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スナフキン48

夫はスナフキンのような人である。

結婚前の彼は、リュック一つであちこちに1人で旅することを愛する、謎の多い人物であった。

この人の凄いところは、物静かな雰囲気とは裏腹に、やたらと大胆なことである。

旅に出かけるとあっという間にその土地に馴染むのである。

結婚前、写真が趣味の彼が撮った写真を見ていたときのこと。
現地の人たちに囲まれてにこやかに笑うスナフキンが写っている写真がたくさんあった。

『何?外国に友達いてるん?』

『あ、これは画家のマデっていうねん。これはマデとマデの家族。』

『画家の友達いてるん⁉︎』

『一人で旅行してたときに絵を描いてるマデと話してて、そのままマデのお宅に泊めてもらってさ!しばらくお世話になったな〜。』

『………。』

こんな調子の人なのだ。
旅先で絵を描いてる画家とお喋りすることはあるかもしれない。しかしそのままお宅にお邪魔し、もてなしてもらい、数日間泊めてもらう人はたぶん少ないだろう。
見知らぬ外国人を泊めてくれる異国の画家のご家族も不思議であるが、そこに馴染んでしまう彼もやはり不思議である。

そういえばこんなこともあった。
熊本県の温泉に両親と我が家で出かけた時のこと。
帰りのフェリーに向かう途中、大分県に入ったあたりの辺鄙な場所にある、だご汁が美味しいという小さなお店に立ち寄ったのだ。

遠い昔、独身時代に一人でバイク旅をした時に立ち寄ったこのお店のだご汁がすごく美味しかったから、食べて行こうという彼の提案で。

小さな田舎のお店だが、確かにものすごく美味しく皆満足したのであった。

会計をしようとレジに向かうと、店の奥さんが夫に声をかけた。

『お客さん、ずっと昔にここに来てくれたことありませんか?ウチの主人と一緒に釣りに出かけた方じゃないですか?』

『はい、昔ご主人とお店で釣りの話してて、そしたら一緒に行こうかって誘ってもらってご一緒させてもらったことあります!』

『やっぱり!まぁまぁお元気そうで!奥さんとお嬢さん?ご両親もご一緒で!』

『ご主人は今日は?』

『釣りに行ってます!』

『あの美味しい牛丼作ってくれはるおばあちゃんは?』

『去年亡くなりました〜。』

何が何やらであるが、10年以上前に旅をした土地にも、こんなふうに何かしらの足跡を残しているのだ。まるでつい最近の出来事のようにお店の奥さんと言葉を交わしているのだから、やはりこのスナフキン、只者ではない。

そんなスナフキンも昨日で48歳になった。相変わらずの不思議さぶりであるが、誕生日を家族に祝ってもらって幸せそうであった。

ケーキが燃え盛りそうなほどのロウソクをケーキに突き刺し、ハッピーバースデーをドカ弁とちゃっかりに歌ってもらい、テンションが上がったスナフキン。歌い終わった瞬間、一気にロウソクの火を吹き消そうと思いっきりフーッ!っと吹いたスナフキン。すると熱っ‼︎というちゃっかりの悲鳴が。
なんとロウソクが溶け出した塊がちゃっかりの手に吹き飛んだのである。

全くやれやれな48である。

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