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世界の紙おむつリサイクル事情~幼虫で紙おむつを分解!?ユニ・チャーム インドネシアのチャレンジ~

前回記事(「今さら聞けない、リサイクルの基本!~水平リサイクルがもたらす未来~」)で、海外のごみ処理事情に興味をもった編集部。
私たちが扱う紙おむつは、ほかの国では、一体どんな風に処理されているのでしょうか?

ユニ・チャーム インドネシアのユニークな取り組みを、経営企画室の松浦さんにお聞きしました!さらに、海外や他企業での紙おむつ処理についても紹介します。

幼虫が紙おむつを食べる!?ユニ・チャーム インドネシアの紙おむつ処理チャレンジ①

私たち、RefFプロジェクトが目指しているのは「使用済み紙おむつから紙おむつ」への水平リサイクル。ところで、ユニ・チャームでは、ほかの方法でも使用済みの紙おむつの処理に取り組んでいるんです。

ユニ・チャーム インドネシアでは「Ethical Living for SDGs」をコンセプトに、さまざまな環境活動を行っています。

「Ethical Living for SDGs」の取り組みについて語る、ユニ・チャームインドネシアの石井社長。
※「Ethical Living for SDGs」の詳細についてはこちらをご確認ください。

そうしたチャレンジの中のひとつが「幼虫に使用済みの紙おむつを分解させる」プロジェクトなんです。幼虫が使用済み紙おむつを分解することで、環境に優しい方法で、紙おむつのごみを減らすことを目指しているそうです。

一体、どのように行っているのでしょうか?
実証実験を担当する、経営企画室の松浦さんにお話を聞きました。

経営企画室室長の松浦さん。2015年から2021年まで、ユニ・チャーム・インドネシアで経営企画とSDGsを担当。

ー幼虫に紙おむつを分解させる実証実験について教えてください。

松浦さん「アメリカミズアブの幼虫“マゴット”に、使用済み紙おむつの主原料であるパルプを食べさせて分解します。幼虫の排泄物は肥料に、幼虫は魚のエサにして、自然に還元することを目指すプロジェクトです」

―幼虫に食べさせるという処理方法にとても驚きました。そのアイディアはどこから生まれたのでしょうか?

松浦さん「この実証実験は、インドネシアのバイオマグ社と協力して行っています。バイオマグ社はすでに“生ごみをマゴットに食べさせて分解させる”ビジネスを実現させていました。その取り組みが紙おむつにも活用できるのではないかと考えたんです」

―生ごみの処理という実績があったからできたことなんですね!実証実験で苦労された点はありますか?

松浦さん「当初は、使用済み紙おむつの排泄物自体は幼虫が食べて分解するものの、紙おむつの主原料であるパルプは固いため食べませんでした。
そのため、酵素を入れてパルプを糖化し水っぽくやわらかくして、幼虫が分解しやすくしました。酵素の配合を調整し、実証実験を続けることで、パルプも食べるようになったんです

ちなみに、紙おむつの不織布に使用されているプラスチックはマゴットが分解できないため、人の手で取り除いているのだとか。
今後は、酵素の種類や配合、量の組み合わせを変えて、より効率的に分解できる方法を探っていかれるそうです。

紙おむつは川に捨てられていた!ユニ・チャーム インドネシアの紙おむつ処理チャレンジ②

ーそもそも、なぜ、使用済み紙おむつの処理に取り組まれたのでしょうか?

松浦さん「インドネシアの一部の地方では、『赤ちゃんが身につけていた紙おむつや衣服を焼却処分すると、赤ちゃんの肌がただれる』と信じられていて、紙おむつが川にそのまま捨てられているという状況がありました。
インドネシアで、ユニ・チャームの紙おむつはシェアNo.1です。
私たちの会社の紙おむつがそのまま川に浮かんで、ほかのごみと一緒に山となって川をせき止めている。そのような状況に強い課題感を持ちました」

現地では、紙おむつ以外にも多くのごみが山積みになっていました。

―衝撃的な光景ですね…。インドネシアで、ごみ全般の分別回収についてはいかがでしょうか?

松浦さん「ごみの分別回収の意識はまだ全く浸透しておらず、大人への啓蒙活動に加えて、児童への啓蒙活動も行っています。例えば、小学校に家庭から出たプラスチックや空き缶などを持ってきてもらい、それを換金して文房具を購入し、児童に渡しています。まずは、“分別が資源になる”ことを実感してもらうのが目的です

児童向けに、ごみの分別が資源になることをわかりやすく説明するアニメーションを制作。小学校の道徳の授業の中で紹介しています。

松浦さん「ごみの分別回収が行われていないからこそ、“燃えるごみ、燃えないごみ、ペットボトル、紙おむつ”のように、最初から紙おむつを組み込んだ分別回収のシステムを構築するチャンスがあると考えています」

今後はインドネシアの環境林業省や教育機関、他企業など、取り組みに賛同していただける仲間を募りながら、プロジェクトを進めていかれるそうです!

