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“使用済み紙おむつのリサイクル”は実現できるのか?試行錯誤の末、たどり着いた「最後の一手」【開発秘話(後編)】

編集部:前回に続き、RefFプロジェクトの発起人である亀田さん、そして、その想いに共感して、ともに歩んできた小西さんに、このプロジェクトの歩みについてお聞きします。

前回は、お2人のお話を聞いて、衛生用品の安全性や便利さは「ごみの廃棄量の増加」「CO₂の排出量」「限られた資源」という課題も併せ持つことをあらためて考えさせられました。

水平リサイクル技術、実現へのチャンレジを決意した2人は、経営陣の承認を得て、本格的な技術開発のスタートに乗り出します。ですが、これは前代未聞のチャレンジであり、技術的にもその道のりは険しいものでした。

何より、高いハードルとなったのは、リサイクル用品における“衛生性の担保”。試行錯誤を繰り返す中でたどり着いたという、「使用済み紙おむつをきれいにする」技術とは、一体、どんなものだったのでしょうか?

亀田さん:1984年、技術職としてユニ・チャーム入社。ナプキン工場の設備開発、開発戦略などを経て、現在はリサイクル事業推進室長。会社員人生を賭けて、RefFプロジェクトを推進してきた発起人。新しいことをしたり、工夫を考えたりすることが好き。趣味の釣りでも、つい釣り具の仕掛けに工夫をこらしてしまう。
小西さん:1994年、技術職としてユニ・チャーム入社。おしりふきをはじめとした、トイレに流せる素材(水解素材)、バイオマス素材の研究開発など、環境と密接に関わるリサイクル技術に携わる。現在、リサイクル事業推進室所属。鹿児島県・志布志市/大崎町への出張も多い中、子どもと過ごす時間を大切にしている。

安全で清潔な衛生用品のリサイクルを実現するには何が必要か?

編集部:これまでのお話で、プロジェクトのはじまりについては、よくわかったのですが、正直、「使用済み紙おむつをきれいにして、リサイクルする」という技術について、イメージできていません…。

亀田さん:私たちも、現在の“オゾン処理技術”にたどり着くまで、さまざまな紆余曲折がありました。そのプロセスの合間には、社内からも「本当に、衛生性を保った商品が実現できるの?」という声が耳に入り、悔しい思いをしたこともあります。

編集部:先ほど(前回)お聞きした、“ユニ・チャームとして、衛生用品が清潔で安全であることは最大のプライオリティ。”という言葉が重くのしかかってきます。小西さんは、このプロジェクトがはじまったときに、技術者として開発できる見通しはあったのでしょうか?

小西さん:そもそも、最初は「何をどのように検討したら良いか?」すらわからない状態。

見えている道筋はなく、全くゼロからの状態でのスタートだったんです。

ですが、亀田さんが「悩む暇があったら、身体を動かしながら考えよう!」と引っ張ってくれて。バケツの中に使用済み紙おむつと薬品を入れて混ぜて、検証するところからはじまりました。

編集部:バケツで…! 本当に地道な作業だったんですね。

小西さん:紙おむつを作るのは、ユニ・チャームの得意分野で知見がありました。ですが、リサイクルのために分解して取り出す、というのは未知の領域

既存の技術をはじめ、自分たちが思いつく方法を片っ端から試していきましたが、どれも一長一短でうまくいきませんでした。

試行錯誤の連続。水平リサイクルを実現する、汚れやにおい、菌、化学物質が残らない「きれいな資源」は取り出せるのか?

編集部:どのような課題があったのでしょうか?

