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【美術館日記】「女性画家たちの大阪」:大阪中之島美術館🌸


浪華


女絵師女うたびとなど多く浪華は春も早く来るらし

吉井勇 大正九年


立春を迎え、梅や桜の花がぽつぽつと咲き始めました。

今年の梅ジュースになる子。


「なにわ」といえば、
・難波
・浪速
・浪花
・浪華
と…さまざまな表記があります。

お恥ずかしい話、府民であるにもかかわらずこれらの表記の由来を全く知りませんでした。
難波宮など、「難波」といった地名は古代からあったんやな〜くらいの感覚でした。

大阪湾が港として栄え、上町台地の砂州が伸びていた時代でしょうか。
波が速く船の発着が難しかったことから、「難波」や「浪速」という地名がついたという説があります。
そして「浪花」「浪華」は、大阪商人の商売が華やかに繁盛するようにと付けられたのだそうです。

今回の展示会でも、大阪の華やかさを物語る作品などが見受けられました。
冒頭に添えた和歌からもわかるように、大正ー昭和初期の大阪は女性文化人が多かったそうです。

そんな時代に、大阪の女性画家たちを牽引した島成園。
京都の上村松園、池田焦園とともに「三都三園」と並び称されるほどの才能をもった彼女を筆頭に、
大阪の女性たちが画家として、また女性として人生を歩む上で抱えていた悩みや葛藤と、華々しい作品の数々を追うことができます。


■大阪中之島美術館
■「決定版!女性画家たちの大阪」
■会期:2023/12/23〜2024/1/23〜2/25(終了しています)

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強く儚く美しく、島成園の美人画



まずは島成園の作品たちです。

成園の美人画がどれも好みの女性像で、ウハウハしながら鑑賞しました。(笑)


◇《祭りのよそおい》島成園、1913年、大阪中之島美術館蔵
会場を入ってすぐ、来場者を迎えてくれる作品。
「浪華」らしい大阪の華やかさと、その側に佇む貧しさを幼い少女たちで表現しています。
少女の愛らしさも相まって、一層侘しさが感じられます。

◇《香の行衛(武士の妻)》島成園、1915年、福富太郎資料室コレクション蔵
成園初期の大作と言われており、個人的に今回いちばんのお気に入りの絵です!
しかし第2回院展では落選してしまったのだとか。
負け戦へ出陣せんとする夫を思い、兜に名香を焚きしめる妻、青柳の儚い美しさと清らかな精神を写し出している様に感じました。
薄墨による輪郭線のところどころに青を混ぜた表現が見られ、「青柳」と言う名に合わせているのかな、とか考えてみたりしました。(気のせいだったらすみません!)

《無題》島成園、1918年、大阪市立美術館蔵

未完成の作品の前に佇む、成園本人の自画像です。
大阪歴史博物館の怖い絵展にも出展された本作、退廃的でダークな画面に、真っ直ぐにこちらを見つめる女性。
メッセージ性が強いです。
顔の痣が何を表現しているのか、自分なりにいろいろと考察すると面白いですね。

この作品の時点で26歳ですから、成園の技量の高さに感服します…。
当時の大阪商人が裕福であったことから、若年の女性が習い事として絵画を学ぶことも多かったそうです。
まだまだ男尊女卑の時代ですから、若い女が画家を生業としていることを批判する者も多かったでしょう。
そんな時代に翻弄されながらも、画家として才を発揮していく彼女らの強さが、作品にも反映されているように思えてなりません。



成園作品が並ぶ中、「第六、七回文展褒状」も展示されていました。
寺崎広業、川合玉堂、下村観山、横山大観、竹内栖鳳ら、、錚々たるメンバーの直筆が連なり私は俺は僕は……!!
その場に居合わせるだけでも眼福でしょうね…。
一人で大興奮し、ここでかなりのエネルギーを消費したことを覚えています。

前述した作品以外にも、第2回文展で入選した《宗右衛門町の夕べ》をはじめ人気作の《桜花美人》などの代表作も並び、成園の美人を堪能できるラインナップとなっていました。

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美人すぎる!女四人の会



島成園によって切り開かれた女性画家たちの世界は、華やかな商人の街でさらに輝きを増していくようです。


大正四年(1915)、島成園、木谷千種、岡本更園、松本華羊によって「女四人の会」が結成されます。

成園をはじめとした大阪で活躍する女性画家による創作グループですが、描く美人画のみならずそもそも画家自身が美人すぎるんです……。

左から、岡本更園、木谷千種、島成園、松本華羊。

いや!後ろの美人画も美しいですが、みんな負けず劣らず綺麗で色っぽい…!
岡本更園と島成園は憂いありげな流し目、
木谷千種と松本華羊はキュルンと可愛らしい目つき、
各々の個性や性格が作品の表情にも反映されていそうで面白いです。

実際、「この絵、顔が少し画家自身に似てるな」と思うものもありました。
そんなことを感じながら鑑賞していると、近くにいたマダムたちも「やっぱり絵と本人の顔が似てるねえ〜」と、
考えることは同じですね。(笑)

