【単語リクエスト②】憂い×苺(逆視点ver.)
ぼぅ、と外を見ていると少し暗くなった空にカラスの影が見えた。きっと外は暑いんだろうな、そう考えていると微かにノックの音が聞こえてきた。
___もうお姉ちゃんがくる頃か。
後ろを振り向くと、小包を抱えた姉が手を振っていた。顔を見ると自然と笑顔になる。
姉が病室に入ってドアを閉めた途端、ふわりと病室の匂いが変わった。
___あ、私があげたストロベリーの香水。
去年の誕生日に、少し子供っぽかったかもと不安になりながらあげた香水だったけれど。姉はとても気に入ってよくつけているようだった。
「体調はどう?」
姉の問いかけに、うん、いいよ、と私は小さく頷いた。嘘ではない。ここ1ヶ月の中では随分と体調がいい日だった。「そう、良かった。」と微笑んだ姉の表情は、微かにくすんでいる。
「さっき部屋に来た時、ぼーっとしてたけど何考えてたの?」
その問にすぐには答えられなかった。また冬を見れるのかなって考えてたの、なんて言ったら姉はもっと悲しい表情をするに違いなかったから。私は胸がキュッとなって、なんでもない、と答えた。
姉がふと立ち上がって、またふわりと香水が香った。その香りから不意に、去年の姉の誕生日に苺のたくさん乗ったケーキを一緒につついたことを思い出した。私はまた胸がキュッとなった。
姉がポットのお湯を注ぎながら軽口をいう。そのやさしい声に思わず、口をついて出ていた。
「…やっぱり、なんでもなくない。」
すると姉はとても嬉しそうに、「やっぱりあるんじゃん。」と顔を上げた。
「苺、また食べられるかな。」
___姉とまた、大好きな苺を食べたかった。まだ私が小さかった頃、自分の誕生日なのに、1番大きな苺を私にくれていた。姉も苺が大好物なのに。
姉の瞳が揺らぎ、一瞬動きが止まったように見えた。けれど、次の瞬間には元の柔らかい表情に戻っていた。
「…夏苺っていうのがあるらしいよ。夏にもとれる苺だって。この辺にはなかったから、取り寄せてみる?」
夏苺…。夏にいちごが食べれるなんて知らなかった。私はすぐに頷きかけたけれど、自分との約束を思い出して横に首を振った。
___そう。今年の冬まで生きたら、生きられたら、ご褒美にいちごを食べるっていう約束。
それを口に出すと、姉の小さく息を飲む音が聞こえて、私はとっさに窓の方に視線を逃した。
きっと。きっと。
トクトクと震える胸を抑えて空に祈ると、手の甲がじんと暖かくなった。暖かい姉の手のひらだった。その手から姉の願いが胸の奥まで伝わってくるようだった。
___生きて。
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