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【UniTreat-DX-journey】#2.UniTreatが目指す医療DX

【お知らせ】
UniTreatは医療業界におけるDXを推進していくことを目標とした大分県の有志医師をはじめとしたメンバーによって発足した団体です。医療DXに向けて、自分も取り組んでいきたいという熱意ある人を募集しています。活動に興味を持ってくださり、私たちと一緒に取り組んでいきたいという方は是非ご連絡ください。

1.世の中のトレンド

1-1.世の中のトレンドを知り、激動の社会で生きる

初めに、世の中のトレンドと無関係ではいられないという話をします。
今の大きな流れを知ることは、これからの私たちの働き方に大きく関わってくるためです。

私たち医療従事者はとにかく、世の中と隔絶された職習慣も多く、時代遅れの業務環境で仕事をしているといえます。特に、2020年に世界的に感染拡大した新型コロナウイルスによって、医療現場が置かれている現状と課題が表面化することとなりました。日本の医療現場は、そもそも以前からデジタル化が進んでおらず、非効率的な作業を実施するケースが頻繁にみられました。例えば、感染者の患者情報のやりとりにFAXが用いられることは、現場で働いているとよく見る光景です。当たり前のようによく見かける光景も、ニュースで報道されると(「医療現場は紙だらけ メールじゃなくてなぜファックス? デジタル化「DX」遠い状況 変化はあるのか? 藤田医科大学病院の取り組み」TBS NEWS DIG)、想像以上に反響というかバッシングに近いような世間の反応に直面したのです。

日本では、そもそも、各種メディアが報道しているように、デジタル化の遅れ(日本のDXが遅れている理由とは?日本の現状と海外との比較 _ デジマギルド)が指摘されています。この失われた30年における産業構造の変化の中、日本の就業者一人あたりの労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)加盟国のうち、1990年の16位から、現在は28位まで落ちたのです(労働生産性の国際比較 2021) 。この原因は、サービス産業がデジタル化に乗り遅れたことにあるとされています(総務省|令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況)。そんなサービス業の中にあっても、さらに一線を画して遅れているのが医療現場ということができるでしょう。

1-2.医療DXの足元を支えるのは人材である

一方、世の中の大きな流れは既に医療DXに向けて動き始めています。コロナ禍の混乱でうやむやになっていた中規模病院を中心とした病院の再編・統合への圧力は、これから更に高まっていくでしょう。国の提唱する地域医療構想も気になる所です。2019年9月26日、第24回地域医療構想に関するワーキンググループに置いて公表された424リストの公表で大きな物議を醸しましたが(424病院は「再編検討を」 厚労省、全国のリスト公表 - 日本経済新聞)、国は医療DXを大義名分に、予算面で病院運営に圧力をかけてくる日も近いと思われ、地域の医療を担う病院の運営者は目が離せない状況です。これは、特に地方の地域中核病院にとって、とても重要で注目すべき大きな流れです。現在の地域医療を維持するために、地元の自治体からは病院存続を求められて、経営が厳しくなり、赤字運営を加速させる可能性もあり、いくつかの病院は存続の危機に立っています。実際に、医療機関経営状況調査では2021年度と2022年度ともに赤字病院の割合が7割を超え、経常利益においても補助金が なければ殆どの病院が赤字経営であるとされています(医療機関経営状況調査)

病院や医療を成り立たせるためには、持続可能な病院経営を模索する必要があります。一方、病院収入の殆どは診療報酬体系や補助金等の行政の制度に依存しています。つまり、政府の掲げる大きな流れには逆らうことができず、国の方針を理解した上で、病院運営や経営プランをたてて行くことが必要とされているのです。

そこで、注目すべき大きな流れの一つとしてDX人材育成・リカレント教育が挙げられます。DX人材育成は、具体的に、地域で活躍するデジタル推進人材を2022年度末までに年間25万人、2024年度末までに年間45万人育成できる体制を段階的に構築し、2026年度までに230万人確保するというのが目標になります(デジタル人材の育成・確保|デジタル田園都市国家構想)。また、人材育成と言っても、通常の学校教育ではなく、主として社会人に向けたリカレント教育が中心になります。今までアナログ人材だった人をデジタル人材に変えるため、自治体と協力しながら進めています。

私たち医療従事者は、この大きな流れにこれからは特に注目しなければなりません。患者さんへ医療を提供し続けるためにも、新しい行動を起こしていかなければ、多くの病院が「共倒れ」になり働く場所も無くなり、患者さんへ適切な医療を提供するということもできなくなる可能性もあるのです。

2.現場の実情

医療現場では、問題が山積しています。患者さんへのより良質な医療提供への課題という側面と、労働者である医療従事者の管理という側面で困難が多いと感じています。

例をあげるとキリがないのですが、ここでは、多死社会問題と働き方改革問題を例にあげて考えてみたいと思います。

2-1.対応困難な多死社会がやってくる

多死社会という言葉をご存じでしょうか。団塊世代がすべて後期高齢者となる2025年以 降、日本では毎年150万人以上が死亡する「多死社会」となります。 2016年に131万人だった死者数は 2040年にピークに達する(168万人)との予測があります。さらには 戦後の日本では病院死の比率が上昇し現在約8割にも達しています(多死社会|日本総研)

地方では老老介護状態で、認知症患者がより高齢でより認知症の進んだ患者のケアを自宅で行っているというケースが多々あります。患者さんの状態が悪くなると、終末期管理が始まります。この時に、良質な意志決定を本人ができれば良いですが、認知症患者では記憶障害だけでなく、厄介なのは自力での意思決定能力が無いことも多いのです。その場合は、十分な説明を行った上で、家族に意思決定を委ねることになります。問題は、この家族が同居しておらず、遠方にいるケースも多いことです。数年以上も患者本人には会っていないということもあり、現在の病状の推移を把握できておらず、場当たり的な説明では、十分な理解や考える時間を与える間もないままに、意思決定をせざるを得ないケースが増えていると感じます。

-これは良質な意思決定を支援できていないのではないか?

