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GROOVE Xの林要さんにLOVOTとUnityについて聞いてみた【コモさんの「ロボっていいとも!」】

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こんにちは、コモリでございます。

ロボティクス業界のキーパーソンの友達の輪を広げるインタビューコーナー「ロボっていいとも!」も数えて4回目を迎えました。



さて今回は、噂のロボット・LOVOT(らぼっと)の産みの親にご登場いただこうと思いますが、そもそもLOVOTとはどんなロボットなのでしょうか? LOVOTを紹介する動画はたくさんあるのですが、その中でも敢えてこの動画でご紹介したいと思います。

一瞬で「カワイイ!」とハートをキャッチされた方もいるでしょうし、「え、これって何をやるロボットなの?」と疑問を持った方もいるでしょう。

そんな気になるLOVOTの詳しい話を今日はいろいろ聞いてみようと思います。「カワイイ!」と思った人も「何やるロボットなの?」と思った人も、これを読むとなぜそう思ったかの理由も分かるかもしれません。



それではゲストをお招きしましょう。本日のゲスト、ユカイ工学の青木さんからのご紹介。GROOVE Xの林要さんです!

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林 要
GROOVE X株式会社 代表取締役

林:はじめまして。よろしくお願いします!



自動車の空力開発出身の起業家

――では、林さんの自己紹介をお願いします。

はい、GROOVE Xの林と申します。

私は元々トヨタ自動車でエアロダイナミシスト、つまり空気の流れのエンジニアをやっていました。最初はレクサス・LFAというスーパーカーやフォーミュラカーの空力開発を手がけていましたが、そのあとに量産車の立ち上げに関わることになりました。そこが専門職からマネジメント職への転換点でした。

その両方の経験を経たあとで、Pepperというロボット開発に関わるチャンスがあり、Pepperの立ち上げまで携わりました。そこでの経験から「ハードウェア・ソフトウェア、そしてクリエイティブという3つの領域をシームレスに融合させることができれば、新しいロボットの世界を切り拓くことができる」と感じて2015年に起業し、4年の開発期間を経て昨年(2019年)末にLOVOTを出荷開始しました。



――実は私も学生時代に自動車エンジンの研究をやっていました。ちなみに林さんのご専攻は?

私は機械システム工学を専攻していました。学生の頃は富士通のスパコンでベクトル計算などをやっていました。

社会人になってからは風洞や実走行での空力測定手法を覚えたり、フォーミュラカーに携わっていた時はまた計算シミュレーションに戻って今度はスカラー型計算機での大規模パラレルコンピューティング(超並列計算)で空力の解析などをやって・・・という仕事をしていました。



――ということはCFD(数値流体力学)をご専門にされていたんですね?

そうです。学生時代はFORTRAN 77でコードを書いたりしていました。



――風洞実験などもされていたんですか?

学生の頃も小型風洞は使っていましたが、本格的に使い始めたのは社会人になってからです。特にスーパーカーを開発していた頃はダウンフォースを生み出すために車の床下の空気の流れを整流しないといけないのですが、実走行では路面と共に流れる風が床下に発生するので、一般の風洞では再現ができず、ムービングベルトという床も動く装置を装備した特殊な風洞を使って開発をしていました。

その後のフォーミュラカーの開発では、スーパーカー開発時代に使っていたものよりも大きい、バケモノのようなデカさのムービングベルトで開発を進めていました。




「日本を牽引する次の産業」こそロボット

――ロボットの方向へ行こうとしたキッカケは?

トヨタ自動車で働いていた時のエピソードなのですが、会社は当時非常に高収益だったにもかかわらず、社員に危機意識を持つようにと都度「このままでは自動車産業は衰退する」とメッセージを社内に発信していました。

それを私も聞いて「自動車産業で次の価値を見いだすにはどうすればいいんだろう?」と考える一方で、「日本を引っ張っていく次の新しい産業は何だろう?」ということも気になっていました。

そして、いろいろな産業に思いを馳せていた中で"ロボット"というキーワードを聞いた時に「これはきっと日本発の産業になるのではないか」と感じ、そこに賭けてみようと思ってPepperのプロジェクトに参画しました。



――トヨタ自動車さんもロボット開発をされていますが、林さんは在職時にそちらに関わったことは?

