オリックス・バファローズ 荒西祐大投手の1年を振り返る
こんにちは、シュバルベです( ✌︎'ω')✌︎
先日までヤクルト・スワローズの2020年にキーマンとして挙げた高橋奎ニ選手・塩見泰隆選手の記事を書いていきましたが、反響もあり自分で書いていても足跡が辿れて面白かったのでオリックスのキーマンも書いていこうと思います。
まずは2020年に投手のキーマンとして挙げた荒西祐大投手です。前回の記事につきましてはこちらをご覧ください。
こちらの記事では荒西投手は幅広い球速帯の変化球を持ち、打者の左右に関わらず安定した制球を見せられることから先発として推していました。その上で、MLBのジェフ・サマージャ投手のようにフォーシームに偽装できるようシンカーやカットの高速化が図れれば大きくステップアップができると考えていました。
さて、2020年の荒西投手はどうだったのでしょうか。以下、成績等から荒西投手を観てみましょう。
1.総合成績
まずは2019年の基本的な成績はこちらです。
1年目ながら8試合に先発。1勝に留まり、防御率は5点台半ば、K%もBB%も突き抜けた成績は残せませんでしたが、即戦力社卒投手として一軍・二軍合わせて96イニングを投げたことは大きな自信になったはずです。
実際、2019年オフの契約更改では次のように語りました。
「シーズンはじめはプロの打者相手に萎縮していたが、終盤になって持ち味の強気の投球ができた」(19年12月2日付スポーツ報知)
先発なら2ケタ勝利、と語った荒西投手ですが2020年の基本成績はこちらでした。
29試合に投げて先発登板はなく、全てリリーフとしての登板でした。シーズン前は先発ローテ争いに入っていたのですが、開幕延期後の6月初旬の練習試合での登板が3回2失点(6/4SB戦)、3回3失点(6/14SB戦)と結果を残せませんでした。
中継ぎとしてチーム4位のイニング数を消化し、29試合のうち14試合で1/3や2/3といったイニング途中からの登板が目立ちました。1登板での最多失点は3に留めており、被弾の印象が強いこともあって圧倒的な印象は残せていませんが、雑な登板機会でしっかり仕事をこなしたというのが私の評価です。漆原投手や富山投手ら若いプロスペクトがシーズン後半に多く登板しましたが、彼らがこの難しいシーズンの頭からきつい場面で登板させなくて済んだというだけでも荒西投手が文字通り壁として雑な場面をこなしてくれた意味があります。20年の契約更改でも球団からしっかり評価され220万の増額を勝ち取りました。
スタッツを見てみると防御率は5.88→4.88と良化しているように見えますが、昨年はリリーフのみの防御率は3.52だったので悪化と言えるでしょう。19.0K%→15.6K%と奪三振能力はリリーフ専念にも関わらず低下してしまい、最大の問題としてHR/9が1.05→1.72と被弾割合が大きく増えてしまったことが挙げられます。
上の動画の中田翔選手は天敵で、今年は4打数2安打で2本がともに本塁打。19年も対戦は1打席だけですがヒットを打たれており、通算で5打数3安打2本塁打です。プレシーズンの先発ローテ争い時も柳田選手やバレンティン選手などにホームランを打たれてしまい、ローテ剥奪の原因となってしまった側面もあり、20シーズンは一年間被弾に悩まされました。特に京セラドームというリーグ屈指のピッチャーズパークを本拠地としている以上、被弾は避けなければなりません。
2019年オフに書いた記事で、私は荒西投手は先発として考えていたのですが、その最大の要因はサイドスローでありながら対左を苦にしない点でした。左打者にとってはサイドスローはリリースポイントが見やすく、外から内への入り球が多くなるのですが、荒西投手は逆に左打者のインコースを突くピッチングに長けています。実際、左右別の成績はこちら。
2年とも打席数は変わらない中で対左の方が打率・本塁打ともに好成績を残して伊ます。左右に関係なく投げられる荒西投手の効力を最大化し、かつローテーション内でのレパートリーを増やすという2点で私は荒西先発を推していました。
そして、今年先行でnote記事を書かれたyoさん(@yobuffalo)の記事は多くの点で示唆的と言えるでしょう。
20年のワンポイントでの登板時の成績で、12度の登板機会で計5イニングを6失点。安打2本がともに本塁打なので失点に直結しており逆に残りの10回の登板では被安打を許していないのですが、それでもワンポイントで二発浴びてしまうのはかなり致命的なシーンを演出することとなり、印象の悪さに直結しています。
元々球威で押したり、圧倒的なマネーピッチがあるわけではない投球スタイルのため、1点を競り合う場面で投げるようなタイプではないなぁと感じていました。
以降の章ではさらに投球内容を深掘りしていきましょう。
2.ピッチング内容
次にピッチング内容をしっかり見てみましょう。まず検証するのは球種についてです。
こちらの円グラフは昨年の球種割合と今年の球種割合の比較です。
