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日本版オープナーは普及するのか②

1.はじめに

2月末にアップロードした「日本版オープナーは普及するのか①」のつづきをようやく書き終えました。前回は19年に最も多くオープナー制を運用した日本ハムの事例を書いたところで5500字を超えてしまったので、見辛いだろうと思い続編に委ねる形としました。

ここでは、日ハム以外のオープナー実施例を見ながら私のファン球団であるスワローズとバファローズでのオープナー運用の可能性、セパの違いや今年の展望について書いていきたいと思います。

2.日本ハム以外のオープナー事例

2019年は、日本ハム以外にも複数の球団でオープナーが戦術として用いられました。早々にオープナーを導入したのは横浜DeNAベイスターズ。8番に投手を入れるなど、他球団とは異なる戦術を積極的に挑戦するラミレス監督は、4月21日広島戦に国吉投手をオープナーに起用します。しかし国吉投手は期待に応えられず、初回に4失点。

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さらに4月30日ヤクルト戦に進藤投手をオープナーとして起用しますが、こちらも3回6失点と試合を作れず、4月以降はオープナー制を導入することはありませんでした。

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第1章で書きましたが、オープナー投手にとって四球で無駄なランナーを出さないことは極めて重要な要素です。国吉投手・進藤投手ともに与四球を複数個出してしまい、自ら首を絞めてしまった感があります。

どちらの投手も右投げですが、共通点は左打者に対しての成績が良い点です。2019年通算で、国吉投手は対左打者被打率.210進藤投手は.200で、対戦する広島もヤクルトもトップバッターには左打者(田中広輔選手と太田賢吾選手)が起用されていました。日本ハムの事例と同様、DeNAもオープナーには1番打者を抑える確率が高い投手を起用していたと考えられます。

逆に、オープナー制を導入し成功した例として千葉ロッテマリーンズがあります。日ハムから引き抜いた吉井投手コーチが主導し、前半戦最後の試合となった7月10日日本ハムファイターズ戦で採用されます。オープナー起用された唐川投手は1回を無失点に抑えると、6人の投手を継投し5-0で勝利を収めました。

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吉井コーチが「どんな状況でも普段通り投げてくれる。四球を連発することなく大崩れもない日刊スポーツ)」と話す通り、唐川投手は19年のBB%が3.6%と安定した制球力を誇る投手です。さらに、対右打者に対しては被打率.329の一方、対左打者では.264とやはり左打者に優位な投球ができる選手が起用されています。

最後に、スワローズでも8月17日にオープナーが戦術として導入されています。プロ入り後10年で初の先発起用された平井投手が2イニングを投げ、7人の投手の継投で7-5で勝利しています。

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平井投手はこの試合までの5試合7イニングで自責点2、与四球も2つだけとリリーフで好投を重ねており、丁度チームとして先発投手に困ったところで起用された形です。スワローズはこれまでも二軍で投手が回らなくなった結果としてブルペンデーを作っており、急場を凌ぐためにオープナーを戦術として用いることに抵抗が少なかったのかなと推測します。

これまで他のオープナーに共通した与四球率や対左打者成績という点で平井投手はあまり秀でておらず、スワローズのオープナーについては他の3球団と少し異なるケースだと私は考えています。

このように、2019年はパリーグで日本ハム・千葉ロッテ、セリーグでDeNAベイスターズとヤクルトスワローズの4球団がオープナー制を運用しました。すでに日本ハムは2020シーズンについてもオープナー制の導入を明言しており、同球団の試行を参考に他球団が今後も追随してオープナーを導入する可能性は高いのではないかと思います。

3.ヤクルトスワローズでオープナーは成功するのか

19年に一度オープナーを実施したスワローズですが、それはかなり苦し紛れのものだったと私は認識しています。とはいえ、スワローズは投手陣特に先発ピッチャーの駒不足に悩まされ、2020年にすぐにその状況が改善されるとは思えません。

最もオープナーを運用した日本ハムも、規定投球回到達投手は有原投手だけで、先発投手として2番目にイニングを投げた投手は金子投手の91イニングとやはり先発投手に物足りなさを感じ、栗山監督は次のように述べています。

