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葦原にて

ホタルが光ることをあきらめたかつての葦原には
鋭い葉先をもつ堅草がおい茂っている
もうだれも ことばを信じなくなった
かつてオレは水になることができたし
泥鰌(どぜう)になることもできた
雲にも
そのはるか彼方を飛ぶイヌワシにもなって空を飛んだ
それが遠い昔のようにもついさいぜんのようにも感じる
流れ着いた葦原の岸辺に枕飯を添えて
箸を立て
こうべを垂れる
ここがどんつきだが
静かな川の流れと青空は むかしのままだ
おそらく追放と私刑はこれからもつづくだろう
地の底に眠っている人々の
献身も 自己犠牲も無駄だった
でも
二つに割れた器を水にしずめると聴こえてくるよ
むかし耳を寄せ合って聴いた
どこか遠い国から届く短波ラジオのガーガの
音が

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