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新規事業の経営判断

大量生産の商品が売れなくなってきた大企業はイノベーションによる新規事業を加速させたいが、ベンチャーやスタートアップのような動きにはなかなか近づけることができない。国の施策としても経済産業省が主導するISO56002で指針を作り、課題抽出と要因解析、解決策の模索とサポートを試みる活動が進めらている。

ISOのなかで指摘されているポイントは、経営判断と人材の問題に絞られる。経営判断の問題は、新規事業にも投資と回収の短期的な財務判断を求めてしまうことや、新規事業の新しい企業風土と文化をどう根付かせるか、経営サイドの意識改革が最重要課題となっている。

スタートさせた新規事業の途中進捗報告や最終成果報告を受けても、適正な判断ができずに困惑し、次のステップへの移行や更なる投資の判断に戸惑いがあらわれ、マネジメントに苦慮しているように見える。

さらに活動が思った以上に進まないとか、成果が見えてこない、挽回のための次なる手が打てないとなれば、新規事業を断念するという問題に直面するが、この判断にも迷いが生じていることがわかる。

振り返れば、物作りを進めてきた企業は社会に誇れる基盤技術を有して、誰にも負けない既存事業の製品やサービスを前提に、社会における企業の地位と役割を確かなものにしてきた。

経営会議にはかられる新商品群は、新しいといっても既存の技術の派生がほとんどで、性能、品質、市場価値、販売戦略をデーターで説明してもらえば想像も容易なところである。なにより見慣れた製品を目の前にしたり、手に取って、触れて、動きを確認できれば、過去の経験を頭の中でフル動員して経営判断を行うことができた。

新製品の説明を受けながら、市場評価や市場へのインパクトを想像し、財務的な投資と回収、競合との関係なども確率の高い予想ができ、何より夢も膨らませることもできた。従業員から提案されたデーターの信頼度に不足があれば、自身の経験から、また経営者としての指摘と指示を出して、納得のいくストーリーを描くことができる。

メーカーの経営者だからといって技術者である必要はなく、営業やサービス、管理部門出身のトップ経営層もおり、自らも長く身を置いてきた業界のことなので、販売面でも、技術面でも、たとえ自分の専門分野以外でも、実に広い視野と高い確率で予測をすることはできたし、経営手腕を振るうことができた。

そして、会社を発展させてきた商品群の売上が一時的に落ちても、付加価値と信頼とアフターサービスで挽回をして、歴史を積み上げてきた自信もある。

しかし、いよいよ付加価値も限界を迎えて価格競争に突入し、世界的デフレに向き合うことになると、メーカーは、こぞってソリューションビジネスへと目先を変え始めた。

つながりの深い既存の顧客を対象に、得意な事業分野で少しだけ領域を広げるソリューションビジネスの展開は、顧客視点の課題解決に向けたモノからコトへの移行になった。

いわゆる役務提供に近いサービス提供のビジネスになるが、これまでの自社製品のアフターサービスとは異なるところでは現場に戸惑いもあった。

それまでのサービスは、長年築き上げてきたノウハウを提供するという意味が大きかったからで、モノを届ける、修理をするだけではなく、適正なタイミングで消耗品を届け、故障する前の適正なタイミングでメンテを行い、突然の故障には迅速に対応して、適正なタイミングで買い替えの提案ができるのは、ノウハウの積み上げがあってこそできる、質の高いサービスであった。

これまでの事業領域を超えたソリューションビジネスは、経営会議で机上の説明に終始する。実際に動く商品や製品のデータではなく、顧客ニーズと役務のマッチング、商社的販売戦略をもって利益をどう獲得するかの判断を求められることになり、永くメーカー企業を育ててきた経営層は不安を覚えながら判断を行うことになる。

目の前には判断材料となる商品はなく、過去の実績やデータもない。まさに予測不能の中で経営判断を迫られる。経験や実績をもとに予測ができるというのは、どれだけ安心できるものか。政治でも経済でも、予測可能性は人間が求める最大の安心材料となる。

brog

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