在職時は特に関わっていませんでした。トヨタ自動車のロボット開発部隊はいわゆる生粋のロボットエンジニアが多く、そこではたくさんの技術や実績が積み上げられています。私が入り込む余地はなかったのですが、Pepperプロジェクトはそのような積み上げがないゼロから立ち上げようと始まったプロジェクトだったので、ロボット開発経験の無い私でも入れる余地があったのだと思います。




ペットのようなサービスを提供するロボット

――さて、その後に起業されてLOVOTが登場するわけですが、LOVOTについて紹介してください。

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「人の代わりに仕事をして、人間の幸せに貢献する」という、いままでのロボットの立ち位置に対して、LOVOTは、少し外れたところに存在するロボットです。

100年前に発表されたチェコの戯曲の中で初めて「ロボット(robot)」(という存在)が世界に誕生した時に、ロボットは「人の代わりに仕事をする物(者)」として表現されたのですが、LOVOTのロールモデルはそういった役割と違って、どちらかというと"ペット"なんですよね。

ここ50年のペットの変遷を見てみると、「人に面倒を見てもらう存在」という傾向がますます強くなっています。昔は家の外で飼って番犬代わりにしていたケースが多かったのが、今は室内で飼って、番犬にならず一見、役にはたたない。一方でペットは家族としての役割が強くなり、人の心をケアするという大事な役回りを担うようになってきたと言えるでしょう。

そういう意味で「ペットのようなサービスを提供するロボットを作りたい」というのが、実はLOVOTの始まりなんです。

なぜそう思ったのかと言うと、ひとつには住宅事情などでペットを飼えない人や飼うことで避けられないペットロスのような苦痛を避けたい人などの問題を解決したかった・・・というのがあります。また別の視点では「これを実現できないと将来、ドラえもんは作れないだろう」とも考えました。

特定用途のみにカスタマイズされたロボットが多い中で、将来的に人間のような振る舞いをする自立型ロボットを目指す場合、その進化の過程でまずは犬や猫を再現できなければならない・・・と。テクノロジー的にもそこを通過しないといけないし、その先に需要もあるなら(ビジネス的)勝算もあるだろうと考えているのです。



――LOVOTを開発するにあたって参考にした物などはありますか?

LOVOTを開発する上では、先人の知恵・知見・技術が生かされているのは当然なのですが、LOVOTの発想にたどり着くまでにいくつかの経験が役立ったと思っています。

ひとつはPepper開発の時の体験。Pepperがなかなか起動しなくて試行錯誤した後に無事起動した時に、現象としてはソフトウェアのブートシーケンスが上手く通ったことでしかないのですが、Pepperが起きないことで心配して応援してくれていた周りの人は、ようやく立ち上がったPepperを見て、自分のことのように喜んでいただいたのです。「頑張れ」「立ち上がれ」という想いが通じた瞬間に人は嬉しくなりますし、そのロボットの関係性も生まれるわけです。何の苦労もなく機械が動いた時よりも感動する力が強く作用する様子を見て、「ロボットにはこういう可能性があるんだな」と気づきました。

あと同じ頃に、豊橋技術科学大学の岡田美智男先生が「人がロボットに何かをしてあげることで人が充実感を得る」という体験を提供する『弱いロボット』の研究をされていることを知り、先ほどのPepperが起動した時の体験と何か通じる物があるとも感じていました。

そしてしばらくした後に、Pepperを置かせてもらったことがある高齢者施設の館長さんから「Pepperの手が温かかったらいいのに」と言われたことがありました。これを実現するのは、エンジニア視点で言うと「ヒーターを入れれば温められる」と考え、技術的チャレンジの要素が少なくあまり面白味のある話ではないのですが、ユーザー体験から考えてみるとこれはすごい大事な話ではないか、と思いました。