-これは本当に患者さん自身や家族が望んでいる治療になっているのか?

これから押し寄せてくる多死社会では、患者さんの本当に望む姿で看取ってあげることも重要なテーマであり、意志決定支援のためには、十分な情報提供、情報共有が必要です。現場ではゆっくりと納得いくまでちゃんと説明するような時間もないことも多く、病院だけでなく、クリニック、訪問介護ステーション、行政との情報共有の仕組みの必要性をますます強く感じています。

2-2.形だけの働き方改革は医療機関も患者も苦しめる

次に、働き方改革の問題です。

労働時間の上限規制や、当直明けの連続勤務制限等が主な内容であるものの、全く実情に合っていません。診療科によっては、緊急患者も少なく入院患者を担当していない診療科では、人員不足等の壁はあるものの、シフトの工夫等で対応しやすいです。しかしながら、医療提供の中心となる入院患者管理を行う病院の勤務医は、この労働条件下では非常に働きづらくなってしまいます。

当たり前ですが、患者さんは24時間病状が刻一刻と変化していて、状態悪化の可能性もあるし、救急車で突然搬送されることもあるため、当直明けであっても必要であれば、そのまま治療に当たることもあります。

これを解決するためには、病院・統合再編による医師の集約化がありますが、経営母体が異なる病院も多く、目の前に迫る待ったなしの働き方改革への対応は時間的に困難でしょう。長い期間では状況も変わると思われますが、現在の患者さんへ不利益を与えることなく、運営を続けるためには、業務効率化や周辺医療機関間でのリアルタイムの診療状況の共有システムによる医療資源供給の最適化が、今の現場には必要だと感じています。

3.組織の中で働く人間は何をすればよいか

3-1.逆らえないトレンドには乗ってしまおう

それでは、我々医療従事者はこのような困難な状況の中で何をすればよいのでしょうか。私たちの現場が直面している課題は多岐にわたりますが、一つ一つを整理し、可能な限り効率的に解決を図ることが必要とされています。

まず、私たちは、今の医療現場がどのような時代背景の中にあるのか、先に挙げたような大きなトレンドにも注目して全体像を理解する必要があります。その先に、各々が独立して行動するのではなく、組織全体として一つのビジョンを共有し、その達成に向けて協力することが求められます。DXが進行する現在、医療従事者一人一人がデジタル化の重要性を理解し、それを日々の業務に取り入れることが必要なのです。

3-2.医療以外のスキルも身につけていこう

今までのルーチン業務をただこなすだけでなく、現場の問題を見つけ出し、自己啓発に励み、新たなスキルを獲得することも必要です。ITスキルはもちろん、新しい医療技術やコミュニケーションスキル、プロジェクト管理能力など、IT人材としての医療従事者の役割を果たすための多様なスキルを身につけることが求められています。もちろん、一朝一夕には身につかないものですし、私たちUniTreatにも足りていない能力です。だからこそ、これから一緒に身につけていきましょう。

4.UniTreatが目指す医療DX

前回の記事で説明したように、UniTreatが推進する医療DXの目的は、医療情報の共有を通じて、医療受給者と提供者間の情報ミスマッチをなくす世界を構築することです。その達成方法として、情報発信、勉強会、セミナー、新規ツール開発、情報交換の場の提供などを行っています。その中心的な理念は、医療改革と新しい価値創造です。

国が掲げる医療DXの目標では、

「国民のさらなる健康増進」
「切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供」
「医療機関等の業務効率化」
「人材の有効活用」
「 医療情報の二次利用の環境整備」

が挙げられています。
(医療 DX の推進に関する工程表(骨子案) 内閣官房 医療DX推進本部)。

これらは、人口減少と高齢化が進む日本において特に重要な目標とされています。DXに向けて世の中が動き始めているとはいっても、現場での仕事への取り組み方はなかなか変わるものではありません。本格的なDXを推進するのは、意思決定者である組織のトップでなければ、システム面や構造的問題へ大きな変革を実行することはできません。それでも、私たちが現場の一医療者であることは、DXに向けた取り組みの中で必ず活きてくると確信しています。

先ほども述べたように、DX人材育成の中心は、現場の社会人に向けたリカレント教育が中心になります。DXが進み始めた時に、現場の課題解決とあるべき未来の姿を、組織のトップとも共有して、実行に向けてアクションを取ることができる人材が必ず必要になるからです。現場には課題が多くあります。これからの患者さんに対して、持続可能な医療を提供するためには、現場の問題を多面的に正しく理解して、組織へ問いかけていく力が必要です。

私たちは日々、答えのない問題に対して、多くの人と問題を共有して新しい取り組みへ繋げていく道を模索しています。これから、より良い医療が提供できる医療DXに向けて、取り組んでいきます。

長谷川


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