ネタバレあり「かがみの孤城」読書感想文

読書感想文を書くとか何年ぶりだろう?中学生以来なのでは?
そもそも私自身、本当に少しの間だけど中学生の時に保健室登校になりかけた事があった。理由は至ってシンプルで「自分の番だったから」。子供は自分の世界に人を巻き込んでドラマを作りたがる。あの子も私もきっとそれの延長だったんだろうなと思う。本格的な不登校にならなくてよかったなと思うし、どうすれば防げたかも未だにわからない。

なので、数ページ読んでまず思ったのは「あ、キツい」でした。これは昔の事を思い出すレベルではなくて的確にトラウマ抉ってくる系のやつだ、読み進めて大丈夫かな?と思いながらも、前評判がすこぶる良かったのできっと大丈夫、得られるものがあるはず!と信じながらページをめくりました。

最後まで読んでよかった…!!!!

よかったです。救いに溢れている作品だったし、何より当初の若干の不穏さから猟奇的な展開になることなくしっかり助け合ってハッピーエンドに導かれてゆく行程すべてが納得できる。何それ?っていう無理矢理感もなく、ファンタジーと現実が丁寧に上手に融合されている。既視感も無い。いじめのシーンとか、暴力表現を盛り込めばいくらでも衝撃的にできるであろう所を、あえてしない美しさ。すごく緻密に完成された作品だなと思います。

私はいわゆるどんでん返し系のミステリーが好きで、それもあってつい癖でオチを想像しながら読んでしまいがちです。なので「途中で気付いてしまう」プラス「その後の種明かしが私の想像していたまんま」だったりするとさーっと冷めていったりしてしまうのですが、本作品は「気づいてもなお怒涛の伏線回収と明かされる新事実と爽快感がとにかくすげえ」と感動しました。めちゃくちゃお洒落な事してはります。間違いなく2回読み返したくなる作品。すごい。

以下、とりあえず読み終わった直後のいろいろ感想箇条書き

①中学生の子供の心情描写がまじすごい
こころちゃんの気持ちが手に取るようにわかる。めちゃくちゃ共感できる。自分が世界から取り残されている感覚、ショッピングモールのまぶしさ、人に会ったらどうしようという気持ちが、自分自身もそこに立って彼女と同じ目線で体験しているかの様に思えた。どうやったらここまで現実味を帯びた感じに書けるん…?

②こころちゃんを取り巻く人間の「リアルさ」
食べようと思ってたのに朝食を目の前で捨てるお母さん、的外れなサポートをする担任。わかる。私だって同じことをするかもしれない。だってものすごく面倒なのだ、子供同士のいじめってきっと無くならないし大人が間違った手引きをしたらその子の未来は簡単に失われてしまう。向き合わなきゃいけないけど、自分自身だって対処法がわからなくて困ってるんだろう。こころちゃんの事を傷つけまいとして、でもどうしたら良いかわからないし、こっちは現実問題仕事も他の生徒の事もあるし…というリアルな大人の葛藤が出ていたように思います。
でもそんな中、お母さんも担任も逃げずにちゃんと頑張ってた。特にお母さんは私の想像以上に理解力のある人で、仕事と家庭とこころちゃんとしっかり優先順位をつけられてて物凄くほっとした…!私だったら1年間学校にもどこにも行かない娘の自立を待つことができるだろうか?と自問自答してしまう。家に帰って娘がいなかったらそりゃ心配するし、「何で帰って来たの!」とか言われたらブチ切れてしまう自信がある。このお母さんほんとすごい。
……いや、すごすぎないか?
と思う所がいくつかありました。

まだ考察サイトとか一切見てないのでアレなんだけど、お母さん何か知ってたりしない?(※全部読んだ結果、たぶんこのお母さんは普通にいいお母さん)

って思ったのがきっかけで、彼女の周りの大人をちょっとしっかりめに観察するようになりました。途中まで読んだ結論、「お母さんは白かもしれないけど喜多嶋先生は確実に黒」
こころちゃんに対して寄り添う先生としては、あまりにも理解力が高い。出来過ぎている。お察し能力がずば抜けてる。この人絶対なんかある。わくわく。

③会話文に含まれるちょっとした違和感
最初に感じたのは、こころちゃんがスバルに対して言った「ハリーポッターのロンみたい」という一言。それに対してスバルは「こころちゃんは本を読むんだね」という発言をするけど、ハリーポッターレベルになると本を読まない子でもロンの顔なんてルパート・グリントでパッと頭に浮かぶだろう。しかもロンは物語の中で割と滑稽な役というか、正直ちょっとわからずやで困った所もあるヤツだ。「ロンみたい」は悪口にも取れる。カチンと来てもおかしくないのに、「よく本を読むんだね」という返しは全くハリポタシリーズを知らないということになるのでちょっとおかしいなと。
スバル、あんたほんとに中学生?

