マガジンのカバー画像

【小説】弥勒奇譚

30
京の仏師弥勒は夢に導かれて一世一代の造仏に挑む。
運営しているクリエイター

#歴史小説が好き

【小説】弥勒奇譚 第一話(全三十話)

「またあの夢だ」 弥勒は同じ夢を繰り返し見るようになり、ここ数年は三日と開けず頻繁に見る…

【小説】弥勒奇譚 第七話

山田寺を辞すと来た道を戻り松阪方面に曲がり初瀬街道に入る。 このまま行けば夜遅くには室生…

【小説】弥勒奇譚 第八話

疲れも頂点に達した頃ようやく室生の里に入った。 室生寺の入り口はすぐに分かった。造営中と…

【小説】弥勒奇譚 第九話

翌朝、不動に連れられ仕事場に向かった。龍穴社を出て川沿いに上って行くと道の右側の少し高く…

【小説】弥勒奇譚 第十話

その夜久しぶりに夢を見た。 さらに続きがあり少女が弥勒に語りかけるのだった。 口元は喋って…

【小説】弥勒奇譚 第十一話

ある日気分を変えようと里の衆に聞いた少し山を上った所にある古い社の跡へ行ってみた。 かな…

【小説】弥勒奇譚 第十三話

次に衣の彫だが弥勒は衣文の彫りがあまり得意ではなかった。 全躯の調和を取るのが苦手なのである。少し彫っては像から離れて全躯を見る、少し彫っては全躯を見るの繰り返しでいつもの何倍もの時間と手間を掛けて衣文を彫りあげた。 お顔の彫りに取り掛かろうとするのだが最初の一手を入れるのに逡巡する日が続いた。仕方なく気分を変えようと頭髪を先にすることにした。 螺髪は掘り出さずに全て別に彫って頭に貼り付けようと考えていたので一つ一つ丁寧に作って行く。 細かい作業で意外に手間取り百八個すべてを

【小説】弥勒奇譚 第十四話

「ときに弥勒殿の数珠はあまり見かけないものだが どちらのご宗旨かな」 「この数珠は以前お話…

【小説】弥勒奇譚 第十五話

その日はひどく疲れて早く床に着いてはみたものの、会うことも無いであろう兄や姪の事を考える…

【小説】弥勒奇譚 第十六話

この作業も終わろうとしていたある日龍穴社より使いが来た。 客人が来ているので下りてきても…

【小説】弥勒奇譚 第十七話

「これをお前が一人で彫ったのか」 しばらく後に続く言葉が出なかった。 長い沈黙のあと不空は…

【小説】弥勒奇譚 第十八話

弥勒はその夜久しぶりにあの夢を見た。 場所は龍穴社のようだが見慣れない建物から普賢が出て…

【小説】弥勒奇譚 第十九話

「色付けはやったことがあるのか」 「はい、像本躯にしたことはありませんが修理の手伝いで台…

【小説】弥勒奇譚 第二十話

仕事場に戻った弥勒はすぐにでも彩色に取り掛かりたかったがなかなか筆を手に取ることが出来ないでいた。 「やらせてくれ」と言ってはみたもののさほど経験があるわけでもなく思い悩んでいた。「そうだ、あれから室生寺造仏も進んだろうから一度見せてもらいに行こう。何か参考になるかも知れない」 ここに来る時は気後れしていた弥勒だったが薬師如来を彫り上げたと言う自信も手伝って室生寺を訪ねる気になった。 事前に不動を通して頼んでもらっていたので直接作業場を訪れた。 「仏師の弥勒と申します。仏像を