⑯ちゃっかり、天狗にたしなめられる
本日は、地元の秋祭りであった。
獅子舞が地域の家を一軒ずつ訪問し、無病息災、家内安全を祈って舞ってくれるのだが、その際、”お花代”というものを渡すのである。
”お花代”は、家によってお金であったり、お酒であったり、果物、お菓子など様々である。
大人はこれで「あぁこれでまた無事に一年が過ごせるなぁ。」と静かにお茶などを飲みながらつぶやくだけであるが、子どもは一年で一番興奮する祭りなのだ。
子どもたちにとってのヒーローは、何といっても「どんばな」と呼ばれている天狗である。
「どんばな」は、獅子舞のように地域全部のお宅を回るのではなく、地元の商店を中心に突撃訪問し、子どもたちのために、お菓子や果物をいただき、それを付いて回る子どもたちに投げてあげるのである。
優しいどんばな、恐ろしいどんばな、足のめちゃくちゃ速いどんばな。
色んなタイプのどんばながいるが、調子に乗ってどんばなをおちょくりすぎた子どもは、襟ぐりを掴まれ、引きずりながら全力で走られたり、持っている錫杖(しゃくじょう)を振り回され、お仕置きをされるのである。
子どもたちは恐ろしがり、それでもどんばなの魅力に抗えず、一日中どんばなの後ろを付いて地域中を練り歩くのが習わしである。
ドカ弁も小学生の頃は、一日中どんばなに付いて回っていたが、その後釜として、今度はちゃっかりがどんばなに夢中になったのである。
今日は朝の10時から夕方の6時まで全力疾走していたようだ。
途中、お昼ごはんを食べに自分の実家に立ち寄ったそうで、食べてすぐに休憩もせずにまたどんばなを追いかけに飛び出していったらしい。
母から電話があり
「ちょっと!大変なことになった!!」
何事かと聞いてみると、ちゃっかりが「どんばな」とどんばなに群がる子どもたちを大量に引き連れて実家にやってきたというのだ。
「獅子舞は来るけど、どんばななんか来たことないからとりあえず”お花代”を渡したんやけどね。ちゃっかりがね、どんばなと青年団のお兄ちゃんたちに、”ちょっとあんた落ち着き!休憩しい!大丈夫か!?”ってたしなめられててね。」
はぁーーーー!!!?
あの子どもたちが恐ろしがるどんばなを引き連れて実家に誘導した?
しかも興奮しすぎてぶっ倒れないかとどんばなにたしなめられる!?
ありえーーーん!!ちゃっかり!!
あまりのことに一瞬頭がクラクラしてきた。
それだけではない。
実家のお隣のおばあちゃんの家までどんばなを連れていったらしい。
そこのおばあちゃんは、我が家の曲げわっぱドカ弁の定番おかずである、”梅紫蘇”の紫蘇をいつもたくさんくださる優しいおばあちゃんなのである。
今日は、たまたまそのおばあちゃんが米寿のお祝いだったそうで、子どもさんやお孫さんもたくさんやって来ていて、お孫さんたちのために段ボールにたくさんのお菓子を買い込んでいたらしい。
それを大量の子どもを引き連れて現れたどんばなに大盤振る舞いで全部寄付してくれたというのだ。
母いわく、実家の通りは餅まきならぬ、お菓子まき状態になり、子どもたちは大興奮して大喜びしたそうである。
それを聞いて、慌ててそこのおばあちゃんにお菓子を持ってお詫びにいってきたのである。
「うちの娘がどんばなを引き連れてきたそうで、どうもすみませんでした!たくさんのお菓子を子どもたちのためにふるまってくださってありがとうございました!」
すると、とてもニコニコしてこう言ってくださるのだ。
「お嬢ちゃん、どんばなを引き連れてくるなんてよろしいですなぁ!おかげでいい祭りを楽しませてもらいました。ありがとう!」
米寿のお祝いに親族が集まってくれただけでなく、どんばなと大勢の子どもたちまでが家を訪れて賑やかに喜んでくれたことが嬉しかったそうである。
地域のお年寄りからしてみれば、こういうことも喜びのひとつになるのだということを学んだ気分であった。
ちゃっかりが一日中走り回って、どんばなから貰った戦利品はこれである。
潰れたみかん、砕けたおせんべい。走り回ってボロボロになったお菓子たちであるが、子どもにとっては宝物のようである。
こうしてこの町で育ち、地域の子と呼ばれ、ここが娘たちのふるさとになっていくのだろう。
ちゃっかりの部屋に行ってみると、なんとこんなものが!
「これはなに!?神社のもん勝手に持ってきたん!?」
「ううん。どんばなが走ってたらちぎれて落ちたの。拾ってあげたんだけど
欲しくなって、”これもらってもいい?”って聞いたら、”えーよ”って言ってくれたの!だから飾っているの!」
どんばなの許可は取ったということで、罰は当たらないようである。
むしろ、このどんばなのカケラが我が家に幸福をもたらしてくれそうである。
「ほんまちゃっかりはどんばなが好きなんやなぁ!どんだけよ!」
ちゃっかりにそう言うと
「おばあちゃんがね、小さい時のママそっくりやって言ってたよ。」
ガーン。
人は忘れやすい生き物である。
この落ち着きのない、どんばなのおっかけをするちゃっかりと自分は瓜二つだったということであった。
子ども叱るな来た道じゃ。年寄り笑うな行く道じゃ。
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