フォーシームが40%を超えて最多となっている点は同じですが、変化球の球種割合はかなり変わっています。19年13%だったスライダーが23%と10%もの増加をする一方、カットボールの割合は6%も減らしました。サイドスローとしてのマネーピッチであるシンカーの割合は変わらず、カーブの割合も微増という結果でした。
先程のスポーツ報知の記事では、19年オフの取り組みとしてカーブについて次のように書かれています。
投球の幅を広げるために「もう少し緩急があれば楽な投球ができる。比嘉さんのカーブがいい」と80から90キロ台のスローカーブをイメージ
実際に、2月〜3月のプレシーズンではゆるいカーブを何度となく試していました。理想としている比嘉投手のピッチングは例えばこのようなものでしょう。
しかし、球種割合に見て取れるように、それがレギュラーシーズンで多投するレベルには残念ながら達しませんでした。
↑の答え合わせではないですが、各球種の球速と失点増減はこちら。
まず投球の基盤になるフォーシームは球速が2kmあまり低下したものの、wFAのマイナス幅は減少しました。19年に比べリリース時に腕を下げ、スリークォーターからサイドスローになったことによる球速の低下は必然でしょう。これについては3章目のピッチングフォーム編で書いていきます。
投球割合を増やしたスライダーについては球速はほぼ変わらず、wSLはマイナス指標からプラス指標に転じました。やはり向かって左方向への変化をするカットボールについてもマイナス幅が減り、これらスライダー系統のボールはともに改善が見られました。
逆に2019年と比べてマイナス指標となってしまったのはシンカーとカーブ。特にシンカーは19年に唯一のプラス指標だったところからマイナスに転じてしまいました。
私の2019オフの記事では荒西投手の飛躍に向けて次のことを挙げました。
カットボールもシンカーも意図的に変化量は少なく、その分球速を出してフォーシームに偽装して投げ分ける。それがサマージャ選手が30代半ばでも速球系のボールでプラス指標を維持できるポイントであり、荒西投手が今後飛躍するための好材料となるのではないでしょうか。
結果的にフォーシームだけでなくカットもシンカーも球速が落ち、球速帯では140km台前半のフォーシーム/130km台前半の左右の揺さぶり/125km前後のスライダーの3つの山が19年と変わらずはっきりとできています。それ自体は悪いことではないのですが、やはりフォーシームと近い球速帯となりうるカットやシンカーの球速が10km程度落ちる分、打者としては見極めが利きやすいという点は留意しなければならないでしょう。
2019年の記事で書いたように、荒西投手同様立ち投げ気味から似たような球種構成で攻めるMLBのジェフ・サマージャ投手の球速帯はこちら。
やはり3つの山はできているものの、フォーシームとカットボールの球速差は3マイル(=5km)程度に抑えられており、カットとスライダーの球速差も少ないことがわかります。
次に荒西投手の球速帯は次のようになります。
※悟@野球とデータ(@bb_satoru)さん よりご提供いただきました。
サマージャ投手との最大の違いは、フォーシームの球速帯と被る球種がない点でしょう。
前回記事の繰り返しとなってしまって恐縮ですが、カットやシンカーといったフォーシームへの偽装をすることでゴロを打たせる球種での10kmもの球速差は打者の見極めを容易にしてしまっていると考えて然るべきでしょう。
次に球種別のコースについて見ていきましょう。こちらも悟@野球とデータ(@bb_satoru)さんからの提供で、各球種の対右・左別コースをマッピングしたものです。
右打者に対しては基本外角にフォーシーム、カット、スライダーを集めているのに対し、左打者に対してはインコースのカット・フォーシームと低めのシンカーを軸に構成しています。このデータから、次の4つが言えるでしょう。
・カーブ・スライダーの2球種は対右ではボールゾーンへ逃げる球として使っているのに対し、対左にはアウトコースのストライクゾーンへ入れるボールとなっていること
・カットボールを投げるコースは左右で一致していること
・フォーシームは制球が安定しない一方、シンカーは低めに制球できていること
そんな中で、つい最近こちらのnoteを拝見しました。
あくまで速いカットボールとの組み合わせであるという前提はあるものの、荒西投手のカットも高めを突くことができ、球速の遅いシンカーと対にするのはかなり面白いかもしれません。すでに対左打者へのアプローチはまさに高めのカットと低めのシンカー・スライダーとの組み合わせになっており、もしかすると対左打者への優位性に繋がっているのではないでしょうか。
MLBではフライボール革命に対抗する意味で高めのファストボール系統のボールとオフスピードボールのコンビネーションが注目されていますが、NPBでは高めの要求はある種のタブーとされています。しかし、年々レベルが上がり特にMLB出身外国人選手はローボールを掬い上げて角度をつけてスタンドに持っていく打者が多く、高めの使い方はこれからの発展余地を残している部分です。荒西投手の球種構成からして、これまでは左右を広く使う投球が中心でしたが、高低を使うことでもう一歩踏み出すことが可能になるかもしれません。
