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【単語ガチャ⑤】水たまり×ボールペン

水たまりに1本のボールペンが落ちていた。汚れてくすんでいたが、よく見ると美しい虹色をしたボールペンだった。気になって拾い上げると、インクが水たまりにさらさらと流れ出した。

慌ててこぼれないように平行に持ちあげると、インクはピタリと止まった。

水たまりに落ちたインクは少し水に流されて、雲のような形になった。

あ、雲みたい。

そう思った途端、ぼわんと水たまりから雲が飛び出した。

驚いて、その雲を見つめていると、ゆっくりゆっくり空へと昇っていく。

ふと触ってみたくなって、指先でツンツンと突いてみた。まるで、綿菓子のような弾力があった。ふうっと息を吹きかけると、その雲はゆっくり回転しながら風と共に流れていって、とうとう空と一つになった。

私は、わくわくしながら虹色のボールペンを見つめた。

もう一度水たまりの横にしゃがみ込むと、一番にカエルを思いついた。水面にペン先を付けると、さらさらとインクが流れ出した。カエルの頭、体を書いていく。そして最後にまつ毛を付けると、キュートなカエルが出来上がった。出ておいでと念じると、水たまりの中からぴょーんとカエルが飛び出してきた。

手に乗ったカエルはぬるっとしていて、形も大きさも普通のカエルと変わらないように見えた。でも、顔をのぞき込むとくるりんとしたまつ毛が生え、間違いなくさっき私が書いたカエルだった。

そのカエルはしばらく私の手の上に乗っかっていたが、何か思い出したように身じろきすると、またぴょーんと跳ねて、近くの草むらに消えていった。

感動して手の中のボールペンを見つめると、虹色がさっきよりも色あせて見える。

あわてて水たまりの中に戻したけれど、最初の輝きは戻らなかった。

どうしたものかとあたりを見渡していると、向こうの水たまりに虹がかかっているのが見えた。私はハッとしてボールペンを持って、その水たまりまで走った。そうして、ボールペンを沈めてみると、ゆっくりと輝きが戻ってきた。

あぁ、やっぱり。これは虹で出来たインクなんだ。

そう気づくとなんだか独り占めするのがもったいなく感じてきた。そう思って立ち上がったとき、遠くからランドセルを背負ったの女の子2人が歩いてくるのが見えた。

あの子たちが気づきますように。

そう願って、私は水たまりに背を向け歩き出した。


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