紙おむつの回収とリサイクル~鹿児島県・志布志市と大崎町、ユニ・チャームの取り組み~
前回の出張レポートでは、鹿児島県・志布志市と大崎町が、細やかなごみの分別回収とリサイクルにより、ごみの量の大幅な削減を実現したこと。「埋め立て処分場」は、40年以上使用期限を延ばしたことをご紹介しました。
そこで浮き彫りになったのが、残った埋め立てごみの15~20%(重量ベース)を”使用済み紙おむつ”が占めているという課題です。
今回は、志布志市と大崎町、そしてRefFプロジェクトが、いままさに取り組んでいる「使用済み紙おむつの回収と処理、リサイクル」について、現地でお聞きしました!
“世界初”を志布志市から。ユニ・チャームとの「使用済み紙おむつのリサイクル」のはじまりとは(志布志市役所)
最初に訪れたのは、志布志市役所です。
ユニ・チャームと志布志市が協働で行う、世界初の「紙おむつから紙おむつの再資源化」の取り組みは、志布志市のご担当者様が、直接、ユニ・チャームにご連絡いただいたことからはじまりました。
「志布志市としては、以前から紙おむつのリサイクル方法を模索しており、処理について検討する“紙おむつ協議会”も作っていました。とはいえ、コストや運用も含めて、市だけで解決するのは難しい、大きな問題です。そんな中、ユニ・チャームさんの紙おむつのリサイクルへの取り組みを知った当時の担当者が、コーポレートサイトにお問い合わせメールを送ったんです」
「現在、紙おむつの先行的なテスト回収は、志布志市の1/7の地域で行われています。紙おむつ分別回収のテスト地区では、最初は住民のみなさんによる自治会で説明をお願いしました。その後、1か月近くかけて、職員が直接、埋め立て処分場の現状やおむつリサイクルの実証実験のことなど『なぜ紙おむつの分別回収が必要なのか』の説明を行っていきました」
志布志市は、地球環境に対して取り組む意識が強い地域です。
「資源がない日本で、限られた資源を大切に長く使うことが重要」という真摯な思いがあったことも、実証実験の実現につながっています。埋め立てごみの重量1位は「紙おむつ」。未来の住民に負担をかけない道を探る(大崎町役場)
次にお伺いしたのは、志布志市と同じくRefFプロジェクトの協働パートナーであり、ごみの27品目分別を実現する大崎町です。
「平成9年の容器包装リサイクル法の施行以降、大崎町でも、空き缶や空き瓶、ペットボトルなど、ごみの分別回収を徐々に進めていき、現在では、高いリサイクル率を達成しています。埋め立て処分場の現状をお話しすることで『このままでは埋め立てる場所がなくなる』という課題を、住民のみなさんが自分事として受け入れてご協力いただいていることが大きいです」
大崎町の広報誌では、上手なごみの分別をされている方、ごみ拾いをされている方を紹介するなど、住民のみなさんが主役となった、分別回収を実現されています。
分別回収が進んだからこそ浮かび上がってきたのが「使用済み紙おむつの処理」という課題です。
「大崎町と志布志市の埋め立てごみの中で、重量1位は紙おむつなんです。ここを減らせるかどうかが次のチャレンジとなります。ごみの回収と処理は、運用するコストも踏まえて、継続できるシステムであることが重要です。焼却や埋め立てではなく、紙おむつのリサイクルが可能になれば、未来の住民にかかる負担を減らすことができます。
『いまのリサイクルによって埋め立て地はあと40年使える』。この話をした時に、子供たちから『40年では、自分たちが大人になった時にどうするの?』と聞かれました。埋め立てごみはまだまだ減らさなければならない、とあらためて決意しました」
ごみの回収・処理は、人々の暮らしに直結する問題です。
自治体では、いまの子供たち、またその先まで地域で暮らす人々、そして、地域全体のことを考えられて、リサイクルを選択されているんですね。
自治体とユニ・チャームをつなぐパイプ役。手さぐりではじまった「紙おむつのリサイクル」(RefFプロジェクト渉外担当・織田さん)
志布志市・大崎町と連携し、そおリサイクルセンターで紙おむつの水平リサイクルの実証実験に取り組む、RefFプロジェクト。コネクティング役の織田さんに、志布志市・大崎町との取り組みについてお聞きしました。
「ユニ・チャームは紙おむつや生理用品を作る会社です。使っていただいた後の商品を再資源化するプロジェクトは、これまでにない新しい取り組みでしたので、一から手探りで学ぶことばかりでした」
ごみ処理施設やその処理については、各自治体での方針に沿って実施されます。各自治体や環境庁、リサイクルに関わる会社、団体と交渉を進める上でも、廃棄物処理法をはじめとした法律に沿って進める必要があります。
「家庭から出る一般ごみの処理は、各自治体が責任を担っています。使用済み紙おむつも、公共のルールに準拠して、適正に処理しなくてはいけません。それから、住民のみなさんの税金を使用していますから、自治体の予算を得て、議会で承認される必要があります。そういった意味でも、民間企業が行うプロジェクトに比べて、はるかに難しいプロセスがありました」
ユニ・チャームとしても新しい挑戦であるこのプロジェクト。
織田さんのやりがいを聞くと、こう教えてくださいました!
