見出し画像

大企業メーカーのこれまで

大量生産しても物が売れる時代は、とうに過ぎ去ってしまった。物からサービスへの転換、基盤事業から新規事業への転換が叫ばれてきたが、急激な変化は見られず、そこには企業が歩んできた歴史や企業文化も大きく影響し、働く人の持つ感覚、企業が育ててきた人の気質までもが障壁になってきたのではないかと考えてしまう。

コロナ禍の中でも生活様式の変化、働き方の変化を問われているが、特に、物作り企業(メーカー)が歩み、育んできた人材や気質、社内の仕組みや制度に変化を与えることへの壁は高い。結局、大企業がマスクを作り、人工呼吸器を作り、防護服を作ることに対して、協力し迅速に着手するには至らなかった。自分自身が永く製造業に席を置いた経験を元に、過去を振り返って壁となっている原因を整理して、将来への道を考えるきっかけとなるか、記録してみたい。

バブル期は黙っていても物が売れ、市場も国内から海外へと広がり、製造業も安い人件費を求めて海外工場を立ち上げて生産を増強していった。その時期の商品開発における他社との差別化は、多機能化だった。多少価格が高くても物は売れ、オプションや付随するサービスも好調だった。

しかし、バブル崩壊後は一転、購入者側にとって必要な商品の機能は既に十分に満足できるレベルにあったため、多機能は求められず他社との差別化は価格競争に進み、基本機能を持つ商品が安く購入される市場に変化していった。

車や白物家電、PCと周辺装置など、メーカーは大量生産を止めるわけにはいかず、作り続けることで企業価値と雇用、市場を守ってきた。そして大量生産で日本に貢献してきたメーカーは、生産体制のために投資した設備費の回収を優先する必要があり、既存事業に長く固執してきた。しかし、それらの商品はTV CMから徐々に姿を見せなくなり、代わりにゲームと健康系のCMが増加していった。

量産商品の需要が伸び悩むなか、コスト削減のために単機能の商品を残して、自社製品のラインナップを絞り込む必要に迫られ、競合製品との間での差が見い出せないほどになっていく。多機能とラインナップが無くなり、同じ様な性能の商品を数社で奪い合う環境下の需要と供給バランスでは、同じ種類の商品供給元同士が統合する結果となった。

従来の企業統合による吸収合併問題は、市場価格の操作が可能な市場独占にあったが、昨今のメーカー統合時の大量生産された商品の価格は十分低下しており、競争が実質的に制限されて消費者が不利益を被ることは想定されないため、価格カルテルや私的独占が大きな問題となることはない。

もう一つあるとすれば、統合した会社間の技術情報の引受け精算や分担の問題がある。しかし、既存製品をメインとした企業間の統合の際には、技術力の差もなくなっており、商品の基本特許も期限を迎え、技術情報そのものの価値が下がっている。

吸収や合併では、財務上の問題や人事の問題など様々な課題は残るが、設備の共通化やスケールメリットによるさらなるコストダウンなどの効果もあるはずだ。それでもなお、国境を越えた企業間の吸収や合併に至っているということは、世界的に見ても商品需要が満たされてしまっており、既存の製品群では一定量以上の売上が見込めないものとなっている。

物作り企業は、いよいよ新しい事業を生み出して、新しい企業価値と持続可能性を見出していく必要に迫られることになった。

brog

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?