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Ich mag Windbeutel.

 シュークリーム。最も好きなお菓子は何か、などと訊かれることはまず殆ど無いだろうが、もし訊かれたならシュークリームと答えるだろう。

 だからといって拘りがあったりする訳では無い。「この店しか勝たん」とか言うつもりが全くない。実際名前を挙げられるシュークリームの店などビアードパパぐらいだ。他に無理やり挙げろと言われればファミリーマートになってしまう。シュークリーム教徒から背教者だと後ろ指を指されるに違いない。ただ本当にどんなシュークリームでもいいのかと言われればそんなことは無く、スーパーで買った数個入りの安いものが本当に値段相応の出来だったのを確認してからは多少気を付けるようになった。

 しかしやはり外でお菓子を買うと高いもので、シュークリームもその例外ではない。ビアードパパは二百円弱くらいだろうか。いや確かにあのクオリティでは安いかもしれない。しかし二百弱あれば一食をかなり充実させることが出来てしまう。平均的な一食分の価格で手に入るのはファミリーマートだろう。クオリティが高いという評判を耳にしたことがあるし、実際に美味しい。迷ったらファミマにしておけ。

 だがそれでもアホみたいにバクバクとシュークリームを食べるには結構かかってしまう。それを解決してくれるのはいつでも手作りなのである。そう考えている私はよくシュークリームを自分で焼くようになった。一時期は毎月焼いていた。ヘッダーにある画像もその習慣の最新の一頁である。面倒くさがりの私は生地を絞らないので歪な形のがよく出来上がるが、それもまた良い。手作りならではの形だろう。本気を出せば綺麗な形の物だけ焼ける。本気を出していないだけである。

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 今でこそ好きに焼けるシュークリームだが、私と彼にはちょっとした因縁がある。それは高校一年生の終わりかけ、2019年2月10日の出来事だった。

 この日初めてシュークリームを焼こうとした。色々わからないのでレシピをちらちら見ながら酷く悪い手際で作っていた。よくわからないまま生地をオーブンに入れて完成したものは、とてもシューとは言えない見た目のものであったのである。

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 待て、言いたいことはよくわかる。諸君の頭の中には黄色の"M"の字が浮かんでいるかもしれない。だが味はあのお馴染み、噛む度に滲み出る小麦の甘みとバターの旨みが特徴的なシュー生地である。脳がバグりそうになりながら、事前に炊いておいた口当たりの微妙なカスタードを塗りたくって食べた。確かにその味はシュークリームのようだった。だがその半分は敗北の味であった。

 最早「劇的ビフォーアフター」である。シュークリームはドイツ語で "Windbeutel" という。風のポーチ、というような意味だ。私が初めて生み出した金塊には風が吹き込まれなかったようだが、次第に風を操れるようになったのだろうか、苦労せずに膨らむようになった。もしかしたら最初に焼いた彼はどっしりとして落ち着き払った性格だったのかもしれない。そう考えると少し惜しいものだと思いそうになっては、いや惜しくないですと自分に突っ込みを入れては頭の空いた者達にずっしりしっとりとしたディプロマットクリームを詰めていくその作業はとっくにルーティン化されていた。

 結局、何事も慣れなのである。シューが膨らまなくて悩んでいる人はこの失態を納めた一枚を見て元気を出して欲しい。諦めずに焼き続ければたとい私くらい器用という言葉が似合わなくても、きっと良き風がやって来る筈だ。Viel Glück.

 因みにレシピなどを載せるつもりは無いです。有名な人のを参考にしてください。ではまた。

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