父がこう言った。

「uni、検査終わったらアジの塩焼き食べたいねん!焼いて持ってきてくれ!」

ズコーである。

テレビでアジの塩焼きを食べる番組を見てどうしても食べたくなったそうだ。

「術後は減塩食なので、明日以降にしましょうね。」と看護師さんになだめられ手術室に入っていったのだからあっぱれである。

1時間30分後、手術室から車いすに乗って片手をふりながら笑顔で出てきた父は手術直後の人とは信じられぬほどの元気さであった。

先生が来て下さり再び説明があった。

「2か所血管が詰まりかけてましたのでカテーテル手術を行いました。」

血管にワイヤーを通し、無事ステントが入って血管が広がるとそれまで止まりかけていた血流が勢いよく流れるようになる様子を動画で見せてくださった。

「助けてくれてありがとう先生。」

こういう父に先生はとびっきりの笑顔を見せ、

「そういってもらえるとほんまに嬉しいですわ!」と嬉しそうにしておられた。

先生はみたところ30歳くらいである。父が倒れた20年前は小学生だった人がこうしてお医者様になり、父を助けてくださったのだ。

20年の時を経て、最新医療の心臓カテーテル手術を受けた父。

再び助けてもらえた命を大切にし、長生きしてほしいと願う。

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