イギリスには使用済みおむつから作られた道路も!ヨーロッパでの紙おむつのリサイクルの取り組み

ほかの国では、紙おむつの処理方法としてどんな事例があるでしょうか?
サーキュラーエコノミーやサステナビリティ関連の記事を多く手がけられている、ドイツ在住のライター、クリューガー量子さんにヨーロッパの事例を中心にお話を聞きました。

クリューガー量子さん。ドイツ在住ライター。ドイツ・ハイデルベルク市公認ガイド。国内外のサーキュラーエコノミー、サステナビリティに関連する記事を多く提供しています。

―ヨーロッパでの紙おむつのリサイクル例について教えてください。

クリューガーさん「イギリス・ウェールズ政府とベビーケア製品ブランドのPura、紙おむつリサイクル企業のNappiCycleが協力して、使用済み紙おむつを再利用した道路を完成させました。10万枚以上の使用済み紙おむつから回収されたプラスチック繊維を利用してペレットを作成し、アスファルトに混ぜて道路が作られています」

―とてもユニークな取り組みですね!紙おむつをリサイクルする例はほかにもあるのでしょうか?

クリューガーさん「EUが資金提供し、7か国から13のプロジェクトパートナーが参加した『Embraced』というプロジェクトがあります。Embracedは、使用済み紙おむつに含まれるアンモニアを回収し、化学原料として再利用することが目的でした。
ほかにも、イタリアの衛生用品の製造企業であるFater社では、使用済み紙おむつの繊維や吸収剤から猫用のトイレ砂、プラスチックから洗濯かごなどに再利用しています。また、ドイツ企業Remondisのオランダ支社は、年間1万5千トンの紙おむつを処理できるリサイクル施設をオープンし、紙おむつから取り出したプラスチックで植木鉢などを製造しています」

―さまざまな取り組みがされているんですね。このようなヨーロッパでのリサイクルの事例と比べて、日本の取り組みについてはどう思われますか?

クリューガーさん「お話ししたヨーロッパの例はダウンサイクル。水平リサイクルという例は見当たりません。紙おむつのリサイクルに関しては、決してヨーロッパのほうが進んでいるとは言えず、日本のほうが進んでいるのではないでしょうか」

世界でも、紙おむつのごみという課題を抱えているのは同じ。
使用済み紙おむつの分別回収やリサイクルの難しさ、といった課題も同じように抱えていて、リサイクルの実現方法を探しているんですね。

使用済み紙おむつから生まれた「燃料ペレット」。マレーシアでも行われた実証実験とは

日本国内でも、紙おむつのリサイクルに取り組んでいる会社があります。
株式会社スーパー・フェイズが独自開発した紙おむつ処理機の「SFDシリーズ」は、使用済み紙おむつから燃料ペレットを生成。ごみとして捨てられる紙おむつを燃料資源として生まれ変わらせています。
代表取締役社長の木村さんにお話をお聞きしました。

株式会社スーパー・フェイズ 代表取締役社長 木村さん。1977年㈱空間企画21設立。1999年の社名変更を経て、2004年以降は環境関連機器の開発・製造・および販売に専念。使用済み紙おむつの燃料化システム「SFDシステム」は国内7か所で導入、6か所でテスト導入されています。

―使用済みの紙おむつを燃料ペレットにリサイクルする「SFDシステム」について教えてください。

木村さん「SFDシステムは『使用済み紙おむつの燃料化装置による処理から生成燃料の活用を含む、リサイクルシステムとして開発しました。高温殺菌、脱臭機構、水を使わず、排水が出ないのが特徴です。使用済みの紙おむつをごみ袋ごとSFDシステムに投入し、破砕・乾燥することで、わずか1日で燃料ペレットを生成できます。においもなく衛生的な処理が可能です」

(写真左)2021年北海道の廃棄物処理組合の導入事例。SFD-600機。(写真右)同年東京都「使用済み紙おむつのリサイクル推進に向けた実証事業」の様子。SFD-120 1台設置(車上積載)。 

―開発時、苦労されたことはありますか?

木村さん「使用済み紙おむつを細かく砕いて乾燥させるシステムですが、濡れた紙おむつの処理には苦労しました。紙おむつが尿を含んでいる場合、高分子吸水材である“SAP”の結合が想像以上に強固のため、水分を含むと離そうとせず、壊れにくかったことですね」

―2017年にはJICA「中小企業海外展開支援事業(案件化調査)」に参画し、マレーシアでの実証実験を行われています。経緯を教えてください。

木村さん「マレーシアは人口増によりごみ排出量が急増していました。紙おむつの普及により、使用済み紙おむつのごみも増加する中、ごみを埋め立て処分しているため、メタンガスの発生が問題になっていました。紙おむつのごみ問題の対策として声をかけられたんです」

当時は現地での実用化には至りませんでしたが、再度の挑戦を考えられているとのこと。また、現在もヨーロッパ、東南アジアの諸外国から、SFDシステム導入についての相談があり、海外への展開を検討されているそうです!

あとがき

今回、さまざまな紙おむつのリサイクル事例についてお聞きする中で、それぞれの国や地域、企業が、独自の技術・手法で、紙おむつのごみ問題に取り組まれていること、そして、行政や企業、地域住民が力を合わせないと解決できない課題であることをあらためて感じました。

各国の事例では、使用済み紙おむつから、ほかのものを作るマテリアルリサイクル、化学原料として再利用するケミカルリサイクル、燃料として活用するサーマルリサイクル(サーマルリカバリー)などがありました。このように、私たち、RefFプロジェクトが取り組んでいる「使用済み紙おむつから紙おむつ」の水平リサイクル以外にも、さまざまな方法で深刻化する紙おむつごみ問題を真剣に解決しようとしている取り組みが、世界中にあるということを知りました。

リサイクルの方法はさまざまですが、「紙おむつのごみ」という共通の課題に向けて取り組み、同じ道を歩く仲間がいると知り、心強い気持ちになりました! 

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