小西さん:清潔で安全である、きれいな資源とは、「汚れ」や「におい」「菌」を除去できること、そして、「これらを除去するときに使用した化学物質が残留しないこと」だと考えていますが、これらの全てを満たすのは本当に難しかったです。

例えば、ある処理では使用済み紙おむつについた “汚れ”や“におい”、“菌”が残ってしまう。ある処理では殺菌できない。ならば、と思ってほかの処理を試すと“汚れ”“におい”“菌”は除去できますが、今度は、除去のために使用した化学物質が紙おむつから取り出した資源に残留してしまう…といった具合です。

結果的には、オゾン処理技術にたどり着くまで、何十種類もの処理方法を検討したことになります。

編集部何十種類!!(私なら、途中でくじけてしまうかもしれません…)。

亀田さんきれいな資源を取り出すことはもちろん、吸水性や柔らかさなど、素材の品質も保たなくてはいけません。そういった面でも試行錯誤がありました。そもそも、水平リサイクルとは「使用済みの製品を材料に、もう一度、同じ製品にする」というもの。ペットボトルを例に考えるとわかりやすいかもしれません。

※紙おむつ水平リサイクルイメージ図

出典:図解でわかるユニ・チャーム紙おむつリサイクル

小西さん:紙おむつに使用される“パルプ”“高分子吸水材(SAP)”“プラスチック”をきれいな状態で取り出すことに挑戦していました。が、これらの素材をきれいな状態で取り出すことが非常に難しかったんです。

※紙おむつイメージ図

※紙おむつの吸収体の中の、パルプ、高分子吸水材(SAP)が、水分を吸収して閉じ込めます。

検証を重ねても上手くいかず、もう打つ手がなく、諦めるしかない…という状態まで追い込まれていました。

〇RefFプロジェクトで、使用済み紙おむつから取り出そうとしているもの
紙おむつに使用されている、以下の素材。
・パルプ
・高分子吸水材(SAP)
・プラスチック

やっと見つけた!最後の最後でたどり着いた“オゾン処理技術”なら、水平リサイクルが実現できる!

編集部:そういった苦しい状態から、どうやって、いま、RefFプロジェクトで使用されている“オゾン処理技術”を見つけたのでしょうか?

小西さん:まず、自分たちの専門領域外の開発のため、亀田さんとともに、色々な大学に相談に行き、アドバイスをいただきました。そうした、外部の識者からの知見を取り入れ、オゾン処理の技術にたどり着いたんです。

実際に、使用済み紙おむつで検証しても、衛生性という「安全・安心の担保」が実現できることがわかりました。まさに最後の一手でしたね。

編集部:ついに、解決の糸口が見えてきたんですね! ところで、オゾン処理技術では、なぜ、使用済み紙おむつがきれいになるんですか?

小西さん:オゾン(O₃)は、O(酸素原子)が3つ結びついたものです。
ごくごく簡単にいうと、オゾンが不安定で、O(酸素原子)を離したがる性質を利用しています。つまり酸化のことですね。

※オゾンの性質イメージ図

亀田さん:O(酸素原子)は、酸化させる力が強く、殺菌、漂白、脱臭に大きな力を発揮します。 オゾン処理による、殺菌・脱臭・脱色、有機物の分解といった効果は、浄水場でも活かされているんですよ。処理に使用するオゾンは、時間が経つと酸素に戻るので残留せずに安全なんです。

編集部:なるほど、浄水場で使われている技術なら安心ですね。

小西さん:さらに、実証実験を重ねていくうちに、オゾン処理技術には、殺菌・脱臭・脱色のみならず、たんぱく質も分解するパワーがあることがわかったんです。

この技術なら、紙おむつに使用される“パルプ”、“高分子吸水材”“プラスチック”をきれいな状態で取り出して、再生することができる。

暗中模索の中、一気に光が差した気分でした!!

編集部:それは感動ですね…!! 

小西さん:これが実現できた時には、今の使い捨てのビジネスを大きく方向転換できる可能性を秘めていると感じていました。

喜んで亀田さんに報告すると、当時、自宅の洗濯機の買い替えを検討していた亀田さんは、オゾン式洗濯機を探して購入していました。当時、「毎日自宅で洗濯実験だ!」と喜んでいたことが記憶に残ってます。

エコプロダクツ展での初お披露目。紙おむつのリサイクル製品は受け入れられるのか?