④始業式の日付
外の世界で会おう!という約束をした後に現実世界に戻ってくる場面。
始業式が違ったことから「あ、これ外の世界でも会えんやつでは?もしかして年度が1年ずつとか違うんじゃない?」という説が頭の中に降りてくる。しかし、7人全員が同じ中学校に誰一人としていないとなると話は違ってくるのだ。その直後に明かされるマサムネのパラレルワールド説。で、SFミステリー脳に冒された読者(わたしです)は単純に「あ~~~なんだ…そっちか…」ってなりました。並行世界モノとなると、アキの絶望の通り彼らの世界は交差しないのでラストは本当に救いがないか、なんかふしぎなちからでむりやり世界を融合させることに成功したんだ~~!いえ~い!なご都合展開が待っているんだろうなと容易に想像がついてしまう。正直ここでがっかりしてしまったのがそもそも辻村先生の思うツボだったんだろうなと今では思う。
うわーーーん!!!!!

⑤その直後の「オオカミさま」の発言
パラレルワールド説はあっさりひっくり返される。「いや、お前ら会おうと思えば会えるよ」と。え?!?!
オオカミさまの嘘という可能性もなくはないけど、ここまでオオカミさまはとにかく中立で悪意も無く、嘘をつくようなキャラクターには思えなかった。ということはやはり「生きる時間が違う」という最初の仮説に戻る訳である。

ここから怒涛の伏線回収ですよ…!!!!!!!!!ヒュー!最高!!!!最高の未来しか見えない!!!がんばれこころちゃん!!!この先に待ってるのはハッピーエンドだ!私には見える!(うるさい)

⑥ゲーム会社ユニゾンの天才ディレクター
詳しく説明されなかったけどこれ絶対そうやんと思ってたのが綺麗に回収されて鳥肌立った。

スバルやん(大号泣)
未来で待ってる系のエモじゃん(大号泣)

これについてエピローグで特に触れないのも本当にありがたかった…スバルの回想で触れた自身の名前、六連星。最後にフルネームを告げる所。これでも十分だけど最後のダメ押しで「このゲーム作ったの俺の友達って言えるようにゲームつくるよ」発言。もう大丈夫ですわかります!大丈夫です!!!!ナガヒサロクレンはあなたなんですね!!!!!声出して泣きました
今思えばまじで最初のマサムネの「このゲーム開発した人だってろくに中学も高校も行ってなかった」もそうなのかな…

⑦読めなかった展開
・喜多嶋先生の正体とオオカミさまの正体
気付かなかった…!!
喜多嶋先生がオオカミさまか?とか思ったけどそれじゃ安直すぎるもんね。ファンタジーなんだからオオカミさまは妖精みたいなものだよ~でもよかったのに、しっかり背景を描いてくれて本当に嬉しかったです。アキちゃん(泣)
喜多嶋先生の正体がわかると、スバルの「アキちゃんは最初から問題児だったよね」みたいな発言が胸に来る…

・赤ずきんちゃんではなく7ひきのこやぎ

×印の書いてある所で気づくべきだった…!この作者さん本当に、広げた風呂敷をひとつひとつ丁寧に畳んでくださる方なんだなと。「あれは結局なんだったの?」ってなる作品も多い中、本作に関してはきっちり伏線を回収してくれる箇所が多くて鳥肌すごかったです。

いや~めちゃめちゃ面白かった…!帯に「一気に引き込まれて二日間で読んでしまいました」という読者さんの声があってマジぽん?と思ってたけど私もまったく同じ結果に!
最初ちょろっと読んで「なんだファンタジーか」でぱたんと閉じちゃうようなひねくれ者にこそ読んで貰いたい、しっかりオチで度肝を抜いてくれる稀有な作品だなと思いました。バケモンみたいな完成度。

辻村先生の他の作品もぜひ読んでみたいです!

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