(キャプチャ)おじいちゃん2

ロボットの温かさで無性に安心感を感じたり、人がケアすることで元気になる存在がいるとその存在以上にケアしてあげた方が元気になるという、人の感性というのは摩訶不思議なものだなと思ったわけです。

余談になるのですが、LOVOTも人が触れた時に温かさが伝わるような設計がされています。LOVOTには、エネルギーの無駄遣いになるヒーターは使わず、CPUの排熱をリサイクルしています。排熱を一旦首元に備わっているチャンバー室に貯め込んで、その熱を血液の循環のようにボディに行き渡るような形になっています。




LOVOTと深層学習の関係

――たしかに人の感情の奥深さは不思議ですよね。

そういうことを考えている時に、ちょうど世間では深層学習も注目を集め始めていました。

深層学習について「どこまで生き物を代替できるだろうか?」と考えてみた時に、"認識"は相当のできるようになったので、機械学習で"直感"も達成できるレベルにかなり近づいているだろうと考えました。ただ、"コンテキスト"をベースにした"未来予測"についてまだ苦手と言えるので、そこは時期尚早だろう、と。

だから「"比較的長い時間の未来予測"や、”コンテキスト理解”ができるような存在ではなく、主に"直感"で行動することによって人の生活に貢献するような存在とはなにかな・・・」と考えているうちに、先ほど話した経験や体験がバババッとつながって、LOVOTのアイディアになったんです。

犬や猫などをよくよく観察してみると、未来予測の幅やコンテキスト理解はかなり限定的で、彼らはかなり直感的に生きているのですよね。「じゃあ、人間は彼らのどこが好きなんだ?」と言えば、直感的ゆえの素直さだったり、「フサフサの毛」とか「やわらかい・温かいところ」などだったり、それらも踏まえ「世話をしてあげたい存在だから」となるわけです。「ふむ。そういう直感的な生き物の再現ならば、今のテクノロジーでもそれなりに再現できるだろう」と考えて、LOVOTの開発に踏み込んだわけです。



――なるほど。そう伺うと、LOVOTのセンサーがあれほどたくさん付いているのも分かるような気がします。とにかく入力情報を増やして、それを深層学習で判断し行動に反映する、というか・・・。

LOVOTについては、コンテンツの量で勝負しようとは考えていませんでした。コンテンツだとどうしても飽きが来てしまうので。

それよりも、深層学習にインスパイアされて機械を作るんだ・・・と決めたのであれば、認識の部分もそれに対する反応の部分もよりリッチに作り込むことによって、自ずと外界とのインタラクションでも物語を生み出せるような存在を作りたかった・・・というわけです。

おきがえ




"カワイイ"を判別する男女の違い

――センサーと言えば、LOVOTは頭の上のホーンが特徴的ですよね。あれには賛否などありましたか?

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現在のホーンの形状は機械の構造や機能面、メンテナンス性などを考えてデザイナーが決めたのですが、あのデザインについては男女間で評価が分かれました。女性はホーンについて全然気にしない人が多く、逆に男性は賛否半々という感じでした。

「なぜ男女でこう意見が分かれるんだろう?」という疑問を解決したくて、いろいろな人へヒアリングしているうちに分かってきたのですが、女性の多くはまずLOVOTの目を見てコミュニケーションを取ろうとするようなんです。だから最初からホーンに視線がいかない、と。

あと、過去の経験にとらわれず"カワイイ"を自らが判断する直感的能力が備わっている方も、女性の方が多いようなのです。つまり、多くの女性は全く新しい物を見ても"カワイイ"かどうかを判断できるのに対して、男性は3分の2ぐらいの方はそれがわからない。わからない男性が”カワイイ”を判断する時は、過去に女性が”カワイイ”と言った物を学習していて、その記憶とのマッチングしているようなのです。だから男性は過去に女性が"カワイイ"と言ってきたものにはなかったホーンを見て違和感を感じて、”カワイイ”を壊していると判断しているようなのです。



