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サイン転売問題を真剣に考える

1.はじめに

ロッテ1位佐々木朗希、ヤクルト1位奥川恭伸。その年の目玉選手が1月から新人合同自主トレに参加し注目を集める中、悪い意味で注目を集めているのがサインの転売です。

今年の目玉選手にしても、サイン会のわずか1時間後にはメルカリでサインが出品されるなど、その節操の無さや選手の気持ちを無視した行為には多くの批判が集まっています。昨年の中日キャンプ時の松坂投手の腕引っ張り事件や、根尾選手への色紙・ペン投げつけ事件など、サインを書いてもらうがために過激化する"サイン厨"の行動は今やニュースにも取り上げられるようになりました。

昨日アダム・ジョーンズ選手が来日しましたが、こんな記事も出ていますね…。

サインを貰えないからと言って、暴言を吐いたり、突き飛ばしながら近づく輩はただのカスなのですが、一方でサインを貰うこと=悪という風潮もどうかと思ってしまいます。サインに興味のないファンはしばしば、「サインを貰いに行くこと=転売目的か選手の邪魔をすること」、とみなし「これだから"サイン厨"はクソ」と罵り、ネット上でサインが売られているのを見つけると「ほら見たことか!!」と大喜びで叩く姿もここ数年で多く目にするようになりました。

ですが、サインにも種類があることをご存知でしょうか?

先日の奥川投手のサインメルカリ販売の記事を読んで、改めてサインの転売の抑止には、正しいサインとの付き合い方を広めていく必要があると感じました。

ここでは、サインの種類、"サイン厨"というレッテル、「サイン転売」を防ぐには、の3本建てでノートを書きたいと思います。

2.サインの種類

プロ野球選手の直筆サインにも、二つの種類があります。一つは球場やトレーニング場で選手から直接貰うプライベートサイン、もう一つはベースボールマガジン社、エポック社が主に手がける商業サインです。

2-1.プライベートサイン

はじめに書いた奥川投手や佐々木投手の、メルカリで販売されたサインはプライベートサインです。選手にその場で書いてもらうので、選手に会った思い出とファンサービスしてくれたことへの喜びはプライスレスですが、第三者から見たときそのサインを誰が書いたか保証されないという特徴があります。

例として、メルカリで販売されている奥川投手のサインを見てみましょう。

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こちらの11,000円で売られている奥川投手のサイン色紙。サインは奥川投手が書いたものと同じように見えますが、ではこのサインを実際に書いたのは誰でしょうか?

それはサインを書いた人と貰った人しか分かりません。なぜなら、このサインは誰かに保証されたものではないからです。

どんなサインも、1時間も練習すれば書けるようになります。先に挙げた奥川のサインを書いたのが、50歳オッサン出品者だったとしてもなんの不思議もないのです。

色紙自体は、スワローズロゴの入ったもので200円で買えるため、もし私が奥川投手のサインを真似して書いて、11,000円で売れたら10,800円の利益が生まれますよね?こんな、ボロい商売、ほかに有りませんよね?笑

実際に、逮捕者も出ています。

なんと4人で組織的に偽サインを作り、売上3千万円!!

プライベートサインを買うということは、偽物を掴まされるリスクが想像より遥かに高いというということを衆知させたいと思います。

2-2.商業サイン

プライベートサインに対し、商業サインはその性質が大きく異なります。

ベースボールマガジン社やエポック社が販売するサインカードは、直筆サインであれば必ずシリアルが入り、カード裏面には会社として証明する旨が記載されています。このカードにサインを書く選手に対してはコミッションが支払われ、選手自身にお金が入る形になっています。

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私もカードコレクターの末端として、1ボックス8000円程度の代金を払ってサインカードは1枚だけ(しかも70人ぐらいの中の誰が当たるかわからない笑)、相応の対価を払って購買をしています。

これらのカードはトレーディングカードとして売られています。トレーディング、つまり交換し集めることがカードの目的であり、ヤフオクやメルカリ等でこれらの商業サインを売買することは、コレクターに入手の機会を与え、野球をめぐる市場の活性化のためにもむしろ推奨されるものと言えます。

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このようにサインが並んだ場合、上段左がエポック社、中段左・中央はベースボールマガジン社のカードで、商業サインなのに対し、それ以外の直筆サインはプライベートサインとなっています。

もちろん、商業サインでも偽物は出ます。

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これはシャイニングヴィーナスという女性選手を特集したカードなのですが、サインカードは本物なのに対し、"世界ランキング43位!!"というインスクリプション(添え書き。これがあることでカードの価値が高まり、高値で売れる)は後から書き足されたものであることが判明しました。

