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「旅人は柔らかな心と体を持たなくてはならない」

「旅人の心得」田口ランディ

旅に出るのにあれこれと難しい講釈はいらないし、
好奇心の赴くままにどこかへ向かい、「旅の恥はかき捨て!」
とばかりにやりたいことをやる勇気がわいてきたりもする。

でも、自分は旅人でも、現地に住んでいる人にとっては日常。
それを常に頭においておかねばならない。
そこにある日常。日々の暮らし、食事、生きている人々・・・
それらと旅人である自分のかかわり方を
もう一度考え直したくなる一冊。

この本の中で、作者は旅の途中、興味本位で入ってはいけない場所にそうとは知らず入ってしまう。そのしばらく後、そこがとても神聖な場所で地元の人でも入らない、入った人は死んでしまうと言われている場所だと知らされる・・・

これを読んで、ちょっと怖くなった。
後にも先にも一度だけ、私もこれに似た経験をしたことがある。
私の場合はその場所を立ち去るときから急に頭痛と吐き気が止まらなくなり、本当に苦しい思いをした。
最終的には地元の友人が「聖水」と呼ばれるものを汲んできて飲ませてくれてなんとか収まった。

旅先で何か悪いことが起きるといつも
「何かこの場所を怒らすようなことをしたのかな」
と考えるようになったのはそれからだ。

柔らかな心と体を持って、旅先の日常を受け入れる。
そうすることが出来てやっと自分も旅先から受け入れられる気がする。

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Bali

ここまではずっと昔、日記のように書いていたブログから引用したものだ。
この文章を書くにあたって久しぶりに読み返し、あらためていまの自分の旅の心得はここから来ていたことを思い出した。そして、旅を始めた早い段階でこの本に出会っていてよかったと思った。

あれから20年近く経った今、人々にとって旅はもっと身近になり、かつては禁断の地と言われていた場所にテレビカメラやYoutuberが入っていったり、ほんのささいなきっかけで、小さな島や村に人が大挙して訪れたりしている。

これといったビジネスがなかった場所で、好機を得て豊かになった人もいるだろう。観光客が来ることで、カフェやスーパーができて暮らしが便利になったということもあるかもしれない。
でも同時に、その変化によって穏やかだった日々の生活を壊されてしまった場所も数え切れないくらいあるだろう。

停めてはいけない場所に車を停めたり、立ち入ってはならない場所に勝手に入ったり、ゴミを捨てたり、何かを買い占めたり。写真を撮るためだけに、通行を遮ったり場所を占拠したり。周りが見えない旅人も随分と増えた。

手軽に旅先の光景や情報を知ることができるようになり、旅へのハードルは一気に下がった。分からないことはそこにいる地元の人に尋ねなくても、検索すれば出てくるのだ。地元の人と一言も会話をしなくても、インターネットの情報だけで旅ができてしまうのだ。
ああ、なんて残念なことだろう。
もしかして、だから旅先へのリスペクトが減ってしまうのかもしれないとさえ思う。

旅する人は常に、その地では余所者であることを覚えていて欲しい。その地には日常生活を営む人々がいて、旅人が知らないルールや習慣があるかもしれない。
それを心に留めながら、そこにある景色を、文化を、人々との会話を新鮮な目と柔らかな心をもって楽しむこと、それが旅の矜持であるということに気づかせてくれた、大切な1冊。

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