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§.2 C:Command&Control【災害医療学講座】

<CSCATTT、今回取り上げるのは、これ!>

C: Command & Control←今回取り上げるのは、これ!
S: Safety
C: Communication
A: Assessment
T: Triage
T: Treatment
T: Transport

<Command:指揮・命令系統を確立する>

 災害発生時に医療が最初に行わなければならないのは、「平時の医療体制」から「災害時の医療体制」に切り替えることを決定した上で、災害時の指揮命令系統を確立することです。
 このように記載すると、抽象的に聞こえるかもしれませんが、例えば被災地の病院が具体的に実施しなければならないことは下記の通りになります。

◇災害の認識と宣言

「病院長or救命救急センター長を本部長とする災害対策本部を設置して、診療体制を災害時モードに切り替えます」というメッセージを院内に共有すること。災害時には、診療レベルの制限(例えば、点滴や酸素の使用をぎりぎり必要最低限まで落とすなど)や、押し寄せるであろう外来患者への対応準備など、平時とは異なる対応が必要になるため、病院全体が災害時モードで動き出すための宣言が必要となります。

◇本部長を頂点として、災害時の組織体制を作ること。

例えば、普段は救急部で働く5人の医師を例に考えます。普段は5人とも、救急科部長のA医師のもと、外来で勤務をしているでしょう。しかし、災害時になると、いつもとは異なる場所で勤務することになるはずです。例えば……

A医師(救急科部長)→災害対策本部メンバーとして活動。
☞この場合、A医師は災害対策本部長の指示に従って活動する。また、本部メンバーとして、担当する範囲の現場スタッフに指示を出す立場となる。

B医師(救急科副部長)→災害時の外来診療部門の責任者となる。
☞この場合、B医師は災害対策本部の診療担当責任者の指示に従って活動することになる。また、普段と異なり他の診療科から派遣される診療応援医師に対しては、指示を出す立場になる。

C医師(救急科副部長)→県庁に派遣となり、行政との災害調整を担う。
☞この場合、C医師は一時的に所属病院の指揮命令系統から外れて、県庁にできる災害対応を行う調整本部の指揮命令系統に組み込まれる。

D医師(救急科医師)→被災現場に派遣となる。
☞この場合、D医師は例えばDMATでの派遣になる場合、やはり一時的に所属病院の指揮命令系統から外れて、該当するDMAT活動拠点本部の指示を受けて活動することとなる。また、同じチームで派遣される看護師や業務調整員に対しては、指示を行う立場となる。

E医師(救急科医師)→院内搬送調整の担当となる。
☞搬送調整部門のリーダーの指示のもと、他の看護師やソーシャルワーカーと協力しながら、自院では診療ができない患者の搬送について他院への転院搬送を調整したり、場合によっては他院からの転院搬送の依頼を検討したりする立場となる。

……と、このように、災害時には、普段A医師の指示で救急外来で働いている医師たちは、災害時には全く異なる上司と部下のもとで働くことになります。このような普段と異なる状況において、全てのスタッフが、「自分の上司が誰か分かる状態にする」ことが、Commandの確立するということです。

<Control:横の連携を確立する>

◇他組織の相談窓口を確認する

 Commandはいわば縦の指揮系統であるのに対して、Controlは横の連携です。地震を例に挙げて、先ほど例に挙げたD医師が、災害現場に到着したとしましょう。
 D医師はいち早く患者の診療に向かいたいかもしれませんが、まずはCommand です。到着した災害現場の医療チームに指揮をとっているリーダーをみつけて挨拶の上、自分が行う必要のある業務を割り振ってもらう必要があります。
 同時に、危険な地震の現場ですから、医療スタッフだけでの活動には限界があります。従って、消防や警察、自衛隊に協力を求めたい場合に、誰に話をしたらよいかも把握しておく必要があります。Controlとは、この「消防や警察に協力を求めたい場合に、誰に話をしたらよいかも把握しておく」ことに他なりません。

◇他組織の相談窓口は階層によって異なる

 例えば、地震災害現場の指揮所で医療チームが、「ここに医療チームを派遣しても安全?」と悩んだら、きっと指揮所にいる消防スタッフに確認を求めるでしょう。

 一方で、この地域は患者の避難が進んでいないから、搬送手段として消防の救急車を使わせてほしいと県庁の中に設置されている調整本部の医師が思ったなら、恐らくは同じく調整本部内の消防スタッフに相談しますよね。

 逆に言えば、災害現場が安全かを確認するために、最初に県庁内の消防スタッフに確認することはないでしょう(多分聞かれても分かりません)。消防車を大量に回してほしいと県庁内の医療スタッフが思っても、それを現場の指揮をとっている消防スタッフに伝えたところで、対応のしようがありません(そういうことは県庁で作戦を立てている人に言ってくれという感じでしょう)。

 このように、一言「消防と連携する」と言っても、担っている仕事によって、連携すべき相手、すなわち階層が異なります。従って、自分の担当する業務を行うときに相談する他組織(例えば消防、例えば警察、例えば自衛隊、例えば……)って誰よ?が分かるようにするのが、Controlの確立であると言えます。

<Column>

 災害時には、混乱に強く迅速性のある組織づくりが求められるため、原則としてどの構成員についても、指示を出す人は1人しかいない、単線の組織づくりを行います。
 ただし、組織構造という点では、1人の部下に対して複数の上司が存在する形態も存在します。マトリックス組織と呼ばれるものがその1つです。病院で例を挙げるなら、病棟では看護師は病棟看護師長の命令で業務を行いますが、同時に担当患者の主治医からも指示を受けるというような形ですね。平時の診療では、これが阿吽の呼吸で可能ですが、災害時には1人の人間に2人の上司がいるのは混乱の元ですから、この組織構造は向いていないと言えますね。

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