課題としてはフォーシームの制球と、向かって右寄り(右打者のインコースと左打者のアウトコース)のピッチングです。データでは取れない部分ですが、20年の荒西投手は捕手の構えに対して逆球が目立ち、特にフォーシームでの制球ミスでカウントを悪くしてしまうシーンが見られました。そして先の球種別コース表示の通り、向かって右側のピッチングは苦慮しています。右打者に対してはインコースをつけるのがフォーシームのみでこれが140km前半のためやはり威力不足です。左打者に対するアウトコースはシンカーがある分、カットとの組み合わせでいい塩梅になるのですが、もう1球種欲しいところでしょう。
その点で、19年オフにご本人の語っていたカーブはこの課題克服に向けた取り組みだったのかもしれません。実際の一軍の試合では右打者のアウトコースには投げられていますが、左打者へのアウトコースに入ってくる形では投げられておらず、左右3分割にした時の向かって右側のコースの使い方をこのプレシーズンでは注視していきたいと思います。
3.フォームを見てみる
2章でフォーシームを中心とした球速の低下について腕を下げたことによるものと書きましたが、実際に@PacificleagueTV(https://twitter.com/pacificleaguetv?s=21)さんの19年6月13日の動画と20年9月25日の動画の1シーンで比べてみましょう。
こちらが2019年6月13日のリリースポイント。
続いて2020年9月25日のリリースポイント。
まるで違う投手とみえるほど腕の位置が変わっていることが分かります。個人的には一部の変化球の高速化のためにスリークォーター気味の上から投げて欲しいとは思っているのですが笑
何度か言及したサマージャ投手のリリースポイントもついでなので見てみましょう。
いやぁーーいつ見ても荒西投手の19年の投球フォームにはこれに近いものがあるように見えるんですよね笑。正直、私としては19年のフォームの方が球速は間違いなく出るので推しています。20年9月の荒西投手のリリースポイントはサイドスローのそれですが、ハンドセパレーション〜並進にかけての上体の使い方はやはり気になります。比嘉投手の並進後(@PacificleagueTV 19年6月1日)と比べて見ましょう。
しばしば荒西投手は比嘉投手の後継、と書かれがちですが、サイドスローという一点だけで共通点はほぼないと断言できる一枚ですよね。トップの位置が低く、軸足が深く折れているためボールと頭がかなり離れてしまっています。
尤も、筆者は当然プロ野球選手ではないですし、野球の経験自体乏しいのでフォームについては正直よくわかりません笑。実際に見比べていただくのが1番かと思いますので、以下にてご参照ください。
ただ、20年9月はこれまでで最も低い位置での投球となっています。20年プレシーズンでもスリークォーター気味でしたし、夏の登録抹消時にフォームを変えたと考えるべきでしょう。10月は5試合3イニング2失点と結果を残せておらず、フォーム探しは絶賛取り組み中な部分だと思います。
腕を下げたことによって今まで以上に下半身の強さが求められ、オフに取り組んでいた毎年恒例地獄の階段登りにも熱が入ったことでしょう。
※荒西投手のインスタグラム(@aranishiyudai15)より
本日はルーキー中川颯投手とのいちゃつきの中でアンダーのモノマネもしていました笑。私としては腕は下げないで欲しいのですが、逆にフォーシームの球速を落として変化球に近づけ、さらに制球も上がるならそれはそれで。
4.さいごに
ここまでつらつらと書いてきました。データに見る結果と、フォームに見る過程。いかがでしたでしょうか。
チームにとって荒西投手はかなり重宝する選手で、先に書いたように失点はなんだかんだ最低限で切り抜けるし、雑な場面で投げさせてもクオリティーが変わらないし、そして何より怪我をしません。21年は自身と同じく即戦力オールドルーキーの阿部選手が加入し、アンダーの中川颯選手も入ってきました。荒西投手にとって、今のポジションに甘んじる事なく活躍して欲しいですね。
契約更改では中継ぎとしての登板について次のように語っています。
「自分はどこでも投げるつもり。(中継ぎなら)50試合は投げたい」
中継ぎならば被弾を下げるための制球を身につけることが最優先でしょう。今年もチーム内の投手の一軍争いは熾烈ですので、先発・中継ぎ両面で生き残りをかけて欲しいですね。若手にとって「超えられそうに見えるのにいざやってみるとめちゃくちゃ高い壁」になって立ち塞がって欲しいと思います笑
■出典
https://twitter.com/pacificleaguetv?s=21
また、フォロワーさんの悟@野球とデータさん(@bb_satoru)にデータの提供を一部行っていただきました。同じくフォロワーさんのyo@ガッチリMAXさん(@yobuffalo)のnoteも大いに参考とさせていただきました。改めて謝辞申し上げます。
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