charmat


"出会いたくなかった"かと言われればウソになる。でも、"出会わなきゃ良かった"。


 私は1人行動が好きだ。よく1人で夜ご飯を食べに行く。仕事柄、夫も私も帰りが遅くなることが多い。夫が早く家に帰れない日は外で食べることにしている。

 いつもは安い定食屋さんで済ませるけど、その日はボーナスの日。ボーナスの日はいつも2人とも早く仕事を終わらせて、ちょっと豪華な食事にでも行く。けど、結婚生活が始まって以来初めて、夫に仕事が入った。

「仕事なら仕方ない。」

と笑って済ませたけど、やっぱり少し寂しかった。barでも行くか。1人でbarなんて独身のとき以来だな。少し若返った気がした。

 スマホで適当に検索して見つけたお店に入ると、そこは老舗のジャズbarらしかった。薄暗い店内にはカウンターに1人、男の人が座っているだけ。店内の控えめなBGMがよく聞こえる。私もカウンターに腰掛けると、店員さんが近づいてきた。

「ご注文は?」

「ウイスキー、ロックで。」

なんだか飲みたい気分だった。何杯か飲んで、お酒が回ってきた頃。

「お姉さん。」

誰かに呼ばれた。カウンターにいた男だった。

「ひとり?」

「そうですけど。」

「そんなに飲んで大丈夫ですか?」

「大丈夫です。」

 適当にあしらったつもりだったけど男は怯まない。男は私の手に目を落とした。

「お姉さん、結婚してるんだ。」

「してますけど?」

「…じゃあなんでひとりなの?」

「たまたまです。」

「たまたま1人でbar…?(笑)もしかして、旦那にデート断られた?(笑)」

「………」

あながち間違いではなくて、言葉に詰まった。男の細長い指が私の手に向かって伸び、結婚指輪を優しく撫でる。

「……図星?(笑)」

その誘うような手つきに私は強引に手を引っ込める。

「違うっ!!」

私は立ち上がり、お金を置いて急いで店を出た。


to be cotinue………

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