「大エースが何人も揃っていれば必要ないんですけど、今の野球で大エースなんてそう簡単にはつくれないし、だったらこれもやらない手はないと思っています。ショートスターターだかオープナーだかわからないけど、ピッチャーの特長によって一回りとか、4番までとか、9人が1イニングずつ投げるとか、いろんな幅を持たせて考えようと思っています」
※出典:web Sportiva

現代野球において、チーム作りをどう考えるかの際に重要な観点がオプションを増やすことだと私は考えています。投手運用に幅を持たせるオープナーは今後スタンダードな戦術になると考え、もしスワローズが20年にオープナーとして使うならどんな選手を起用するべきかを考えてみました。

日ハム式オープナーでは最初に投げる1番手として、①対左打者に優れている ②与四球率に優れている の2つが重要視されています。セリーグにおいても、各チーム1番打者を務めるのは左打者が多いことから、対左対応はやはり優先度が高く、与四球率については言わずもがなだと思うので、この2つの条件でスワローズの選手を見ていきましょう。

中継ぎ投手としての起用が中心で、2019年の対左被打率が低い選手5人は以下のようになります。

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この中で、対左被打率<対右被打率かつBB%が良い選手は誰でしょうか。BB%については、スワローズのチームとしてのBB%は8.4%ですのでそれをベンチマークとすると、日ハム式オープナー条件に最も合致するのは梅野雄吾投手です。

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対左被打率が2割を切り、BB%も対左には7.4%で平均より低く、昨年70登板を果たすだけの成績を残しました。1年目~2年目は一軍・二軍共に先発の経験もあり、成績だけ見るのであればスワローズで最もオープナーを任せられるのは梅野投手だと言えるでしょう。

次点ではマクガフ投手。(写真左笑)

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しかしマクガフ投手の場合、BB%は低いものの対左被打率に関しては.258と決して良い数字ではない点が気になります。ただ、被本塁打は誰よりも少なく、右打者に対しても安定したピッチングができる点は梅野投手より優れていると言えるでしょう、

勿論、梅野投手・マクガフ投手ともにリリーバーとして強い存在感を19年に残し、20年についてもセットアッパーやクローザーを任せられる可能性が高い投手であるため、彼らをオープナーとして起用することでリリーフに多大なしわ寄せがくることは十分考えなくてはいけません。また、梅野投手はセットアッパー・クローザーへの意欲が強く、実際にオープナーを彼がやるかといえば限りなく可能性は低いでしょう。

上に挙げた投手陣の中で、星選手・久保選手は対戦打者数が少なく、比較データとして物足りませんが、大下選手を含め現在一軍で思ったような活躍ができず19年は苦しんでいる投手にとってオープナーという選択肢を考えるのは彼らの今後のキャリアにも影響を与えるかもしれません

特に高津監督は2軍でブルペンデーを過去何度も実施し、先発投手陣にアクシデントが起きて枚数が足りなくなった時などはオープナーも現実的な選択肢に上がってくる可能性があります。実現するかは監督次第ですが、こうした選択肢を妄想するのもオフの楽しみの一つではないでしょうか。

4.オリックスバファローズでオープナーは成功するのか

次に同様のアプローチを試みたいのがオリックスバファローズです。山岡投手・山本投手という強力な先発二本柱を有する一方で、三番手以降に不安があります。昨年先発として一定の活躍を見せたアルバース投手・張投手・竹安投手の怪我、K-鈴木投手・荒西投手・田嶋投手・榊原投手の不調で先発ローテーション形成に暗雲がかかっています。

幸か不幸か開幕の延期により怪我人の復帰や、復調も待たれるところではありますが、オリックスが今年オープナーを戦術として取り入れる可能性は0ではないと考えています。早速前項のスワローズと同様、まずは日ハム式オープナーに則り、対左優位かつ与四球の少ないリリーバーは誰かを見てみましょう。

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昨年の対左打者被打率が低い順にベスト5はこのようになります。スワローズに比べて好成績を残す選手が多く、選びがいがありそうです。

