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「せつなときずな」第11話


刹那は、一杯いやらしことをされた。

どうして、そうなってしまったんだろう…

もうすぐ未成年が終わる今に至るまで、異性を好きになることはあまりなかった。
恋という感情が、どこから来るものかもよくわからなかった。
母親のサキは恋多き女だったが、その姿からは恋愛感情とは何なのかと想像はできなかった。
男子に告られたことも、自分がそんな対象だという噂も耳にしたことは無かった。

そもそも、自分の中の女性性に向き合ってこなかった。
幼くして父親が不在となったためか、サキに母性を感じなかったためか、学校に居場所を確保できなかったためか、いや、そんなことが理由ではなくても、女性というジェンダーを曖昧なまま生きてきて、居心地は悪かったけど、そんなものなのだと無関心を装っていた。

クラスのみんなが、刹那を見るようになった。
もちろん、学校にいる時は今までと変わらないのに。
でもある日、クラスメイトから「刹那、変わったよね」と言われた。
「えっ、何が?」
「なんかキレイになった気がする」

そんな頃、下校しようと下駄箱から下履きに履き替えていた放課後、やはりクラスメイトの濱田美由が突然声をかけてきた。
「福原さん」
刹那は濱田と話したことがないので、ちょっと気が引けた。
「公彦と付き合っているの?」

刹那は何か言いたかったけど、声が出ない。

「気を付けた方がいいよ。あいつはね」

その含み笑いに、林が付き合っていたのは美由だと知った。

何故か、気持ちが焦れた。
嫉妬ではない何か、それが掴みきれない。

走ってバス停まで行ったが、バスには間に合わなかった。
携帯で、林にメールする。
「バスに乗り遅れた」

返信はない。
それが気持ちを、一層不確かなものにする。

待ち合わせのビデオレンタルに、林はいなかった。
大体、制服姿で会いたくはなかった。だから少しだけほっとした。

そのまま家に帰ろうと、国道を逸れて独り歩いていると、後ろから声がした。
その声に、自分は本当は待っていたんじゃないかという疑念を覚えるのだが、一体何を気にしているのか、刹那はもうわからなくなった。

林は刹那の手を取った。
「勝手に握らないでよ」
「でも、刹那、握り返してるよ」
なんだか自然と笑みがこぼれてしまった。
サキは「あんた、男を泣かす女になるよ」と言った。
私は、もうそうは思えない。

恋愛感情はそこに無いのだ。
そうじゃない。
名前で呼び合ったり
手を触れたり
温もりのような何か
きっと、感覚や感触が、距離を置かずに自分を侵食してきたことに、私は無防備過ぎたんだ。

そのまま、林の部屋に行くことは当然のように思えた。
林が何も言わなくても。
部屋のドアを閉めると、林は刹那の首筋にキスをした。
濱田美由は「気を付けた方がいいよ」と言った。
今さら、何を?
ああ、そういえば、
今日はたまたま、お母さんが通販で買ったピーチ・ジョンの薄いピンクのインナーを着けてて良かったな…

こんなものなんだ。

ああ、女なんて弱いものよ、つかみどころがなくて。
水みたいな…

刹那は、パティ・スミスの「POPPIES」の歌詞を脳裏で反芻した。

「濱田さんと同じことを私にするの?」

「だとしたら?」林は、刹那の瞼をやさしくおろした。

「その覚悟があるのなら。

いい? 私は男を知らないんだよ」

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