汗と涙と挨拶。

夏といえば高校野球。
昨日は、地元の高校が初の甲子園を目指して決勝戦に挑んだ熱い一日だった。

ドカ弁の中学のお向かいさんにある、公立高校は、非常に野球が強い学校である。

毎年ベスト8入りは果たすものの、私立の強豪勢に阻まれていたので、このたびの決勝進出は私たち地元の人間に大きな喜びをもたらしてくれた。

朝早くから地元の球場には人々が並び、整理券が配られたそうである。

私はテレビ観戦することにし、ちょうど合宿中で観戦できないドカ弁に頼まれていたビデオ録画の準備も済ませ、試合開始時刻を今か今かと待ちわびた。

午後1時、テレビ中継が始まった。

各校の選手の紹介がアナウンスされる。

近隣中学の選手たちに交じって、遠方からこちらに下宿して入学している選手たちもいる。

ドカ弁の出身中学の選手も出場していて、頑張れ頑張れと思わず両手を握りしめ祈る姿勢になる私。

強豪高の投手は、決勝戦に備えて中2日肩を休めて万全の体制であるが、地元の公立校の投手は、連日の登板で疲労が溜まっているという解説があった。

『気合と根性の見せどころや‼︎頑張れ‼︎』

テレビに向かってひとりごとが出る。

あとひとつ。
このひとつ。
今日勝てば甲子園。

しかし。
その願いは惜しくも叶わなかった。

汗を拭いもせず、顔を皺くちゃにし、声を殺して流す涙は、既に大人の男の涙だった。

『良く頑張った‼︎本当に良くやったよ‼︎』

画面に向かって強く拍手を送った私。

その後、夕飯の買い物をしに駅前のスーパーに行くと、我が母くらいのおばちゃん方が、あっちでもこっちでも、あと1歩及ばなかった彼らのことを話す声でいっぱいであった。

『やっぱりあかんかったん!』

結果を出せなかった時、世間の声というのは非情なものなのだ。

まだ16、17歳である彼らが既に大人の男の涙を流す資格を持っているのは、この覚悟を背負っているからなのだと改めて彼らの頑張りを認めてあげたい気持ちでいっぱいになった。

買い物から帰宅後、両親が散歩帰りに我が家を訪れ、自宅前の庭で話をしていたところ、見覚えある顔の男の子2人がユニフォーム姿に身を包み、自宅前を通りかかった。

そう、先ほどまで懸命に闘っていた地元高校の投手の男の子だったのである。

『あっ‼︎』

こちらが気づくより一瞬前に、彼らは深々と頭を下げ、目の前を通り過ぎた。

『応援ありがとうございました‼︎』

言葉に出さず、深々とお辞儀をして颯爽と行く後ろ姿。

その背中は、やはり大人の男の風格が既に漂っていた。

春も夏も。

2年の彼らには、まだあと2回チャンスがある。

夢のてっぺんを目指して頑張る高校球児たち。

覚悟を背負っている彼らを、本当の大人である私たちが、優しくしっかりと見守ってあげたい。

それにしても。

『やっぱりあかんかったん!』
などと言うおばちゃんたちよ、彼らの今の姿を見たらどうよ?

我が母など、彼らの礼儀正しさを目の当たりにした途端ポーッとなってしまい、
やっぱりあかんかったん!から一転。

『なんでよく頑張ったね、おかえり!って声かけてやらんかったん⁉︎』

などとゲンキンなことを言い出したのだから、まったくもって呆れてしまうおばちゃん根性である。

地元高校球児たち、夢を共有させていただき、ありがとうございます。

大人より大人らしいあなた方に恥じないよう、私も頑張ります。

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