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自転車ドッペルゲンガー事件

ある晩、警察から電話が来た。「すぐに自転車で交番に来い」とのこと。私はきっちり税金を払うし、なるべく警察の厄介にならないようにしてきた極めてコスパの良い国民だ。何ごとだろう。

近所の交番では黒シャツの若者と太った警官が待っていた。警官が「自転車間違えてない?」と言う。そんなはずはない。さっき自分の自転車でスーパーに行き、自分の鍵で解錠して家に帰ったのだ。

「お兄さんの鍵でこっちの自転車の鍵開けてみて」と警官が言った。「お兄さん」と呼ばれて多少気分が良くなった私は快諾。見れば私の自転車そっくり、というより私の自転車がもう一台ある。「まさか」と思いつつ鍵を差しこむとスムーズに解錠した。同色、同形、そして鍵まで同じ自転車だったのである。私は自分の不注意を詫びたところ被害者は気持ちよく許してくれた。良かった、いい人で。

しかし、今思えば確かにサドルが若干低かった気がする。置き場もズレていた。ブレーキの効きも普段より良かった。些細な違和感にこそ重大な意味が隠されているのである。