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エイリアン侵略モノ史上最高 『囚われた国家』

久しぶりに骨太のエイリアン侵略モノを観た。今の時代にこういうSFができるとまったく思っていなかった。どうせ陳腐な話と宇宙人とのドンぱちだろうと期待していなかった。ちょうど今、2021年7月、Amazon primeで『The Tomorrow War』をやっており、テレビにWebに、莫大な広告費を投下し、街中は巨大スクリーンを乗せたトラックが大音量で走り回っている。しかしこれが、超がつくほどくらだらなかった。全ジャンルを通して、ここ5年で最も観る価値の無い映画。Amazonヘビーユーザーで、アマプラを人に薦めてきた自分を、『アンチAmazon prime』に変えた1本。今やSF映画は中身無し、ドンぱちだけでいい、という風潮があるので、半ば諦め、期待も何もしてない状態で観た『囚われた国家』は大きく裏切られた。リアリティをとことん追求したストーリー。最後も予想外。テーマは「人間としての誇り」。不屈の精神と、折れて従属する萎えた人たちと。観ながら、エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』を思い出していた。一昔前なら、大国と、中東のどこかの国との戦争という設定で近い話が描けたかもしれないが、今回、敵は人類以外である必要があった。いまや国や宗教や信条など様々な理由で分断している世界で、人間としてどう行動するのか個々に問われた映画だ。マトリックスの、青い薬と赤い薬を差し出されたようだ。

ところで、『The Tomorrow War』のコメントで、「銃で急所を狙えば倒せる相手に、米軍やロシア軍は簡単に負けない」というのがあり、妙に納得した。群れて人を襲って食べるしかない敵に、30年後にあっという間に全人類が50万人まで減らされた話。映画業界は魅力的だが、もし自分がこの映画制作に関わっていたら、息子/娘に、「これがお父さんが作った映画だよ」とはとても胸を張って言えず、代わりに、寝ている息子・娘の枕元で、「お父さん、もう映画作るのやめようと思う」と、ボソッと言いそうだ。

SFもののドンぱちについて、地球外から来訪できるほどの技術力を持った敵が、ミサイルやレーザーのような射出兵器を使うか?!という話は以前からある。自分も子供ながら、「高度な技術力を持ってる割には、武器は地球のとあんまり変わらんな」と思ったものだ。今後、宇宙人とのドンぱち、宇宙船の戦闘シーンは荒唐無稽で、話そっちのけ、どんぱち観たい人向けの映画向けになっていくだろう。今もほぼそうなってるが、『見栄えする戦闘シーンとおもしろい話の両立』は誰も狙わず、わざわざVFXに費用をかけるんだから、リアルな方に行かないのは当然の選択。

『囚われた国家』は間違いなくSFのジャンルに属するが、侵略された状況下でのとことんリアルな闘いに徹しているので、そういう派手な見栄えのするシーンはないのだが、SF映画らしい見応えのあるシーンもたくさんある。宙をマグロのように飛び回り、飛んできて吸盤のように吸い付き、ハニカム構造のように重なっていく。説明聞いてもイメージできないが、これがSF映画に欲しい「おぉ」という感覚。エイリアンはとにかく人間の想像を超えてないといけない。宇宙船の造型もステキ。
地球軍対エイリアンとしなかったのも良い。地球をまるっとひとつに扱う時点で浅はかな映画と思っていい。映画『メッセージ』のように、実際は地球外から知的生命体が突如来訪するという非常自体に直面した時でさえ、各国それぞれの思惑が優先するのだ。今回は通信網絶たれ(または管理され)分断されている。局地戦になるだろうし、各々戦いを強いられる。手渡しのメモや伝書鳩を使っての情報伝達シーンは既視感あり、リアルだ。
リアリティを支えた俳優陣に賛辞を惜しまず。主役のジョン・グッドマン。もしこの人がいなかったら、ここ40年のハリウッド映画が確実に0.5%はおもしろくなくなってた、とさえ言える。ベーブ・ルースやフリント・ストーンなど、ジョン・グッドマン以外誰も想像もできない。いや、それ以外もジョン・グッドマンがやった役は、観終わるとジョン・グッドマンしかないよなと思ってしまうから不思議。トム・クルーズとはまた別の意味で。ヴェラ・ファーミガが出ると、もう只者ではない雰囲気ぷんぷん。こういうキャラの強い配役もうまくいっていた。

この映画制作に関わった父親・母親の、娘・息子が将来、『最も影響を受けたSF映画』に「囚われた国家」を挙げるかもしれない。そして、もし親と同じ業界に入ったら、『将来、こういう映画の制作に関われるようになりたい』と言うかもしれない。自分はぜんぜん関係ないけど、そんなことを考えてなんだか変に誇らしい。
エイリアン映画の歴史に確実に名を残すだろう一本。ぜひお薦めしたい。

→『囚われた国家』(原題:”captive state”)

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