見出し画像

フラグメントミステリーは推理ゲームなのか?

みなさん、こんにちは。秋山です。

ミスボドゲームズのデザイン担当として、今までに何作かアナログ推理ゲームを発表させていただきましたが、わたし自身が推理ゲーム好きということもあり、もっと多くの方がこのジャンルにチャレンジし、もっと多くの作品を遊べるようになると良いなと常々、感じています。

そこで、不肖の身ではありますが、アナログ推理ゲームについて考えたこと、創作を続けるうちに得られた知見、経験──そういったものを公開することで、ジャンル成長の一助になれないか、そう考え至りました。

題して、秋山真琴のミステリーラボラトリーです。

タイトル画像 by ぺこらさん

ラボラトリー、と書くと研究室という日本語を当てたくなります。研究室であるならば、ここに書かれる内容は研究成果の発表とも読み取れますが、わたしの心情としては研究室ではなく実験室としてのラボラトリーです。つまり研究成果ではなく実験成果
こういう実験をやってみた結果、今回は、こういう結果が得られました、という共有、です。

実験成果の共有なので、その結論は唯一無二の真実ではありません。特定の条件に基づいて実験を行ったときに得られた結果に過ぎず、前提条件が異なれば、異なる結果が得られることもありえます。

従いまして、どうか、書かれてあることを書かれてある通りに受け取らないでください。一般論として受け取るのではなく、こういうケースもありうるのだ程度に捉えていただき、ご自身の創作に役立てる際は、いったん抽象化したうえで、応用いただくのがよろしいかと

本題に入る前に、いつもの前置きです。

本記事の序盤は無料でお読みいただけますが、途中から『アナログゲームマガジン』の定期購読者のみが読める形式となります。試し読み部分で「面白そう!」と感じていただけましたら、ぜひ定期購読(月額500円、初月無料)をご検討ください。
定期購読いただきますと本記事だけでなく、わたしが『アナログゲームマガジン』で過去に書いた全記事、わたし以外のライターが書いた全記事も読み放題になります。よろしくお願いします。


フラグメントミステリーとは

記念すべき不定期連載第1回のお題は「フラグメントミステリーは推理ゲームなのか?」です。
この問いに対して答える前に、まずは「そもそもフラグメントミステリーとは?」から始めていきましょうか。と言っても、ちょうど1年前にゲームマーケットブログに「フラグメントミステリーというジャンルを解説します」という記事を書きました。こちらの内容を一読いただければ過不足なく理解できますので、お手数ですが「フラグメントミステリーなんて聞いたことがない」という方は、下記リンク先をご確認いただければ幸いです。

いえ、分かります。現代においてコスパ以上に重視されるのはタイパ。リンク先を見にいく時間を惜しむ方もいらっしゃることでしょう。下記に、わたしが考案した推理ゲームの1ジャンルであるフラグメントミステリーを端的に説明した箇所を引用しますので、こちらをご確認いただければ充分です。

フラグメントミステリーは断片的な情報を組み合わせ、隠された真相を解き明かす推理ゲームです。
テーブル上に裏向きに配置された情報カードを1枚ずつ公開し、入手した情報を元に推理を進め、いち早く真相を暴くことを目的とします。
物語や世界観、登場人物などの情報が、ひとまとまりになっているのではなく、ジグソーパズルのピースのように断片化され、1枚ずつ情報カードに記載されていることからフラグメントミステリーと呼ばれます。

https://gamemarket.jp/blog/182781

引用の1行目にご注目ください「フラグメントミステリーは(中略)推理ゲームです」と秋山自身が断言しています。
にも関わらず「フラグメントミステリーは推理ゲームなのか?」と今さらの問いを投げかけるなんて、一体全体、どういう了見なのでしょうか。

ラボラトリーなので、持って回った表現を多用するのも面白かろう。そう考えて、普段とは異なる文体で書いていますが、そろそろ「で、なにが言いたいの?」という方もいらっしゃることでしょう。
一足飛びに結論を記載します。

