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観葉植物のボレロ

 気まぐれに置いた観葉植物は水をやらずともすくすくと、それはもう成長期の子どものように育った。
 奴の寝床は日中の数時間だけ日の当たる場所、つまり私の寝床の足の先。
 毎朝歯磨きの最中に眺め隣のベッドと比べては「ここまで伸びたのか」「あのシミより濃い色だ」と一言感想を言うのが日課になった。

 もしも、あくまでもしもの話だが、あの蔓が太陽ではなく私の方へと伸びていて、ある朝目覚めたらその蔓が私の足に絡みついていて、そうなったらその日私はもう起きるつもりはないので、どうか心配をしてほしい。そしたら私は心配しないでと笑うので、急いで側に来て、あわよくば泣いてほしい。

 蔓はすくすくと伸びた。あの太陽が恋しいのかガラスを引っ掻くようにぬるぬると伸びた。
 ガラス一枚隔てた先は地獄だよ。外なんか出ないほうがいい。そうさ、今から一緒にベッドで寝よう。外なんかよりずっといい。
 蔓の先を少し引くと、存外あっさりと千切れた。口から歯磨き粉のあぶくが垂れた。ああ。

 千切れた蔓の先は今もぶつりと音を立てている。あの人が泣くこともないし、私のそばに来ることもない。ぶつり。心配しないでと笑いかける相手もいないし、心配してくれる人もいない。ぶつり。私はいつものように目覚めるし、この蔓は太陽に向かう。蔓はこの先もすくすくと伸び、千切れ続ける。ぶつり。

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