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【小説】弥勒奇譚

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京の仏師弥勒は夢に導かれて一世一代の造仏に挑む。
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#弥勒

【小説】弥勒奇譚 第四話

翌朝、夜も明けやらぬうちに家を出た。寒風が松飾りを揺らしている。 寒さが身に応える。 大和…

【小説】弥勒奇譚 第六話

翌日も早くから朝市の呼び声で大賑わいの街を抜け、少し奥まった大御輪寺まで来ると人もまばら…

【小説】弥勒奇譚 第八話

疲れも頂点に達した頃ようやく室生の里に入った。 室生寺の入り口はすぐに分かった。造営中と…

【小説】弥勒奇譚 第九話

翌朝、不動に連れられ仕事場に向かった。龍穴社を出て川沿いに上って行くと道の右側の少し高く…

【小説】弥勒奇譚 第十話

その夜久しぶりに夢を見た。 さらに続きがあり少女が弥勒に語りかけるのだった。 口元は喋って…

【小説】弥勒奇譚 第十一話

ある日気分を変えようと里の衆に聞いた少し山を上った所にある古い社の跡へ行ってみた。 かな…

【小説】弥勒奇譚 第十三話

次に衣の彫だが弥勒は衣文の彫りがあまり得意ではなかった。 全躯の調和を取るのが苦手なのである。少し彫っては像から離れて全躯を見る、少し彫っては全躯を見るの繰り返しでいつもの何倍もの時間と手間を掛けて衣文を彫りあげた。 お顔の彫りに取り掛かろうとするのだが最初の一手を入れるのに逡巡する日が続いた。仕方なく気分を変えようと頭髪を先にすることにした。 螺髪は掘り出さずに全て別に彫って頭に貼り付けようと考えていたので一つ一つ丁寧に作って行く。 細かい作業で意外に手間取り百八個すべてを

【小説】弥勒奇譚 第十四話

「ときに弥勒殿の数珠はあまり見かけないものだが どちらのご宗旨かな」 「この数珠は以前お話…

【小説】弥勒奇譚 第十六話

この作業も終わろうとしていたある日龍穴社より使いが来た。 客人が来ているので下りてきても…

【小説】弥勒奇譚 第十七話

「これをお前が一人で彫ったのか」 しばらく後に続く言葉が出なかった。 長い沈黙のあと不空は…

【小説】弥勒奇譚 第十八話

弥勒はその夜久しぶりにあの夢を見た。 場所は龍穴社のようだが見慣れない建物から普賢が出て…

【小説】弥勒奇譚 第十九話

「色付けはやったことがあるのか」 「はい、像本躯にしたことはありませんが修理の手伝いで台…

【小説】弥勒奇譚 第二十話

仕事場に戻った弥勒はすぐにでも彩色に取り掛かりたかったがなかなか筆を手に取ることが出来な…

【小説】弥勒奇譚 第二十一話

弥勒は挨拶もそこそこに室生寺を後にして自分の 作業場に戻ると、木端を使って今見てきた色付けの技法を見よう見まねでやってみた。 弥勒は今まで見てきた仏像への色付けにはどこか違和感があった。原色をそのまま使い鮮やかな色彩を 身にまとって行く仏像を見るのがどうしても好きになれなかった。 色彩に圧倒されて彫刻としての存在感が感じられ なくなってしまうのがどうしようもなく嫌だったのである。 しかし自分の仕事ではないので口出しすることもないし、ましてや今までは自分の中でもどのようにしたい