フラグメントミステリーとは推理ゲームになることもある○○○○○○ゲームである

なることもある……とは?
解説に進む前に、GMテキストをお見せします。

フラグメントミステリーGMテキスト

前説

本作は複数のカードをめくることで得られる断片的な情報から、真相を導き出す推理ゲームです。プレイヤー全員で協力しあい、殺人事件の犯人を特定することを目指します。
本作は一度、プレイすると真相が分かってしまうため、一生に一度しか遊ぶことができません。

ゲームの準備

(コンポーネントのセットアップは、本論に関係ないので割愛します)

ゲームの進行

ゲームは「情報カードの公開」と「情報の共有」を交互に繰り返すことで進みます。
情報カードの中から表向きに公開するカードを1枚、プレイヤー全員で自由に相談しながら選んでいただきます。情報カードの裏面には、誰になんの聞き込み調査をするかという情報が記されています。
情報カードを公開したら、いずれかのプレイヤーが代表し、書かれてある文章を音読し、プレイヤー全員で内容を共有します。一度、公開した情報カードはそのままにし、ゲーム中はいつでも自由に見返していただいて構いません。
情報カードの公開、そして共有。真相が分かるまで、あるいは制限時間の30分が経過するまでこの工程を繰り返していただきます。

ゲームの終了

制限時間30分が経過した、あるいはその前に真相が明らかになり早期解決を目指そうと思ったら事件解明フェイズです。「ゲーム終了後、このカードを公開すること」と書かれたカードをめくり、質問に回答してください。回答は1度しかできませんので、充分に議論を重ねてから行ってください。
質問に回答したら、解答、解説をご確認いただき、最後に評価を確定いただきます。

ここで評価、について説明します。

現在、テーブル上に30枚のカードが裏向きの状態になっていますが、制限時間30分以内に、このすべてのカードを表向きに公開すれば、事件の全容はほぼ明かされます。従って、すべてのカードを公開すれば皆さんは、ほぼ確実に事件を解き明かすことができます。

しかし、優れた探偵であれば1を見ることで10を知ります。そこで、皆さんには、自身が優れた探偵であるという証を立てるべく、より少ない情報から真相に辿り着くことを目指していただきます。
公開した情報カードの枚数が20枚以内であれば三ツ星探偵、25枚以内であれば二ツ星探偵、そして30枚以内であれば一ツ星探偵、と評価が変化します。是非、三ツ星探偵を目指してがんばってください。

プレイのコツ

めくったカード枚数が少なければ高評価になりますが、回答を焦った結果、推理失敗になってしまうと残念な気持ちになります。自信が持てなければ、さらにカードをめくる勇気を持ちましょう。
気づいたことは、どんな些細なことでも発言しましょう。あなたの小さな発見が、誰かの大きな閃きにつながります。

このGMテキストの何が問題なのか?

ポイントとなるのは下記です。

すべてのカードを表向きに公開すれば、事件の全容はほぼ明かされます。

そう、すべてのカードを公開した場合、フラグメントミステリーから推理要素は失われるのです。この場合、求められるのは断片化された情報を、整理整頓して把握する理解力ですので、言ってみれば推理ゲームと言うより理解ゲームになるわけです
推理力ではなく理解力を問うゲームを、果たして推理ゲームと言えるのでしょうか?
やや懐疑の念を抱かざるを得ません。

それではフラグメントミステリーが、どういう条件を満たしたときに、どういう推理ゲームになるのか、そして本質的にはどういうゲームなのか、次の項では、そこを考えてみましょう。

ここから先は

1,888字 / 1画像
7人以上のライターが月に1本以上、書いています。是非、チェックしてください。

アナログゲームマガジン

¥500 / 月 初月無料

あなたの世界を広げる『アナログゲームマガジン』は月額500円(初月無料)のサブスクリプション型ウェブマガジンです。 ボードゲーム、マーダー…

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。サポートは次の記事を書くための、カフェのコーヒー代にさせていただきます。