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器の役割り。

料理を美味しく見せてくれる器が好きだ。

器なんかなんでもいいという考えの人もいるかもしれないが、私にとって美しい器は必需品である。

料理をする段階で、あの器には酢の物、このお皿にはお刺身を盛りつけようなどと頭の中で想像しながら作っている。

テーブルに出来上がった料理を並べる時、ひとつの作品が出来上がったように感じる。その清々しさが好きなのだ。

赤、青、緑、黄、白。

様々な彩りの器が並んだ食卓は、食べる人の食欲だけでなく、心も満たすと信じている。

これと対照的なのが私の仕事である、書道である。

白い和紙に黒の墨字だけの世界。

そこに添えられる彩りと言えば、朱の落款のみ。

しかしこの朱を押せるのは、この作品で納得できた、これで仕上がりという段階になった時だけ。

そこまではひたすら白黒の世界の中で沈黙して書き続ける。

気持ちを入れて筆を持つほど書けず、なんの気なしに筆を持つとすいすいと書けたりする。そして、同じ字は二度と書けない。つねに一発勝負である。

そうやって書き上げた書は、表具師さんの手で美しく表装される。

鮮やかな彩りの軸に包まれた書は、一張羅をまとって得意気な表情になる。

ここに至るまでの過程が、ある意味孤独で厳しい時間である。

その埋め合わせというか、筆と墨から意識を離すことを無意識にやっているのだろうか。

彩り豊かな器に入れる料理を食卓いっぱいに並べるのは、私の息抜きであり、趣味である。

大食いの娘たちの胃袋を満たし、自分の平常心を保てるのは一石二鳥なのだ。

しかし。

この女たちの一石二鳥のためにスナフキンには頑張って稼いでもらわなければならない。

ちょっと気の毒な感じであるが、先日ちょっとしたことで言い合いになった時、彼にしては珍しく感情的にこう言ったのだ。

「家族のために働くのは楽しいよ‼︎」

何が何やらな感情的なセリフであるが、つい笑いがこみ上げてしまい、腹が立っていたのを吹き飛ばしてしまったのだから、やっぱりスナフキンはあなどれない男であるのは間違いない。


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