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【小説】弥勒奇譚

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京の仏師弥勒は夢に導かれて一世一代の造仏に挑む。
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#夢

【小説】弥勒奇譚 第一話(全三十話)

「またあの夢だ」 弥勒は同じ夢を繰り返し見るようになり、ここ数年は三日と開けず頻繁に見る…

【小説】弥勒奇譚 第六話

翌日も早くから朝市の呼び声で大賑わいの街を抜け、少し奥まった大御輪寺まで来ると人もまばら…

【小説】弥勒奇譚 第七話

山田寺を辞すと来た道を戻り松阪方面に曲がり初瀬街道に入る。 このまま行けば夜遅くには室生…

【小説】弥勒奇譚 第八話

疲れも頂点に達した頃ようやく室生の里に入った。 室生寺の入り口はすぐに分かった。造営中と…

【小説】弥勒奇譚 第十三話

次に衣の彫だが弥勒は衣文の彫りがあまり得意ではなかった。 全躯の調和を取るのが苦手なので…

【小説】弥勒奇譚 第十四話

「ときに弥勒殿の数珠はあまり見かけないものだが どちらのご宗旨かな」 「この数珠は以前お話…

【小説】弥勒奇譚 第十五話

その日はひどく疲れて早く床に着いてはみたものの、会うことも無いであろう兄や姪の事を考えるとますます眼は冴えるのだった。ようやくうとうとと少しばかり眠れたのは朝方になってからだった。ほとんど寝ていないにも関わらず不思議と爽快な気分で、気力も復活して来るのを感じた。 食事も早々に済ませお顔の仕上げに取り掛かった。 鑿の刃先、槌の一振りも全く迷いが無く数日前までの不調が嘘のように進んで行く。眼、鼻、口と見る間にお顔の表情が現れてきた。今までにこれほど思い通りに彫れた経験は無いと言

【小説】弥勒奇譚 第十六話

この作業も終わろうとしていたある日龍穴社より使いが来た。 客人が来ているので下りてきても…

【小説】弥勒奇譚 第十七話

「これをお前が一人で彫ったのか」 しばらく後に続く言葉が出なかった。 長い沈黙のあと不空は…

【小説】弥勒奇譚 第十八話

弥勒はその夜久しぶりにあの夢を見た。 場所は龍穴社のようだが見慣れない建物から普賢が出て…

【小説】弥勒奇譚 第十九話

「色付けはやったことがあるのか」 「はい、像本躯にしたことはありませんが修理の手伝いで台…

【小説】弥勒奇譚 第二十話

仕事場に戻った弥勒はすぐにでも彩色に取り掛かりたかったがなかなか筆を手に取ることが出来な…

【小説】弥勒奇譚 第二十一話

弥勒は挨拶もそこそこに室生寺を後にして自分の 作業場に戻ると、木端を使って今見てきた色付…

【小説】弥勒奇譚 第二十二話

本地仏は寺の仏像と違い一度厨子に納められると よほどのことが無い限り厨子の扉が開かれることは無い。 開眼供養の後はおそらく再び見ることは無いのだろう。 そう思うと完成した喜びとは裏腹に寂寥感にも似た感慨がこみ上げてくるのだった。 「弥勒殿疲れた顔をされておるの。御用ですかな」 背後で相変わらず元気な不動の声がした。 「これは失礼しました。薬師如来が完成しましたのでこれからの事を相談に参りました」 「それはめでたい。厨子もあのように数日後には完成しよう。 開眼供養の日取りはお伺