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靴下とクリスマス・キャロル


「お嬢さん、明日いっしょに食事しませんか?」

このメールの一文にやられた。
「お嬢さん」て! 洒落てるって思った。

送ってきたのは、同じ部署の同僚。ふだんはお互い苗字にさん付けで呼びあう間柄なのに、このメール。

ひょんなことから、同じ日に映画「アメリ」を観に行くということを知って、現地で会えたらいいですねーと話はしていたけど、結局会えなかったその日の夜に届いたメール。

今だったら、どこにいますか?来てますか?ってLINEを送れば済むことだけど、なんせその人は「縛られるのがやだ」っていう理由でケータイを所有していなかった。そしてそれが許される時代だった。

そんな粋な誘いを受けてたので行くことにした。

それまで付き合ってた彼とは4ヶ月前に別れた。
久しぶりの異性とのごはんに、気分転換という意味で少しウキウキしてたかもしれない。

季節はちょうどクリスマス直前、手ぶらなのもかっこつかないと思って、サプライズのつもりで靴下を買って、待ち合わせのお店へ向かった。

ちょっと並んでからお店へ入る。
案内されたのはカウンター席。

私はカウンター席が好き。真正面に相手がいないから緊張しないし、間が持たなくてもカウンター越しにお店の人たちを眺めていればいいし、対面よりずっと落ち着くから。

仕事の話とか、映画の話とか、そんな話をしたのかな。
同じ課にいながらゆっくり話をしたことはなかっんだけど、とにかく好みが似ていた。

付き合っているわけではないのに、金沢行ってみたいねとか、京都へ行こうとかそんな未来の話が次から次へと双方から出てきた。こんなこと初めて。

ひと通り食事も終わり、持ってきた靴下を渡した。そしたら、驚いたことに彼もプレゼントを用意していた。それは、彼が自分で描いたイラスト(今はなきセツモードセミナーへ通ってたこともあり)のブックカバーがついたディケンズの「クリスマス・キャロル」の文庫本。

誘いのメールの文句といい、プレゼントといい、ちょっと風変わりで今まで味わったことのない彼のセンスにワクワクしっぱなしだった。

店を出て、井の頭公園を酔い覚ましに二人で散歩。
そのときふいに告白された。

今までの流れからすると彼は用意周到だったのだろうけど、私は以前の彼と別れて間もなかったし、でもその日行ったのは、アメリを観に行くってことは趣味が合うようだから、今までより、気の合う仲間として付き合っていければいいなくらいに思っていたから。

だけどその理性とは裏腹に、私の答えは「YES」。


それから5年。
同僚に極秘で付き合い続け結婚。

その彼は現在の夫だ。


天皇誕生日のたびに思い出す、夫とのファーストデート。

平成最後の12月23日をまもなく迎える。

今日はどんな1日を過ごそうか。
また靴下でもプレゼントしてみようかしら。

記事になるような、おいしいコーヒーやめずらしい調味料を買います!