まず対左被打率.174と極めて左打者に相性のいいのが神戸投手。51人の左打者と対峙し被本塁打はわずか1本。スライダー・スプリットの落ちるボールを低めに集め10三振を奪うなど、右投手でありながら左打者に対しては圧巻のピッチングを見せています。

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まだ25歳と若く、スライダー・カーブ・スプリットの3つの変化球はすべて指標上プラスの成績を残した神戸投手は、順調にいけば今年敗戦時のリリーバーポジションより上の役割をこなす可能性が高いと言えます。その中の選択肢の一つとしてオープナーということも可能性はあるのではないでしょうか。

ネックとなるのは対右打者で、34人の打者と対戦し3本塁打1三塁打2二塁打と多くの長打を打たれています。パリーグは1番バッターこそ左打者の起用が多いですが、2番以降は右のパワーヒッターが控えているので長打を減らすための取組は必須になるでしょう。最も、この成績で対右の長打を減らすことができればスタミナ次第で先発起用という線も残されているのかなと考えています。

そしてベテランの海田投手はこの中でも特筆すべき存在です。左打者との対戦打席数が105打席ある中で、被打率.214もすごいですが、与四球わずか4つ、被本塁打はなんと0本。昨年55試合に登板し防御率1.84、23HPとリリーフで大活躍したベテラン左腕は左打者を徹底して抑えることで復活を遂げました。右打者に対しても被弾はわずか1本で、右も左も抑えることのできる海田投手は成績だけ見ればセットアッパー~クローザーとしての起用も十分ありうる内容です(実際昨年の23HPという数字は終盤を任されている証ですが)。

ただ、オリックスのクローザーにはディクソン投手がおり、西村監督の構想では新加入のヒギンス投手への期待値も高く、また元クローザーの増井投手も控えています。終盤2イニングを任せる候補はそろっているので、1試合の中でもし初回をもっとも重要なイニングと位置付ければオープナー海田投手というのも選択肢の一つとして考えてみても面白いかもしれません。

昨年、初回に失点の多かったK-鈴木投手(全56失点中、初回に12失点)、田嶋投手(全26失点中、初回に10失点)などはオープナー時の二番手候補として考えてみるなど、不調な中でもオリックスは先発投手”候補”は多いので多様なオプションを考える余地があります。

5.さいごに――オープナーを評価する

ここまで、昨年の日本ハム以外のオープナー起用の事例と、日ハム式オープナー制に則って私の贔屓の二球団のオープナー起用のオプションについて考察してみました。2球団について実際に運用することを考えてみたときに、明らかに実現可能性が高いのはオリックスバファローズでしょう。

該当する投手の多さ、という点もありますが、やはり投手が打順に組み込まれるセリーグでオープナーを起用することは難易度がかなり高いと考えます。日本ハムが昨年オープナー制を運用した際に起用された投手は1試合平均5.5人。DH制があってもこれだけの投手を1試合でつぎ込んでいるとなると、セリーグでは投手が足りなくなり終盤のチャンスで適切な代打が送れなくなるなど弊害の方がオープナーの効果を上回ってしまうのではないか、と思わずにはいられません。

逆に、オリックスではオープナーの一番手として起用するに足る条件を備えた投手が揃っています。先発投手不足を補いかつ立ち上がりな苦手な投手に代わって初回を全力で抑え、初回を制することで先行勝ち逃げの試合展開に持ち込むことは打力に不安を抱える中で戦略的に正しいと考えられます。

今年はただですらオリンピックで変則日程、そこにウィルスの流行で開幕延期とシーズン終盤の試合の増減など選手にとってかなり負荷のかかるシーズンです。先発投手の中には変則的な日程に対応できず調子を崩してしまう選手も考えられる中で、シーズン通して戦うための戦術オプションを増やすことは一層重要になっているのではないでしょうか。

少なくとも、もし今開幕するのであれば私はオリックスにオープナー制の運用を真剣に考えてほしいと思います。

長々とお読みいただきありがとうございました。おあずけを喰らった野球ファンの皆様に少しでも楽しみを、と思い書いてみました。

■出典元

以下のデータサイトをもとに記事を書いています。なお、各写真については筆者撮影(素人のピン甘・ボケ写真ですみません)。


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