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『アングスト/不安』現在のシルヴィア・ ラベンレイターがくれたもの

『アングスト/不安』で、無残な運命を辿る事となる印象的な娘、シルヴィア役を演じたシルヴィア・ ラベンレイター。
彼女の詳細は以前、この記事で紹介した。

シルヴィアとコンタクトを取っていく中で、シネマート新宿のエレベーター前に施されたビジュアルを密集させた装飾を見た彼女が「何枚かポスターを送ってもらう事はできますか?映画館でのセットアップが大好き!お礼に私のバンド、Sugarplum FairiesのCDを送ります」という連絡をくれた。
日本に向けてのメッセージもくれた上に、そんな厚意まで見せてくれ、いい人な事はもちろんだが、きっと今人生が充実しているのだろうという事すら感じられた。
日本版のビジュアルや劇場装飾をキャストに気に入ってもらえるというのは、喜ばしい事である。この狂気のチラシ羅列は、劇場スタッフ渾身の作であり、確かに一度見たら絶対に忘れない圧力に満ちていた。

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ポスターやチラシのほか、テロファクトリーで制作され、シルヴィアの顔がプリントされたタイアップTシャツ、インパクト大なマスクも一緒に送ったところ、無事到着したという喜びとお礼のメッセージが届いた。
そこで、「良ければ、あなたがアングストのグッズと一緒に写った写真を送っれくれませんか?」というリクエストをしてみたところ、「できると思います。ただ、新しい音楽の制作で忙しいので、少し時間がかかるかもしれません」という返事が来た。そう、彼女は今、Sugarplum Fairiesという自身のバンド活動をしているミュージシャンなのである。
1983年にウィーンの大学で心理学を専攻しながら、かねてよりバイトとして務めていた映画エキストラがきっかけで、衝撃作『アングスト/不安』に出演する事になるも、女優志望ではなかったのでその後は女優の道には進まず、今は音楽活動を続けている。これだけでも、人間がいかに多面的で予想外の運命に満ちた生き物であるかという知見の一端が垣間見れる。
ちなみに、そのやり取りの際に2014年に登壇したイベントの情報を教えてくれたのが下記の通りである。残念ながらトークの音声録音などは無いらしいが、本作を60回鑑賞したと豪語するギャスパー・ノエも交え、さぞエキサイトした内容だった事であろう。

数日後、シルヴィアから2枚のCD「Payday Flowers」「Sunday, Suddenly」が届いた。
どちらも丁寧にサインを入れてくれ、
「私たちの細やかな映画をサポートしてくれて、どうもありがとうございます!幸運を祈って! シルヴィア」
というメッセージが添えられていた。
それぞれの楽曲は、主に温かみのあるギターに乗せられ、シルヴィアの歌声が幻想的で儚い世界観を創り上げていた。プロフィールには音楽性について「ヨーロッパのポップな感性とアメリカーナのフォークロックを融合させたもので、大西洋を越えたギャップを橋渡ししています」との記載がある。
ちなみにここで購入できる模様。
https://sugarplumfairies.bandcamp.com/music

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早速、シルヴィアにCDのお礼と感想を伝えると、「10/7の週に写真を撮影をします」という連絡があった。
そして10月半ば、彼女は実際にアングスト・グッズとの写真を送ってきてくれた。何度も言うが、彼女は本当にいい人である。どうやら、彼女の自宅にて、わざわざカメラマンに撮影してもらったようだ。
思えば、『アングスト/不安』でこれまでコンタクトが取れた関係者は全員、誠実でとても協力的だ。そうでなければ、あそこまでストイックな作品は生み出せなかったのかもしれない。
シルヴィアの許可を得て、以下に写真をまとめて掲載する。

撮影:ディラン・ラスター/Photos by Dylan Luster

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今もなお、シルヴィア・ ラベンレイターの瞳には、少女のような無垢さと耽美さが漂っている事がわかる。
本作の出演に関して「『アングスト/不安』はとてもいい経験になりましたが、俳優業を続けようという意思はまったくありませんでした」と述べ、公開当時のオーストリアでの反応については「色々なメディアで、これほどまでに暴力的な映画を公開してもいいのか、という議論が沸き起こりました。ウィーンで1週間で上映中止となりました。クニーセク事件がオーストリア全国民が知るほどの大事件だったことと、それを可能な限りリアルに見せてしまったからかもしれません」と振り返りながらも、本作への参加を今も大切にしているという事が、2020年にようやく劇場で初公開となった我々にとっても喜ばしい事実だ。

そして、上映素材については過去のこの記事でも記載したが、VHS等のソフト発売時に、地下道のシーンが残酷過ぎるという理由で暗く処理された事については近年、「過去に地下道の残虐シーンがわざと暗く処理されたバージョンが出回っていたのを知っています。私はこれに反対です。ちゃんとオリジナル通りに血が見えて、残虐すぎることが行われているのを見せるべきです。もともとの作品のテーマが可能な限りリアルであることでしたが、暗くすることはこれに反します。この地下道のシーンをちゃんと見せることでクニーセクのどうしようもなく狂った心の内を正確に表現できるのだと思います」と言及している。
あくまでオリジナルをリスペクトし、ジェラルド・カーグル監督たちが表現しようとした事への深い理解が伺える。
『アングスト/不安』が、いかに作り手たち全員の強い一本の意志で貫かれた作品かという事や、シルヴィアが今も素晴らしい表現者であるという事、本作が日本でロングラン上映を続ける程の高い評価を受けているという事実は、私たちに様々な可能性や希望を与えてくれる要因だ。
何らかの事象の深度を高め、真剣に向き合い、純粋な瞬発力で世に贈り出すという行為は、いつか時間を要したとしても正当な評価をされるものなのかもしれない。

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