夢見の壺
タイトル:夢見の壺
私は生まれてこの方50年、ずっとツボ作りの職人としてやってきた。
しかしここへきて、もっと夢を見たいと思ってしまった。
「思えばこれまで、ツボ作りの他は何もしてこなかった。あれもしたかった、これもしたかった、そんな夢を全部どこかへ置き忘れて、今まで馬鹿のひとつ覚えみたいにこの壺作りに人生をかけてきたんだ」
ツボを作るのは確かに容易じゃないけど、
覚えてしまえばさほどの事は無い。
なんでも人間、1つのことをマスターすれば
それ以上をやはり欲しがるものか。
人間は欲望の生き物、とは本当によく言ったもの。
こんなことを言えば師匠に悪いとは思ったが、
けれど正直、もっと他の人生を歩んで見たかった。
そんなある日の夜。
その日に作り上げたツボを見ていた時、
「ん?何か光ったか?」
壷の中から光が湧き出たように見えた。
もう少しよく見ようと私はそのツボを手に取り、
外面を見た後、暗闇になるそのツボの中を覗き込んだ。
「…フム、別になんにもない…」
と思った瞬間、パァーーーっとツボの闇の中に世界が見えて、
俺の夢が描かれた。
「これは…!?」
まさに怪奇を絵にしたような現象だったが、紛れもなく現実の事。
俺はさらに両手に力を入れてツボを抱え、
闇の中をまじまじと見た。
するとその世界の中に1人の登場人物が現れ、
それが「俺だ!?」と気づいた。
その登場人物は周りに描かれた景色、幼年の時、
少年の時、思春期の時、青春の時に至るまで、
あらゆる景色の中を通り、
それなりに人生を歩んでるように見えた。
そのツボの中の世界しか見なかった俺だから、
そのとき他人に理解できないほど夢中になれたんだろう。
そしてツボの中から声が聞こえた。
「どうだ?この世界をお前は見たかったのか?こんな人生を歩んでみたかったんだろう?この世界に入る気はないか?その気なら俺が何とかしてやる」
「え!?」と思ったのと同時に又、
俺は心の中で既にその世界に入りたいと決めていた。
すると俺の目の色が変わり、真っ白になり、
体も溶けるように消え果てる感覚を受け、
おそらくそのツボの中に入ってしまった。
そのツボが見せてくれたその世界の中に入ったのだ。
ゴトン!!とわりと大きな音を立てて
ツボが床に転がる。でも割れない。
ここは俺用にと住職が当てがってくれた本殿の中。
この寺は取り壊しが予定されており、
すでに廃屋になっていたが、
しばらく俺の作業場として使わせてもらい、
その後、瞬く間にきれいな寺に塗り替えられた。
それからは名物の寺として、
ここは全国から人気を誇るまでになった。
本殿の奥にはあのツボが飾られている。
夢を見て、その夢と人生を引き換えにして見るか?
狭い世界のあのツボの中だけを見ていた俺だから
きっと迷わず、その道を選んでいたのだろう。
誰にでもこんな瞬間が、やはりあるのではなかろうか。
動画はこちら(^^♪
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