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使用済み紙おむつは、もう“ごみ”じゃない!紙おむつの水平リサイクル「RefFプロジェクト」に挑んだ、熱き社員たち【開発秘話(前編)】

-編集部前回、RefFプロジェクトが “ある1人の社員の強い想いからはじまった”ことをご紹介しました。

今回のnoteでは、本プロジェクトを牽引した、現・リサイクル事業推進室長の亀田さん、そして、その熱意に共感し、技術開発をゼロから担った小西さんとともに、本プロジェクトの12年にわたる道のりを2回に分けてお伝えします!

ユニ・チャームでも前代未聞のこのプロジェクトは、一体、どんな風にはじまったのか?

課題意識を持ったきっかけ、プロジェクト発足の経緯、画期的なリサイクル技術の誕生秘話などなど、お2人に色々なお話を聞いてみました!
私も一社員として、いいえ、未来の地球のために環境問題を考える1人の人間として、目から鱗が落ちた、興奮冷めやらぬインタビューでした。

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亀田さん:1984年、技術職としてユニ・チャーム入社。ナプキン工場の設備開発、開発戦略などを経て、現在はリサイクル事業推進室長。会社員人生を賭けて、RefFプロジェクトを推進してきた発起人。新しいことをしたり、工夫を考えたりすることが好き。趣味の釣りでも、つい釣り具の仕掛けに工夫をこらしてしまう。
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小西さん:1994年、技術職としてユニ・チャーム入社。おしりふきをはじめとした、トイレに流せる素材(水解素材)、バイオマス素材の研究開発など、環境と密接に関わるリサイクル技術に携わる。現在、リサイクル事業推進室所属。鹿児島県・志布志市/大崎町への出張も多い中、子どもと過ごす時間を大切にしている。

使用済み紙おむつは、捨てられるだけなのか?

―編集部:亀田さん、小西さん、こんにちは。今日は、noteにRefFプロジェクトの記事を紹介する編集部として、お話を聞きにきました。このプロジェクトは、水平リサイクルに強い想いを持つ亀田さんと、そこに共感した小西さんが中心となって動き出したと伺っていますが、どんな風にはじまったのか、教えてください。

亀田さん:2010年、ナプキンやおむつの吸収材の開発研究を行う部署で、既存のリサイクル事例についてリサーチを行ったのが最初です。調査を進めていく中で、使い捨てのビジネスモデルには、これからの社会で解決すべき課題がいくつもあることを痛感しました。

編集部:解決すべき課題とはなんでしょうか?

亀田さん:リサイクルをやるべきだと思った主な要因に「ごみの廃棄量の増加」「CO₂の排出量」「限られた資源」があります。

1つ目の「ごみの廃棄量の増加」について、日本は高齢化のため、大人用の紙おむつの需要が高まり、廃棄量が年々増えていくという試算がされています。

小西さん:当時、「日本の焼却ごみの中で、使用済み紙おむつの占める割合が3.5%で、2030年には7%と倍になる」とも言われていました。

編集部:紙おむつのごみは、そんなに増えていくんですか…!

亀田さん:そうなんです。ごみを焼却する際にはCO₂(二酸化炭素)が発生しますが、当然、ごみが増えると2つ目の「CO₂の排出量」そのものも増えます。また、紙おむつは水分を含んでいるため燃えにくいという特性があります。

3つ目の「限られた資源」について、紙おむつに使われている資材は、貴重な森林資源や石油資源から作られています。需要の高まりに合わせた、持続可能な材料調達を真剣に考える必要がありました。

これらの現状を考えたときに、「使い捨て紙おむつを製造している会社として、社会に対して責任があるのではないか?」と強く感じるようになりました。残りのユニ・チャーム社員人生すべてをかけてでも解決したいと強く思ったんです。

編集部:なるほど、この3つの課題がお2人の使命感に火をつけたのですね…! ところで、そんなお2人の出会いはどういったものだったのでしょうか?

亀田さん:当時、所属部署の中に、リサイクルも含んだ環境技術開発のチームがあり、小西さんは非石油由来の素材開発や使用済紙おむつの処理方法の研究開発を担当していたんです。そこで小西さんに、「使用済紙おむつはリサイクルするべきではないか?」というアイデアを持ちかけてみたんです。

編集部:亀田さんから使用済み紙おむつの処理やリサイクルについて声をかけられた時、どのように感じましたか?

小西さん:私自身は、もともとおしりふきやおそうじ用品などの、トイレに流せる商品を研究開発していました。環境にも密接に関係している商品ですから、リサイクルについても勉強して興味がありましたが、使用済み紙おむつをリサイクルするという発想は無かったので、最初は驚きました。

でも少し考えてみて、長年素材開発に関わってきた経験から、実現できる可能性はあると直感的に思い、とても胸が高鳴ったのを覚えています。

というのも、紙おむつに使われている素材はどれも高品質で、短時間の使用で捨てられてしまうのはもったいないと常々思っていたからです。自分が開発した素材が、リサイクルされて2度3度と繰り返し人々の生活に役立つと考えると、とてもワクワクしましたね。

ごみから資源へ。自社で開発する「価値を生むリサイクル」への転換

―編集部:なるほど、そういった経緯でお2人がタッグを組むことになったんですね…! そして3つの課題の解決を目指して、プロジェクトが走りだした、と。ちなみに、似たような技術を研究開発している会社や団体は、他には無かったのでしょうか?

