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【香水連載】香はかく語りき⑤ブラックベリー&ベイ

毎月香水からインスピレーションを受けた短編小説を綴る本連載。

第五回目の香水はJO MALONEよりブラックベリー&ベイ。

それではどうぞ

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カーテンがはためく音で目が覚めた。
窓から見える新緑が陽の光を受けて輝いている。
枝の間から漏れた光の針が私の足元に刺さって、微かな暖かさを湛えている。
まぶしいほどに白い布団カバーはのりが効いていて、ここが自分の居場所ではないことを思い出させてくれた。

起き上がってあたりを見渡すと、果物がサイドテーブルに置かれていた。
清潔感だけが取り柄の無機質な部屋に鮮烈な色彩を添えている。
一つ手に取り、しばらくざらざらとした表面に触れたあと、親指に力を込める。
血流を失って白くなった指先から、プツッと皮を突き破る感覚が伝わる。
酸味を孕んだ甘い香りが鼻腔にぶつかる。
果汁が手の平から手首、肘へとつたい、私の腕に一筋の赤い線を作った。
この線を見ている間は、少しだけ安心できる。
親指を果肉にうずめると、腕の線が二本三本と増え、シーツが赤く染まった。

外から風が吹き込んで、私の頬をかすめる。
生い茂る緑と手の中の果物は今日もよそよそしく私を励ましている。



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