「リサイクルは人と人をつなげることで実現するもの。自治体や人、団体など、異なる立場のさまざまなプレイヤーをつなげて、”紙おむつの循環ループ=人のループ”の仕組みを築き上げていくことです」
紙おむつの回収への取り組み~大人用紙おむつ「回収」の心理的なハードルを下げるために~(志布志市役所・大崎町役場)
紙おむつのリサイクルは、住民のみなさんに分別していただくことで、実現できるもの。
志布志市と大崎町では、住民のみなさんが使用済みの紙おむつを出しやすくするために、紙おむつ回収専用袋の用意や回収ボックスの設置など、回収テスト地区において、さまざまな取り組みをされています。
また、両自治体とも、使用済みの紙おむつを出せる回数にも工夫があります。
これまで、紙おむつは一般ごみと同じく、週1回の回収でした。
ですが、紙おむつのテスト回収がはじまってからは、紙おむつも生ごみと同じタイミングで週3回、ごみ出しできるようになったんです。
紙おむつのごみは、毎日必ず出るもの。
ごみを出す頻度が増えることで、ニオイが気になる使用済み紙おむつを自宅に置いておく必要がなくなり、住民のみなさんにも喜ばれているそうです!
とはいえ、大人用の紙おむつを“ごみ”として見える形で出すのは、住民のみなさんの中でもまだ気持ち的なハードルがあるのだとか…。
「紙おむつの消費量で考えると、使用済みの紙おむつは大人用が7割、子供用が3割程度になるはずです。ですが、実際に回収される紙おむつの5割は子供用のもの。住民のみなさんの中に『大人用の紙おむつをごみとして出すのが恥ずかしい』という意識があるのではないでしょうか」(志布志市役所・留中様)
そこで、志布志市では専用のごみ袋にこんな工夫をはじめました。
「リサイクルとして回収するごみは両自治体とも回収袋の外側に記名をして出すのがルールですが、紙おむつ専用のごみ袋は、名前記入欄を裏面(内側)に用意して、誰が出したごみか見えにくくしています」
紙おむつの回収は、まだまだ試行錯誤中です。
「紙おむつを出すのが恥ずかしい」という意識をいかに払拭できるか、志布志市役所のみなさんにお話を伺う中で「紙おむつ回収の説明会で、ある住民の方が『今はまだ使っていなくても、いずれはみんながお世話になるもの』と発言してくれて、みんなで取り組んでいくことに前向きな姿勢を示してくれたことで、市としては非常に勇気づけられた」というエピソードも教えていただきました!
紙おむつリサイクルの広がり、次世代への発信
日本でも有数のごみの分別27品目を行う、志布志市と大崎町。
その道のりは、どちらの自治体も平坦ではありませんでした。市や町の担当がごみの分別について学び、回収のシステムを整え、住民のみなさんに時間をかけて説明を行い…と、さまざまな過程、ご苦労があったとお聞きしています。
ですが、両自治体とも、住民のみなさんが協力し、試行錯誤されることで、現在の「日本有数のごみリサイクル」を確立されました。
紙おむつのリサイクルも、同じように自治体、住民のみなさんと協力しながら、少しずつ進めていければ…そんな風に願ってしまいました。
それから、未来を担う若い世代に「ごみリサイクル」について伝える取り組みもはじまっています。
各自治体では、子供たちがそおリサイクルセンターを見学し、資源ごみの行方について理解を深める機会も持たれています。
まだテスト段階の紙おむつの回収とリサイクルですが、こうした取り組みで、地域の方や小さなお子さん、学生さんにも、紙おむつのリサイクルを身近に感じてもらえたら嬉しいです!
あとがき
今回の現地レポートで、私たち、RefFプロジェクトがめざす「紙おむつの水平リサイクル」を実現するには、技術や運用の課題はもちろん、「使用済み紙おむつへの向き合い方を、消費者のみなさんの立場から考えていくことが必要」だと強く感じました。
それから、そおリサイクルセンターで目にした、資源ごみの山にも衝撃を受けました…。私自身も、着なくなった洋服をリサイクルに回したり、マイボトルを持ち歩いたりするようになりました。
自宅でごみの分別をしながら、いま、当たり前に行われている空き缶や空き瓶のリサイクルも各自治体や住民のみなさんが時間をかけて根づかせていったんだな、と取材で伺ったお話を思い返しています。
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「紙おむつの水平リサイクル」も、これからの時代の、新しいごみ問題の解決法のひとつとして提案してきたいです!