亀田さん:使用済み紙おむつを資源化する会社は、先駆者として存在していました。ただ、他社は「紙おむつに戻す、水平リサイクル」という観点ではなかったんです。それよりも「建材や固形燃料など、他のものに有効活用させていく」という考え方でした。

しかし、3つ目の「資源」という課題を考えると、紙おむつのメーカーであるユニ・チャームとしては、紙おむつの水平リサイクルに取り組まなければ意味がありません。

そして、水平リサイクルを実現するために、他社との協業も試みたのですが、やはり既存の技術ではどうしてもうまくいきませんでした…。

―編集部:そうだったんですね…。うまくいかなかったのは何故でしょうか。

亀田さん:紙おむつの資材として再生するためには、衛生面はもちろん、より高品質な状態での再資源化が必要だったのですが、既存技術の延長線上では実現できなかったのです。

ユニ・チャームがリサイクルを手掛けるのであれば、もう一度、紙おむつとして使えるぐらいの品質に戻せなくてはいけません。「こうなったら新しい技術を開発するしかない」と奮起し、ゼロからの技術開発をスタートしました。

そういった声がメンバーから上がったことが嬉しかったですね。ユニ・チャームは長年紙おむつを造り続けてきたので、得意分野で自分たちの知見を発揮できるとも思いました。ただ、いざ検討着手してみると、技術的難易度の高さに呆然としてしまいましたが…(苦笑)。

高額な研究開発費の承認を得られるのか?「そこに “ユニ・チャームらしさ”がある!」と背中を押した社内協力者たち

―編集部:でも、亀田さんの熱意が、小西さんたち、チームのものとなっていったんですね。

亀田さん:次の課題は、本格的な技術開発をスタートするために、経営陣の承認を得ることでした。

水平リサイクルにこだわって、ゼロから技術開発をするとなると、莫大な研究開発投資が必要になりますから。ですが、なかなか経営陣の承認を得ることができず、悩んでいた時期がありました。

―編集部:新規事業にはそういった流れがあるんですね…。そんなに大変だとは知りませんでした。どうやって乗り越えられたのでしょうか?

亀田さん:当時、経営企画室のメンバーが、水平リサイクルについて「共生社会の実現を目指す、ユニ・チャームらしい取り組み。絶対にやるべきです!」と背中を押してくれたんです。

「資源」という課題についても、「原料となる森林資源や石油資源は、日本国外からの輸入に頼っているため、将来的に、おむつを必要とする方に提供し続けることができなくなるかもしれない」と、大いに共感してもらえたんです。

具体的には、高額な研究開発費に対して、経営企画室の観点から「水平リサイクルの技術を使い、どのように投資回収していくか」のアドバイスをもらいました。

これにより、回収プランの道筋が見えてきたため、経営陣にデータとしても説明できるようになり、諦めることなく、開発を続けていくことができました。

―編集部:水平リサイクルに共感したメンバーからの後押しが心強いですね。

亀田さん:ほかのメンバーの協力があって、初めて、事業部を超えて“プロジェクトをどう具体的化していくか”のスタートラインに立つことができたんです。会社としてESG経営へと転換したタイミングでもあり「これからプロジェクトを広げていこう!」という動きになっていきました。

「紙おむつのリサイクルで、衛生性を担保できるのか?」社内からの懸念の声

―編集部:ちなみに、水平リサイクルのプロジェクトが走り出した当時、社内からの反応はいかがでしたか?

亀田さん:「お客様にとって心理的なハードルがあるのではないか?」という懸念の声は少なくありませんでしたし、「人の使ったオムツなんて買ってくれる人、居る訳ないじゃない?」と嘲笑に近い声を耳にして、歯ぎしりしたことも忘れられません。

―編集部:えっ、そんなことがあったんですか…!

小西さん衛生用品は、繰り返し使わないことで衛生性を担保しているので、リサイクルには最も適さない商品の1つ。そのハードルは高かったですね。

亀田さん顧客志向にこだわるユニ・チャームとして、衛生用品が清潔で安全であることは最大のプライオリティ。そこをクリアできるのかは大きな課題でした。

―編集部:言われてみれば、たしかにそうです。どのように解決されていったのでしょうか?

亀田さん:衛生性を担保することを最優先課題に設定し、小西さんにはそこに尽力してもらいました。

ユニ・チャームには、お客様に安心して商品を使っていただけるよう品質を保証する専門部隊があります。この品質保証部と協力しながら、使用済み紙おむつという再生資材の品質を保証する、新たな基準作りに取り組んでいきました。

小西さん:使用済み紙おむつの水平リサイクルは先例がないものでしたので、衛生性で自他ともに認めてもらえるエビデンス作りが本当に大変でした。

―編集部:どのように、衛生性を担保するという高いハードルをクリアしていったのでしょうか? 次回は、使用済み紙おむつから、資源を取り出す、リサイクル技術について教えてください。

あとがき

ペットボトルや空き缶のリサイクルは、今では、当たり前。
でも、使用済み紙おむつをリサイクルする、なんてアイデアを、10年以上前に思いついたこと。

そして、それを実現しようと、社内のメンバーを巻き込んで果敢に動いた亀田さん。そこに共感した小西さんの情熱にも驚きました。

新しいプロジェクトをゼロからスタートして、部署を超えて協力することの大変さを、お2人のお話で実感しています。

それにしても、使用済み紙おむつから資源を取り出す“水平リサイクル技術”とは、一体、どんなものなのでしょうか…?
(汚れた紙おむつをどうやってきれいにするのか、想像できません)

次回のnoteでは、この疑問について、小西さん中心にお聞きしたいと思います。


ユニ・チャームは、持続可能な社会に向けたさまざまな環境問題の解決に、以前より取り組んでいます。2020年には「共生社会」の実現に向けて、中長期ESG目標を定めています。