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§.1 災害医療の概要【災害医療学講座】


<災害医療の特殊性>

災害時の医療では、平時の医療と異なる点がいくつもあります。まずは、災害時の医療は普段の医療とは違うものであるということをご紹介します。

1)多数の傷病者に少数資源(医療者、資機材など)で対応

 島国日本に多い地震を例にとって考えてみても分かるように、災害は一瞬にして多数の被害者・傷病者を生み出す恐ろしいものです。また、ガスや水道、電気といったインフラ、場合によっては病院そのものも破壊してしまうことがあるでしょう。現地で働いていた医療従事者も被災者になってしまうという点で、通常の医療提供体制が維持できなくなってしまうことが多いという特徴があります。まさに、多数の診療の求めに対して、限られた環境・物資・人的資源での対応を余儀なくされるわけです。

2)医療提供システムの再構築が必要となる

 災害が発生した場合には、病院といった建物が崩壊するリスクがあるだけでなく、診療システム自体が機能不全に陥ることが少なくありません。それは、多数傷病者と少数の資源というアンバランスを是正するために、既存の診療体制から、災害に対応する診療体制への組み換えを意味するものであると同時に、外部から入ってくる医療を始めとする支援を上手にシステムの中に組み込んでいく必要があるということを意味しています。支援の医療チームが被災した病院に到着したとしても、その医療チームが効果的に機能できなければ、マンパワーを補充した意味がないというものです。従って、傷病者の診療だけでなく、いかにシステムを構築するかといった運営の視点んが必要となります。

3)医療領域だけで物事が完結しなくなる

 普段、病院で仕事をしているときは、自院で治療が完結しない患者に対しては消防に要請することで患者搬送をお願いできるのが”普通”でしょうし、もっと言ってしまえば、「この病院、倒壊しないよね?」という恐怖におののいて診療することも、「水も電気もちゃんと使えるかな?」と不安を抱えることもないでしょう。一方で、災害時においては、このような”普通”が全て崩れてしまいます。そうすると、患者搬送に迫られた場合には、消防だけでなく医療支援チームや場合によっては自衛隊に応援を要請する必要に迫られます。安全な場所で活動しようと思えば、消防や警察のお力をお借りしないといけないことも少なくないでしょう。水や食料が尽きるとなれば、行政と連携しての対応も必要になります。このように、災害時に医療を維持するためには、医療以外のプロフェッショナルと連携することが不可欠になるのです。

<災害医療とは、CSCATTTをすること>

 次項からは、少しずつ詳しく、災害医療について考えていきます。但し、考えると言っても、どこから手を付ければいいやらと迷ってしまうでしょう。そんなときに、災害医療ではこの順番で動くのだという頭文字/合言葉が存在します。それが、CSCATTTです。次項からはこれに沿って、災害医療について考えていきたいと思います。

<災害医療を学ぶ=枠組み+想像力>

 これは非常に私見ですが、災害医療を学ぶというのは、枠組みを身につけることと、想像力を膨らませることに他ならないと考えています。

1)枠組み

 今後詳しく触れますが、日本の災害医療対応は、複数の医療機関から派遣される支援チームが一体となって進めるものです。従って、共通の考え方、すなわち枠組みがなければ、チームプレーを行うことはできません。また、そもそもの問題として、枠組みがない中で全てを手探りに任せて災害に挑むのは無謀というものです。従って、先ほど挙げたCSCATTTのような枠組みは協力を行う共通言語であると同時にチームプレーを行う基盤でもあるのです。

2)想像力

 予測する力と言い換えてもよいでしょう。災害時には、起こったことに順に対応していくだけでは確実に後手に回ります。例えば、被災病院に支援に向かい、到着した後で電話もメールも通じないと分かってはお手上げです。従って、どのようなトラブルが今後発生しうるのか、今後どのようなことが問題になりそうなのかを可能な限り事前に想定して、打てる手があるのであれば打っておく必要があります。その意味で、「こんなことが起こるんじゃないだろうか」と思いついたり、「これを準備しておけば、多少なりとも対応できるんじゃないだろうか」と発想する能力は大変重要だと考えます。

<Column>

 PCを使うのが得意な方(本部所属になるとデータを集めては分析することになります)とか、キャンプが得意な方(現地では、屋根があるかないかの場所で寝泊まりになることもあります)とか、地理に詳しい方(初めての場所は、そもそも地図が読めません)とか、雪道でも安全な運転が可能な方(被災地が豪雪地帯だと、まずそこに行くのが大変です)とかって、羨ましいです。診療ができることよりよっぽど重宝されるんじゃないかと思います。

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