編集部:その後、2015年にはエコプロダクツ展に出展されています。

小西さん:亀田さんも言っていたように、当時社内では、「使用済みの紙おむつをリサイクルするのはお客様の心理的ハードルも高いだろう」という声も非常に大きかったんです。

技術的な課題には目途がついたものの、私自身も「紙おむつのリサイクル品は、お客様の心理的に受け入れられるのだろうか?」という不安を抱えていました。

編集部:そうだったんですね…。実際の反応はいかがでしたか?

小西さん:実際、エコプロダクツ展に来場されたお客様には「紙おむつがリサイクルできるの?」と、とても驚かれました。さらに、複数のお客様から「使ってみたい」という意見もいただいたんです。

※写真はともに『エコプロ2018』出展(2018年時、エコプロダクツ展の様子です)

編集部:それは嬉しい反応ですね!

小西さん:紙おむつのリサイクルということに、抵抗感よりも、取り組みの重要性・素晴らしさの方を理解していただけた。そこで気持ち的に非常に前向きになれましたし、心強さを感じました。

このままではごみ埋め立て場が満杯になる――自治体が抱えていた課題

編集部:現在、RefFプロジェクトは、自治体とタッグを組んで活動しています。どうやって、志を同じくする自治体と出会ったのでしょうか?

亀田さん: そもそも、水平リサイクル事業を実現するためには、自治体、さらに地域住民の方に「使用済み紙おむつの分別回収」の協力を得なくては成り立ちません。

編集部:たしかに、資源ごみとして、紙おむつを回収しないとはじまりません…。

亀田さん:一体、どこの自治体に協力してもらえるのか?
必死に探し回っていた中で、鹿児島県志布志市との出会いがあったんです。

編集部:なぜ、志布志市と連携できたのでしょうか?

亀田さん:志布志市にはごみ焼却場がありません。そのため、当時、埋め立てごみのうち、使用済み紙おむつが1/5を占め、このままではごみ埋め立て場がいっぱいになってしまうという課題を抱えていました。

また、志布志市は27品目と、全国でも有数のごみ分別を実施していたため、紙おむつの分別についても協力していただきやすかった。

編集部:志布志市が抱えていたごみの課題と、紙おむつのリサクルに取り組むRefFプロジェクトの目的がマッチした。さらに、細やかな分別ができるという市の特性と、使用済み紙おむつのみを分別回収する必要があるRefFプロジェクトのニーズもマッチしたんですね!

亀田さん
:そうです。志布志市と話し合いを重ねる中で、水平リサイクルという高い目標にも共感いただき、2016年にパートナーシップを締結し、使用済紙おむつの分別回収・リサイクルの実証実験をスタートすることができました。地域住民の方々には、試験的な紙おむつの分別回収にご協力をいただいています。

写真左上/右上:大崎町のごみの分別回収の様子。写真左下/右下:そおリサイクルセンターに収集されたごみ。

編集部:2018年には志布志市に隣接する、大崎町もRefFプロジェクトに参加されています。

亀田さん:リサイクル設備は、大崎町にある「有限会社 そおリサイクルセンター」に設置されていて、両自治体から分別回収された使用済み紙おむつを用いて、技術検証が行われています。そして、2022年8月現在、使用済み紙おむつから衛生的に分離された資材を一部使用した製品を、鹿児島県内の介護施設様で実際に使いはじめてもらいました。

編集部:ついに、ですね! プロジェクトの発端からここまでのお話でも、本当に長い道のりであることを実感いたしました。亀田さん、小西さん、本日はありがとうございました!

あとがき

お2人のお話を聞いて、全く新しいプロジェクトを立ち上げ、それを実行に移して、お客様のもとに届けるというのは、なんて大変で難しいんだろうと、考えさせられました。

一方、RefFプロジェクトから生まれた「紙おむつ」を実際にみなさまにお届けして、使っていただくことに、ワクワクしています!

これからも、引き続き、RefFプロジェクトのさまざまな活動をご紹介していきますね!


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