重箱。
重箱にお弁当を入れるのが好きだ。
子どもの頃、母が作った重箱のお弁当を食べるのが大好きだった。
祖母や伯母も元気で、皆が花見や運動会に参加し、何度も一緒に食べた。
実家の重箱弁当は担当が決まっていて、ふんわり柔らかいだし巻きは伯母のせっちゃんが担当、美しい俵型のおむすびを握るのは伯母のさっちゃん。
祖母は煮しめを担当し、母は唐揚げや海老フライを揚げるのが決まりだった。
現在、重箱弁当を作るとき、こういったお手伝いをしてくれる人はいないので、全て自分一人でやるのであるが、それぞれのおかずの味や作り方に対するこだわりがあった重箱弁当を思い出す時、その人の顔や声や作っている時の姿が浮かぶ。
味覚も視覚も亡くなった人物と共に思い出に繋がっていて、なんだかホロリとした気持ちになる。
そうそう。
中でも美しい巻きずしは目にも舌にも美味しく、重箱弁当をより華やかにする一品であった。
そう言えば、あの巻きずしは誰の担当だったのだろう。
何だか気になって、先日我が家にやって来た父に尋ねてみたのだ。
『なぁなぁ、ウチの重箱弁当ってさ、みんなが得意なものを作ってくれてたやんね?』
『そうやなぁ。せっちゃんはだし巻きが上手やったなぁ。』
『うんうん!でさ、あの綺麗な巻きずしって作ってたんはやっぱりお母さんやんね?』
『いやーあれはいっつも小僧寿司に買いに行ってたんや!』
ズコーである。
『えぇ〜‼︎でもさ、何回かは作ってくれてたんちゃうん⁉︎』
美しい思い出が完璧であって欲しいと願う私に向かって笑顔で父はこう言った。
『いや、ずーっと小僧寿司よ!だって毎回巻きずしは海苔が巻きたてが美味しいゆーて、ワシが時間になったら買いに行ってたんやから!』
あの重箱弁当に一番の華を添えていた巻きずしは、小僧寿司のお母さんが巻いてくれていたものだったのか!
パックから重箱に詰め替えるだけで、イケてるはんなり弁当を演出していた母。
まんまと騙されていたとは‼︎
30年以上の時を経て知った新事実である。
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