さらに商業サイン市場が大きいアメリカでは、昨年大手カード発行会社のPanini社が発行したサインカードが大きな問題となりました。

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このNFLのプレスコット選手のサイン、あまりにも同じではないでしょうか?そう、これはAuto penという自動サインマシーンによって書かれたものであることが判明しました。

このように、商業サインであっても信じられないことも多々あるのですが、それでもプライベートサインに比べればやる側からしてみれば手間がかかり、市場に偽物は相対的に少なくなっています。

3."サイン厨"というレッテル

先ほど述べたプライベートサインと商業サインは、どちらもサインであるがために混同されがちです。メルカリ等で並ぶ画像も側から見れば全てサインなのには変わらず、転売なのでは!?と思うのはわからないでもないのですが、商業サインに対しても悪というのは大きな間違いです。

こうした画像を見て、"サイン厨"と罵り、商業サインの販売すら非難されてしまっては、トレーディングカード市場の縮小に繋がり、ひいては選手にとっても収入減になってしまうのです。

そもそも、プライベートサインを貰うことに対して"サイン厨"と罵ること自体も不思議な話です。憧れの選手に会って、サインを貰いたいという気持ちは自然なことです。問題は、無理に選手からサインを貰おうとしたり、金目当てに貰ったサインを即販売することで、節度を守ってサインを貰うこと自体には本来なんの罪もないのです。

そして、選手にとってファンサービスは大事な仕事の一つという面があると私は考えています。もちろん、選手は試合で魅せることが1番のファンサービスなのですが、サインをはじめとしたファンサービスをしてファンを増やし、グッズ収入・チケット収入に繋げることは選手の契約先である球団にとっての利益につながります。球団の収益が上がれば一般的には選手の契約金もあがり、ファンサービスは本来やればやるほど自分に返ってくる、対価あるものなはずなのです。

プロ野球は人気商売です。球団にとって、チケット代とグッズ代が収益の中心である以上、その契約先である選手がファンサービスをすることは重要な仕事の一つだと思いますがどうでしょうか?

4.「サイン転売」を防ぐには

まず、非難されるサイン転売を防ぐには、二章で述べたプライベートサイン販売に伴うリスクを認識することが1番です。

メルカリの発展とともに転売が注目を集める中、ニュースでも取り上げられるようになったプライベートサインの販売をしたことを報じる記事の悪い例がこちらです。

佐々木朗のサインをゲットし感激するファンがいる一方で、終了10分後には早くもネットオークションに3万3333円でサインボールかが出品されていた。

これ、ただ筆者不明のサインが3万円で売れると喧伝しているだけですよね?

SNSを見張ってれば、いつ佐々木選手がサインをしたかは家にいても分かります。1時間あれば家でサインを書くことも可能です。

本気でサイン転売を防ごうと思うのであれば、「誰が書いたとも分からない佐々木サインに3万円」など、きちんとした認識を広める記事を書くべきでしょう。

そして、もしネットで買うなら商業サインがある、ということをNPBもベースボールマガジン社も営業努力として伝えるべきでしょう。

誰が書いたか分からないサインに数万円払うなら、第三者が保証するサインを買うべきなのです。そのサイトとして次のようなものがあります。

なお、タイトルを取った時や、初勝利や初ホームランといった節目のタイミングではサイン入りのユニフォームやボール、色紙が販売されます。

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これは村上選手の初ホームラン記念ブックです。日付も書いてくれて、2万もあれば買えてしまうので、メルカリやヤフオクで謎サインを買うより遥かに賢い買い物でしょう。

また、各球団からも直筆サイングッズは売られたりファンクラブ会員向けに抽選があったりします。サイン入りグッズの販売は、極めて利益を生みやすいグッズであるにも関わらず需要が高く、高値で売れるため、球団も積極的に販売することが却って転売抑止にも繋がるのではないかと考えます。

5.さいごに

サインが欲しい、とくに普段球場に足を運ばないファンほどそう思うのは自然なことです。ですが、ネットに多く存在するプライベートサインを買うリスクはあまりにも高いです。

余談ですが、プライベートで貰ったサインを売ること、これは転売とはまた違うと私は考えます。転売とは、Aという商品を買った後、同じAという商品をより高値で売る行為です。プライベートサインは、そもそもお金をサインの対価に支払っておらず、選手の好意としてタダで貰ったものです。

タダより高いものはない、と言いますが、プライベートサインを売る目的でもらう人にはいつか高い対価が待ち受けていると信じたいですね。

長々と書いてきましたが、プライベートサインを買うことのリスクが伝わったでしょうか。

これがほんとのさいごです。

そこにお金をかけるのであれば、選手にコミッションの入る商業サインにかけませんか?あなたのそのお金は選手に入るのですから。


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