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【香水小説】香はかく語りき⑩アクアセレスティア

毎月香水からインスピレーションを受けた短編小説を綴る本連載。
第10回目の香水はMaison Francis Kurkdjianよりアクアセレスティア。

それではどうぞ
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月の光が照らすのは、彼のうなじと肩甲骨の曲線だった。
シーツの手触りを確かめながら肌に触れると、彼はゆっくり振り向こうとする。
瞬間、なぜか「こっちを向くな」と願ってしまった。
僕の願いは通じて、彼の綺麗な横顔は夜の闇に溶け込んだ。
何も怖いことはないのに感情だけが確かで、その夜のことはあまり覚えていない。

ずっと独りでいる気がしている。
地に足がついていても、誰かと言葉を交わしても、自分が接続している先を辿ると途切れているのではないかと思う。
このことを人に話したことはない。議論したり、確かめ合う必要を感じないからだ。
大切なのは真実ではない。自分がどう捉えるかなのだ。

こんな風に都合よく精神論を展開させる僕は、つくづく不潔だと思う。そんなに精神論が重要なら、僕が孤独かどうかだって自分の気持ち次第なのに、「僕は孤独だ」と思うことは自分に許しているのだから、結局自慰と同じなのだ。

あの夜、彼がこちらを向くのが怖かったのは、彼が真の孤独を知っていたからかもしれない。
彼の視線が月の光を通して僕の虹彩を突き破った時、僕はかつての自分ではいられなくなるだろう。
僕は逃げてしまった。そして彼はそんな夜を何度も超えてきた。
だから彼は独りのままで、綺麗な横顔は決してこちらに向き直ることはないのだ。





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