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【小説】弥勒奇譚

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京の仏師弥勒は夢に導かれて一世一代の造仏に挑む。
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#室生寺

【小説】弥勒奇譚 第三話

その日は帰宅して早く床に着いたがなかなか寝付かれなかった。 弥勒は自身が大仏師となって造…

【小説】弥勒奇譚 第四話

翌朝、夜も明けやらぬうちに家を出た。寒風が松飾りを揺らしている。 寒さが身に応える。 大和…

【小説】弥勒奇譚 第五話

加波多寺に着くころには陽は西に傾き生駒の山並みが夕焼けに赤く染まっていた。 普賢寺に比べ…

【小説】弥勒奇譚 第六話

翌日も早くから朝市の呼び声で大賑わいの街を抜け、少し奥まった大御輪寺まで来ると人もまばら…

【小説】弥勒奇譚 第七話

山田寺を辞すと来た道を戻り松阪方面に曲がり初瀬街道に入る。 このまま行けば夜遅くには室生…

【小説】弥勒奇譚 第八話

疲れも頂点に達した頃ようやく室生の里に入った。 室生寺の入り口はすぐに分かった。造営中と…

【小説】弥勒奇譚 第九話

翌朝、不動に連れられ仕事場に向かった。龍穴社を出て川沿いに上って行くと道の右側の少し高くなった場所にその家はあった。 敷地の道側に家が建っていて奥には広くは無いが庭があった。 庭に出て左手に水場があり水場から山側に向かって山櫻が数本植わっていた。 空き家だと言っていたが良く手入れされていた。 一歩入ると広い土間になっていてすぐの右手には 炊事場があった。左手の手前には広い部屋があり作業場として使えそうである。 左手奥は小上がりの座敷になっていて寝泊りはここで十分であった。 「

【小説】弥勒奇譚 第十話

その夜久しぶりに夢を見た。 さらに続きがあり少女が弥勒に語りかけるのだった。 口元は喋って…

【小説】弥勒奇譚 第十一話

ある日気分を変えようと里の衆に聞いた少し山を上った所にある古い社の跡へ行ってみた。 かな…

【小説】弥勒奇譚 第十三話

次に衣の彫だが弥勒は衣文の彫りがあまり得意ではなかった。 全躯の調和を取るのが苦手なので…

【小説】弥勒奇譚 第十四話

「ときに弥勒殿の数珠はあまり見かけないものだが どちらのご宗旨かな」 「この数珠は以前お話…

【小説】弥勒奇譚 第十五話

その日はひどく疲れて早く床に着いてはみたものの、会うことも無いであろう兄や姪の事を考える…

【小説】弥勒奇譚 第十六話

この作業も終わろうとしていたある日龍穴社より使いが来た。 客人が来ているので下りてきても…

【小説】弥勒奇譚 第十七話

「これをお前が一人で彫ったのか」 しばらく後に続く言葉が出なかった。 長い沈黙のあと不空は大きく息をつくとようやく口を開いた。 「おまえにこれ程の腕があろうとは思ってもいなかった。今ここまで彫れるのは私のところには居ないだろう。私でも出来るかどうか」 不空は振り返って弥勒の顔を見た。 「これも夢のおかげだと言うのか」 「やはり私の力だけではここまでは出来なかったと思います。夢に導かれて来たと言うのが実感です」 「そう謙遜するな。夢の助けがあったとしても おまえの腕で彫ったのだ