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今こそ、歌声を失ったオリコン1位アーティストの本をつくろう #1

こんにちは、アンノーンブックス編集部です。

街の書店が次々と姿を消していく一方、それでも1年間に出版される新刊の数は7万点以上ともいわれる今。本の市場が成熟した時代だからこそ、ベストセラーを生み出すのは難しくもあり、ワクワクするような挑戦ともいえます。

このマガジンでは、日々続々と店頭に並ぶ新刊の荒波に、真っ向から打って出ることを決めた僕たち編集部の航海日誌を発信。1冊の本が生まれるまでのプロセスをリアルにお伝えしていきます。

ベストセラーをつくるために、僕らがどんな壁にぶつかり、どうやって乗り越えていくのかを、クルーとなって一緒に見守っていただけたらうれしいです。

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メジャーデビューからわずか2年でオリコンアルバムランキング1位を獲得。その後、病気により歌声を失い、アーティストとしての活動を休止──そんなふうに、誰にも追いつけないほどのハイスピードでミュージックシーンを疾走した伝説の男がいた。

20代、30代なら必ずグループの誰かがカラオケで歌って盛り上がり、40代以上ならテレビCMで流れていた旋律の軽快さに心を奪われたこともあるだろうレゲエ・ユニット「MEGARYU」ボーカリストのRYUREXさんが、僕らのUNKNOWNBOOKSレーベルから久しぶりに新しい作品を出すことになった。

デザイナーRYUREX1BIG

RYUREX(リュウレックス)
岐阜県生まれ。作詞・作曲、そして歌手として23歳で単身渡米。帰国後、クラブシーン、インディーズを経て、2004年に「MEGARYU」としてメジャーデビュー。アルバム通算9枚リリース、2ndアルバム『我流旋風』はオリコンチャート1位を記録。「DAY BY DAY」や「夜空に咲く花」など数多くのヒット曲をリリースする。
順風満帆に活動していたかに見えた2014年、「痙攣性発声障害」という喉の病を患い、アーティストにとって命である声を失う。人生のビジョンを見失ったなか、ドクターや人に支えられ再起を誓う。「MUST TOからWANT TOへ」「悩まず考える」など様々な言葉に向き合い、次のビジョンに向け再挑戦を始め、音楽エンタテイメントベースのプロジェクトを始動。
音楽フェス、音楽×SPORTS、音楽×地域創生プロジェクトプロデュース。 言葉に込めたメッセージをデザインし、ファッションブランド「REX」をプロデュース。 空きビルに商業施設「X MARKET」をOPENさせ、様々な業種が出店するSHOPをプロデュース。 楽しめる空間を大切にプロジェクトを実施している。
また、次世代の若者や子供たちの育成をテーマに、教育委員会やPTA、学校や一般企業からのオファーで講演会講師としても活動している。

新しい作品は、音楽ではなく本だ。歌う声を持たなくなった今も、言葉にこだわって作詞活動を続けるRYUさんの新境地ともいえる初の著書。はじめての本の打ち合わせの時、日本の音楽界のトップをとったアーティストの本をつくることになった僕たちより緊張していたのは、もしかするとRYUさん本人だったのかもしれない。

「なんか……、CDを出す時よりドキドキするよ」といって薄く笑ったRYUさんは、記憶の糸を少しずつ手繰り寄せながら真っすぐに話しはじめた。

じつは、RYUさんとはじめて打ち合わせをする以前、僕らは編集部のメンバーでブレインストーミングをすませていた。ブレストのキモは、RYUさんの本を読んで「どんな人がアクションを起こせるようになるのか?」「どんな人にアクションを起こしてほしいか?」という、この本の最終的なゴールを決めることだった。

新刊のプロジェクトがスタートする前の段階で、ここをしっかり練っておくことがベストセラーを生むための大事なファーストステップになる。この工程は、これまでどんなヒット本を誕生させた時でも変わらない。

ファーストステップにして最終ゴールを見据えつつ決断することは容易ではないが、ここで判断を誤ると、その後どんなに小さな工夫を重ねていっても、残念ながら売れる本には仕上がらないのも事実。僕らは正しい決断をするための材料集めとして、あらゆる角度から本の可能性を提案していった。


なぜ今なのか──それが問題だ

長丁場になった沈滞ムードが漂いはじめたブレストに風穴を開けたのは、「いちばんやっちゃいけないのは、RYUさんの自伝本をつくることだと思う」という、アンノーンブックス代表の安達のひと言だった。

「もちろんRYUさんには大勢のファンがいるけれど、そこに向けて本を出しても、それ以上に読者が広がる可能性は少ないよね」と続いた。RYUさんのこれまでの足跡をたどるファンブックのような自伝本はファン層には間違いなく刺さりはするものの、ファン以外の人の心にまで届けられるような本として〝跳ねる〟可能性が低いことを懸念したのだ。

そもそもRYUさんのファンであっても、「これまでのRYUREX」より「今のRYUREX」が何を見ていて、「これからのRYUREX」が何を考えていくかに興味があるのではないか。「今のRYUREX」と「これからのRYUREX」が、「これまでのRYUREX」の経験をどう生かしているのかを知って一緒にワクワクしたいのではないか。そうやって読者の気持ちに寄り添って想像を深めていくのは、僕らにとってとても楽しい時間でもあった。

あらためて僕らはもう一度、「どんな人がアクションを起こせるようになるのか?」「どんな人にアクションを起こしてほしいか?」を語り合った。そして、考え抜いた末、ひとつの結論に行きつくことになった。

「新型コロナウイルスの出現により、僕らには生き方や働き方を変える必要が生まれた。それは、どこに住んでいようと、どんな仕事に就いていようと等しく影響を受けるものであることも確か。そんな潮流がある今だからこそ求められている、時代のニーズに合った生き方エッセイでベストセラーを狙おう」

かくしてRYUさんの初の著書は、生き方エッセイとして舵を切ることに決まった。なぜ今この時代に「歌えなくなったアーティスト」が本を出すのか。その意味をより深く探り、明確にしていくために、僕らは取材を重ねることになった。

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