――とすると、今後は女性側のLOVOTの評価が男性側に伝播していきそうですね。

LOVOTのホーンについて女性に尋ねると「気になりませんでした」とか「チョンマゲかと思っていました」と言っていたので、LOVOTが可愛いという女性の意見を聞いた男性が増えれば、今後はホーンを気にする男性も減るのではないかと思います。

おかえり




シミュレーターに期待すること

――御社でUnityを使われていると言うことを伺いました。

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現在は『LOVOTアプリ』の開発でUnityを利用しています。このアプリはLOVOTの設定や一日の行動記録を見たり、あるいはLOVOTが撮影した写真を見たりすることができるものです。



――モーション設計などへのUnity活用などはありましたか?

プロトタイプ制作まではUnityを使っていました。HoloLensでARでバーチャルLOVOTを表示して、部屋の中でどんな感じで動くのかを検証したりしていました。

しかし、実際の製品に向けてのシミュレーションはGazeboで行っています。LOVOTは非常にセンサーが多く、それらをシミュレーションするにはUnityではちょっと難しかったです。こういうセンサー系の情報をUnityに簡単に取り込めるプラグインなどが充実してくると、Unityをもっと活用してシミュレーションをしてみたいですね。



――他のロボット製作者さんとシミュレーター周りの話をすると、ハードの開発を先にやるべきか、あるいはシミュレーター側の開発を先にやるべきか・・・みたいな話が度々出てくるのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?

LOVOTの場合で説明すると、たとえば人間1人とLOVOT1体のインタラクションであればエンジニア1人でも実機のLOVOTを使って比較的容易にテストができるのですが、実際には「複数人がいる状況でLOVOTがどのように動くべきか?」など様々な環境を想定した場合には、これらを検証する実機環境を整えるのは非常に大変です。そういう環境では、バーチャルに人を増やせるシミュレーションは、優れています。

それ以外にも「どこにセンサーを置いたら良いだろう?」とか「ソフトウェアをどのようにチューニングすべきか?」などの課題を、本当は最初にシミュレーターで確認できると良いのですが、現実ではシミュレーターを整備するのが遅れてハードウェア開発の方が先行するので、実機でテストをしているのが現況です。

なので、素早くシミュレーション環境を整えてシミュレーションできるようになると、ソフトウェアエンジニアが実機のハードウェアの完成を待つ時間を減らすことができるようになるので、ぜひそこはUnityに期待したいところです。



ロボット業界向けライセンスが欲しい!

――他にもUnityに期待する部分はありますか?

ぶっちゃけて言うと、Proライセンスをもう少し入手しやすい状況になると良いかなと思っています。当社の規模やプロジェクトの状況だと、コストの面で大量のライセンスを購入できないというのが正直なところです。


――たしかにゲーム業界の場合はインディーズでも小資本で立ち上げられますが、ロボット業界はスタートアップでも相応の資本が必要ですからね。(※)

※Unityでは所属する会社または個人の過去 12 か月の収益や調達した資金が20 万米ドル以上の場合はProライセンスを契約する必要があります。また、無料のPersonalライセンスと混ぜて使用することは禁止されています。

多くのスタッフにUnityを触ってもらえれば、社内でのUnityの活用シーンが広がると思うんです。なにか、ロボット業界向けのスタータープログラムみたいなライセンス形態とかあると良いかもしれませんね。



お友達紹介

コモ:それではお友達紹介のお時間になりましたので、お友達をご紹介いただけると。

林:先ほど話にも挙がりました、『弱いロボット』を手がける豊橋技術科学大学の岡田美智男先生をご紹介します。

コモ:ありがとうございます。岡田先生に伝言はありますか?

林:「"人を幸せにするため、機械に何かをしてあげる"というコンセプトを岡田先生が作っていただいたからこそ、今のLOVOTがあります!」とお伝えください。

コモ:はい、今日はありがとうございましたー。



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