謝れない。

買ったばかりの明太子が悪くなっていた。

お昼ごはんの時に一切れ食べようと小皿に取り分け、ごはんと一緒に食べたのだ。

口に入れた瞬間、「あかん!」ということだけはわかった。

冷凍、解凍、再冷凍、解凍したような味。脂っぽくて水っぽい、ドロドロした食感に加え、生臭さもあって食べれない。

すぐに口から吐き出した。

蒸し暑い梅雨の時期、食中毒が怖かったのだ。

いつも行くスーパーでよく購入する明太子だった。買ったのはわずか1時間前。

これはあかん!同じの買った人たちも食中毒なったら大変やわ!

そう思い、そのスーパーにレシートと一緒にあかん明太子を持って行ったのだ。

レジのお姉さんは毎日のように顔を合わせる顔馴染みの優しい人だったので、事情を説明したところ、店長を呼んでくるとのこと。待つこと数分。店長が現れた。

こちらを見るなり彼は開口一番こう言った。

「全然問題ないと思うんですけど!」

は?である。耳を疑ってしまった。

「全然問題ない?脂っぽくて水っぽくてドロドロでその上、生臭くて食べれませんよ!解凍失敗したような感じですよ。全然問題ないって言うなら食べれますか、あなた。食べましたか?」

こう言ってみた。

するとお客さんがたくさん買い物している店内で、いきなり残りの明太子が入ったパッケージを指で破り、明太子を指でつまみ上げて食べたのだ。

これは夢なのか⁉︎
飲食店に関わる人間が、口に入れるものが傷んでいると言われたら普通は焦るんじゃないのだろうか?

確認させていただきますとバックヤードにでも行って、お客さんの目につかない場所で検食するのが買い物に来てくださっている他のお客様への配慮じゃないのか?

しかし。
食べた直後にも先ほどと同様に
「まったく問題ありませんけど!」と繰り返したのである。

これは…。あかん感じや…。最低や。責任者がこれかー‼︎と怒りがメラメラ湧いてくるのを必死で抑えながら、この謝れない男にむかってこう言った。

「あ、そうですか。まったく問題ないと。ならそれで結構です。」

するとどうだろう。この謝れない男はどうしたか?

「じゃ、これ。」
そう言って、自分が齧った明太子を元のパッケージに戻し、こちらに渡してくるではないか!

我慢の限界を超えてしまった私。

「いやいや!そんなもんいらんわ!処分してください!お金の返金も結構‼︎」

そう捨て台詞を吐き、ずんずん出口に向かったのである。

すると謝れない男が後ろから追いかけてくるではないか!

「業者に確認させますから‼︎」

「業者に確認させる?なんで?今あなたが食べてまったく問題ないと言ったんでしょ?何を業者さんに確認するんです?商品も処分してくれていいし、返金もいらないですよ。」

「いや、それはちょっと…。僕もまだまだ未熟なところもありますし…。」

「そうやね!あなたお客さんに対する口のきき方から間違ってると思うよ。毎日毎日大量にここで買い物させてもらってるけどね。」

こう言い残して謝れない男を後にした。

帰宅後、あまりにも腹が立って、このスーパーの本社に電話した。

電話に出た女子社員さんに事情を説明し、単なる嫌がらせめいた匿名のクレーマーじゃないことを伝え、名前と電話番号を伝えた。

電話口の女子社員さんは、ありえない!といった感じで、「大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません!」と平謝りしてくださった。

電話番号を確認するために開いたHPであったが、会社概要より、企業理念を語る社長さんの挨拶と会社のコンセプトを読んでみた。

「誰でも社長になれるチャンスがある職場!新卒、中途採用歓迎!学歴不問!」

思いっきりブラックな匂いがした。

そして。

いくら待てども、会社の責任者からの謝罪の電話はリンとも鳴らない。

とりあえず。

ここのスーパーでは、なま物厳禁だということだけはよくわかった。


ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?