6月の冷たい水と、塩素のにおい

中学の水泳部に所属していたのは、もう10年以上も前になる。けれど、6月初めのこの時期になると、毎年ぼんやりと思い出す。

小~大学の部活やサークルは8つくらい経験したが、その中で特に好きだった・がんばっていたわけではない。ただ単純に、6月最初の日曜日に大会があって、それまでの練習がむちゃくちゃきつかったのだ。

それは毎年決まった時期に行われ、部として出場する年始めの大会だった。6月始めの大会に間に合わせるために、5月上旬に部のみんなでプール掃除をして、水を張る。実際に足を入れるのは、その1週間ほど後のことだ。

5月中旬。入学式に吹雪が襲い、ゴールデンウイークにやっと桜が咲くわたしのふるさとでは、長袖のセーラー服が丁度いいくらいの気温である。

プール開きの日は在学中3年とも、どんよりと曇った空模様だった。水温は約10~15度。当然うまく泳げるはずもなく、ひとたび身体を入れると、刺すような刺激と異様な震えが襲ってくる。「寒い」を通り越して「痛い」のだ。

「やば、足攣った」

隣のコースレーンから悲痛な声が聞こえてくる。同級生の華奢な女の子で、近所のスイミングスクールのクラブチームにも入っているくらい泳ぎのうまい子だった。

通常2時間の部活練習だが、プール開きのその日は誰も、2時間ぶっ続けで練習ができなかった。寒さで体の動きが鈍り、もう限界と思ったところで各々が部室に戻り、休憩をとる。

部室には丸くて細い灯油ストーブがあって、あらかじめ沸かしておいたやかんのお湯がしゅうしゅうと音を立てている。それを部員全員で囲み、お湯をぬるくしたものを身体にかけて温めあった。

そんな調子で迎えるのが、6月始めの「地区大会」である。練習の厳しさというよりは、完全に寒さとの闘いの記憶しかない。

正直、もっといい思い出はたくさんある。7月ごろになれば水温も徐々に温かくなり、ほかの運動部からは羨望のまなざしを向けられる。よく晴れた日に、スタート台から見下ろす水と光の模様が綺麗で気持ちいい。

それでも未だにこの記憶が6月のものであり続けるのは、綺麗で楽しいだけの思い出じゃないからかもしれない。そう思えば、今イヤだな、と感じていること、たとえば仕事が全然できないとか、飲み会の幹事作業がクソだったとか、そういう記憶もいつか補正されて懐かしく思える日が来るんじゃないかな(と信じたい)

もう水着に袖を通さなくなって5年以上経つが、もうあの過酷な水温では体調に異常をきたしそうなので、真夏のプールで気持ちよく泳ぎたい。体型と体重だけは、切実にあの頃へ戻りたいけれど。

#部活の思い出

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