詩ことばの森(131)「退避行」
退避行
戦いの史跡に夕暮れの鐘の音
鳥達は悲しい飛翔おこなう
虚無僧のマスクから滴る
硝子張りの春景色が浮いている
きみの顔を夕陽が染めはじめて
もうずいぶん長い夢をみていた
腕を縛って耳を覆った
ぼくらはなにもないけど
鳥たちの行方は知っている
傷ついた兵士の退避行
引きずった足の響き風の音
彼らの気配は靄の中に
けやきの森をどこまでも揺らして
いななく馬の悲鳴に似た日没
明日の命につながるより先に
聞き分けねばならない
(森雪拾)
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