見出し画像

詩ことばの森(169)「夕暮の湖で」

夕暮の湖で

樹木に宿る
火の命が燃えている
たがいに競い合い
傷つけさえもいる

湖水は涼しげな波を浮かばせるが
水底は不安げな闇を沈ませている

夕暮間近は
時を忘れるほど静寂だ
孤独を抱えてたたずむ者を
永遠の夢に漂わせて止まない

古い時代の
華やかな貴婦人やもののふたち
水の上に浮かぶ
荘厳な御社の影がゆれる
それらにともなう悲劇の数多が
幻となって立ち上ってくる

けれども風が
森を震わせる瞬間
すべてが消えてしまう
やがて湖水が闇に包まれていく

(森雪拾)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?