「おしん」

もう大分前にTV放送を観てた記憶だけど。
1つ印象的なシーンがある。正確には1つじゃないけど。対になっててセットで1つ。

おしんが初めて奉公先に勤める日。女中頭の姉さんがいう。
「あんたがおしんかい?しっかり働きな。あたしゃグズが大嫌いだ。怠けたり、口答えしたら、夕飯抜きだからね!」。ナメられないように女中頭も必至だ。
「手始めに、そこの洗濯物を頼むよ。洗濯は出来るんだろ?わかったら早くお行き!」。

おっかねぇ。ピューと飛んでって、おしんが井戸端で洗濯していると、さっきの女中頭が通り掛かる。
「お前、こんな所で何、油売ってんだい?洗濯を頼んだはずだろう?」。
「何って、洗濯を…」とおしんが答えると、
「えぇっ?ここいらじゃ皆、川で洗うんだよ、バカだねぇっ!」とどやしつけられる。
ピュー!と飛んでって今度は川で洗濯。改めて、実家とは違うんだと思い知らされた初日になった。

それから何年か経って。
時代の変化で商いが少し傾いて、お屋敷が抱えている使用人を何人か吐き出すことになった。
誰を残し、誰を出すのか、人選はお屋敷にとっても難しい。
老いた使用人だと、新しい仕事を憶えるのが難儀だったり、新しいお屋敷でも扱いづらい事があるから、若いおしんはリストラの対象になった。
「ごめんね。お前はウチでよく働いてくれたし、紹介状を書いておくから、新しい奉公先でも、きっと可愛がって貰えると思う。頑張っておくれ」、と送り出される。

新しいお屋敷は、対照的に景気がよく、前のお屋敷より何だか、開けた街にある。
おしんが街の賑やかさに圧倒されながらお屋敷に着くと、新しい女中頭とご対面だ。

キチンと三つ指をついて、「精一杯、務めさせていただきます」。
「あんたがおしんかい?大旦那の話じゃ、働き者だって事だけど、どうだか…。アタシの目は誤魔化せないよ!あたしゃグズが大嫌いだ!怠けたり、口答えしたら引っ叩いて、夕飯抜きだからね!」。
「取り敢えず、そこの洗濯物を洗っておいで。何してんだい?わかったらグズグズするんじゃないよ!」。

おっかねぇ。ピューと洗濯物を持って飛び出し、川を探す。
でもここは大きな街だ。川まで大分離れていた。しかも知らない街だ。おしんは、通りの人に道を尋ねて川に辿り着き、洗濯を済ませて帰路につく。
「(迷った分、遅くなっちまった。早く帰らねぇと怒られる…)」。

小走りでお屋敷に戻っていると、途中で大慌ての女中頭とバッタリ会った。
「おしん!お前、何処をほっつき歩いてたんだい!居ないから随分探したんだよ!大方、怠けて遊んでたんだろう!正直にお言いっ!」。

「お言いつけ通り、川で洗濯を…」とおしんが答えると、女中頭は呆れて力が抜けてしまった。
「えぇーっ?あぁ、あ〜もう。全部やり直しじゃないか!」。
「ここいらの川はねぇ、汚くて何処もダメなんだ!井戸で洗うんだよ、バカだねぇっ!」。

所変われば、同じご奉公と言えど、同じ洗濯と言えど、全くやり方が違う事があるんだと、しみじみ思い知らされたおしんなのでした。

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