見出し画像

残像

その町に来たのは二十年ぶりだった。

駅前に数台のバスが止まっていた。その前面に表示されたローカルな行先を目にした途端、あの頃がまるで昨日の事のように思い出された。

就職して最初の職場がその町にあった。田辺さんはニ年先輩の女性で、親切で笑顔が素敵な人だった。僕達は次第に仲良くなった。でも、飽くまでも仕事上の付き合いだった。三年後、田辺さんが転勤した。彼女が居なくなってこれほど寂しい気持ちになるとは思わなかった。そんなに遠くに行った訳ではないのに。暫くして田辺さんが会社を辞めた。噂では恋愛絡みのあまりいい辞め方ではなかったらしい。僕はその話をそれ以上聞きたいとは思わなかった。

もしあの時、もう少し勇気があれば何かが変わっていたのだろうか。そんな意味のないことを考える。もう随分昔の話だ。きっと彼女も自分の幸せを見つけているに違いない。夕日が影を落とすその町を歩きながら、僕はそう自分に言い聞かせた。