「女四人の会」では、井原西鶴の「好色一代男」をモチーフとした連作なとが発表されました。

◇《西鶴のおまん》島成園、1916年、個人蔵
(上の写真の右から2番め)
◇《西鶴のお夏》岡本更園、1916年、個人蔵
(上の写真のいちばん左)


木谷千種といえば《をんごく》(前期展のみ)でしょうか。
私が行ったのは後期展だったため出会えませんでした…。
しかし《をんごく》や《針供養》のような、若年の女性を描いた作品が多い(勝手な)イメージだったのが、《綻び》で覆されます。

◇《綻び》木谷千種、1928年、木原文庫蔵
着物の綻びを繕う母の、優しい眼差し、柔らかい手元がとても印象的でした。
あまり裕福ではなさそうですが、その落ち着いた表情から温かい家庭がおもわれます。
もう一度会いたい作品です。

◇《殉教(伴天連お春)》松本華羊、1918年、福富太郎資料室コレクション蔵
すごく見たかった松本華羊!
優しく柔らかな顔つき、髪をゆったりと束ね死を待つ傍ら、咲き誇る桜に目を輝かせる表情があまりにも儚く悲しく…そして美しい作品です。
何故か心を穏やかにしてくれる、そんな画風に溶けゆくように見惚れていました。

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女性であるから


女性であるからと言って、画家としての技量が劣るということは全くありません。
むしろ個人的に、同じ女性の立場として見た時に、(美人画において)女性画家による女性像からは高い美意識を感じることができました。

例えば、化粧や着物の柄、女性が普段から気にかけている細かい仕草などでしょうか。
男性の描くものとまた違う視点で楽しめると感じました。
現代の女性たちも、メイクの仕方やトレンドカラーの合わせ方など、やはり気をつかいますよね。
その細かな"こだわり"みたいなものが、この時代の女性たちの中でももちろん潜在化していて、絵画として表現した際に独自の美意識として表れるのでしょうか。
紅のひき方や睫毛の伏せ感、爪に紅を添える仕草など、各所から女性ならではの細かい美的表現の数々に、同じ女性として心躍りました。

《化粧》三露千鈴、1926年、大阪中之島美術館
※撮影可


また、美人画のみならず花鳥画や風景画においても女性画家の可能性を感じることができました。
野口小蘋の花鳥画と河邉青蘭の南画にも出会えて新たな学びを得たように思います。

故事に基づいて、心の複雑な部分に存在する、人の羨望する原始的な風景のイマジナリーを絵画として表現できる南画家って……。
本当に無知の領域ですが、女性画家としてそれをここまで精緻に描けるなんてとても繊細で、そして意欲的だなと感じます。
美人画とはまた違う旨味がありました!

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強く儚く美しく


女性画家の表現はどれも、美しさはもちろんのこと、同時に女性ならではの強さと儚さを感じられるような気がします。
女性が心の奥底に秘めた情熱や、深い哀しみ、そしてそれらを隠そうとする美意識。
そんな複雑な感情が絵画として表現され、鑑賞者の心の中に入り込むような、そんな感覚を覚えます。

《哀しみ》金澤成峰、大正後期-昭和前期、個人蔵
※撮影可
《殉教者の娘》三露千鈴、1926年、大阪中之島美術館蔵
※撮影可


赤×黒という大正期の大阪で流行した華やかな配色が多く目を惹きます。
当時の流行を取り入れつつ、女性の深い哀しみや内面的な美しさを引き出していたり、女性ならではの美意識が投影されているような作品であると感じました。

第五章の展示は撮影が可能だったため、カメラロールにお気に入りを収めつつ楽しく散策しました♪

昨年、チラッとポスターを見てからずっと行きたいと思っていた本展…。
真の美しさを放つ女性像に目を惹かれ、美人画家たちの美貌に心奪われ、また新たな発見と学びを得た体験であったように思います。

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自画像


展示の最後は島成園の自画像で幕を閉じます。
変にデフォルメされているわけでも誇張されているわけでもなく、ただありのままの表情に、女性画家としてのリアルな自己表現を垣間見ました。

《自画像》島成園、1924年、大阪市立美術館蔵

目の下のくまが印象的で、《無題》と同じくどこか憂いを感じさせます。

画家として高く評価され、大阪の女性画壇を牽引する存在となった成園ですが、結婚を機にスランプに陥ってしまったそうです。
画家としての成功か、女性としての幸せか、どちらが彼女らしい生き方だったのでしょうか。
どちらも幸せである、またはどちらも幸せでないとも考えられますが。

その葛藤は現代においても同じですよね。
思い悩んだ時は、成園の《自画像》や《無題》を見て、自身の在り方を問うてみるのも良いかもしれません。
浪華の女リーダー成園が、意味深な面持ちで語りかけてきますから🌸

「浪華は春も来るらし」

展覧会は終了してしまいましたが、きっとまた会えることを願って。

最後までお読みくださりありがとうございました🌸

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