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ラストフライト

空から見るその街の夜景はどこか現実離れしていて、今までのことは全部夢だったような気さえしてくる。

その街では六年間一生懸命働いた。友達もできたし楽しいこともあった。でも最近は、自分がもうここでは必要とされていないことに気づき始めていた。まだ引退するような歳ではないしもっと役立てるはずだ。それでも私がここにいなければならない理由は、もう何も無かった。

この地方路線の飛行機にもしばらく乗ることは無いだろう。私は次第に遠のく街の光を見つめながら、いいことも悪いことも全部リセットするような、まるで押入れの本を一気に処分するような、そんなやや残酷な爽快感を味わっていた。

やがて飛行機は高度を下げ始めた。あの街とは比べ物にならない東京の光の海が眼下に広がっていた。

アナウンスが流れた。

「当機の機長フクシマは、定年のため本日がラストフライトとなります」

どこからともなく拍手が湧き起った。そうだ、あの街には口数は少ないけど温かい人が多かった。

捨てた本のフレーズが急に頭に浮かんで、また無性に読みたくなる事がある。あの街の事もいつかそうやって思い出すのだろうか。その時はまたこの飛行機に乗ることになるのかもしれない。