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#熱ドラ 【スワローズ陣営】戦力分析編

今年はコロナウィルスによりドラフト会議も大きく影響を受ける年になります。直近では甲子園が戦後初めて中止となり、スカウトへのインタビューなどでは特に高卒選手の獲得が少なくなるのではないかという見通しを示しています。そんな中で#熱ドラにおいてスワローズ陣営の代表として参加させていただくことになりました。

現在のヤクルトスワローズの年齢チャートを軸に今の戦力分析を行ったのが本記事、次の記事で指名選手の紹介と指名に至ったスワローズ陣営の考え方を述べていきます。

0. 直近の指名

まずは直近5年間の指名を振り返ってみましょう。

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5年間で36名の選手を獲得(うち育成3名)、そのうち21名が投手となっています。5年間ですでに退団した選手は17年7位の沼田投手と16年6位の菊沢投手の2人に留まり、チームの在籍選手70名のうち34人が直近5年間のドラフト獲得選手となっています。5年間でチームの約半分が入れ替わっていることからも、ドラフトがいかに重要かよくわかりますね。

年次としては高卒選手が最多の15名大卒選手11名社会人出身選手6名独立リーグ4名となっています。指名年度による年次の偏りは比較的少なく、毎年高卒を3~4名、大・社卒を3~4名獲得していくことで年齢バランスをコントロールしているのがここ5年間の戦略となっています。

昨年のドラフトでは1位~4位をすべて投手獲得に充てたため投手偏重ドラフトといわれる向きもありますが、2016年以降4年連続で4名以上の投手を獲得しており人数としては例年並みといえます。

まずスポニチの5/16付け記事での橿渕スカウトグループデスクのコメントが以下です。

「(ドラフト指名の)人数は例年並みの水準にしたいけど限度がある。今年の(候補)選手は不憫」

直近5年間での支配下ドラフト獲得人数は6名が3回、7名が1回、8名が1回となっており、スカウトとしては本来であれば今年も6~7名程度の獲得を目指していることが分かります。これまでの獲得傾向から、そのうち3名程度は投手を指名することも想定できるでしょう。19年ドラフトは高津監督が強く投手を希望した指名となり、特に奥川・吉田・杉山の上位3名はMAX150kmを超えるパワーピッチャーでした。17年・18年に指名した投手と比べても明らかにフォーシームのスピードと質に重点を置いた指名で、投手出身の高津監督の意向が今年も続くことを踏まえればその傾向は継続するでしょう。

野手に関しては3位以上での獲得は5年間でわずか3名。根尾選手のように1巡目入札で外したケースはあるものの、3人/15人なのでかなり少ないです。二塁に山田哲人というスターを抱えているものの、やはり守れて打てる二遊間の選手は上位3枠のどこかで割かない限り獲得はできません。今年の二遊間は山田哲人選手(10年ドラフト一位)とエスコバー選手or西浦選手(13年ドラフト二位)であることからもそれは明らかです。ここ5年間は主に二塁・三塁・遊撃の3ポジションをこなせる大卒〜社会人の選手を下位で指名することで補ってきましたが、やはり一軍の内野のコアプレイヤーとしては攻守に物足りない一面も垣間見えます。

また、5年とも投手・野手でそれぞれ1人は高卒選手を獲得しています。これは投打の年齢バランスを補正すると同時に、高校生からいきなり個人事業主という大きなステップを踏む18歳の選手を孤立させないための配慮ではないかと思います。実際、各年齢の同い年の選手はキャンプでともに一軍入りしたら一緒に行動したりと仲の良さを見せ、梅野投手と寺島投手のように結果にも結びついています。

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画像はキャンプ時に守備グラウンドからブルペンへの移動中のもの(筆者撮影)。梅野、寺島、中尾の同期三投手が並んで話しながら移動する様はイイものです。もっともスワローズの場合はファミリー球団と言われるように上下関係はやや緩く、村上選手を代表に伸び伸び育ってますが笑。それでも入りたては緊張するでしょうし、同い年がいるのといないのは大きな違いでしょう。高卒ー大卒でも4歳違うので。昨年の五位長岡、六位武岡と同じ遊撃のポジションの高卒内野手を折り返しで連続して指名したのも、そうした配慮に加えてライバル意識に基づく個々人の能力引き上げを狙っていると考えられます。

さて、ここからはポジション別に行った戦力分析となります。

1. 投手

編成上は現在37名在籍しています。投手を抜粋したのがこちら(赤字は新入団選手)。

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19年は主力選手の怪我と不調もあり12球団ワーストの防御率でしたが、神宮球場を本拠地としている点は念頭に置いておくべきです。直近5年間で高卒8名、大社卒7名を獲得、原・高橋・梅野・中尾は既にチームの戦力となっており、寺島・清水のドラ1投手も今年になって台頭しはじめています。

右腕は各年代1人以上在籍し一軍戦力となっている選手が目立つ一方、先発として一軍レベルのパフォーマンスを見せている左腕はベテランの石川投手、SBから移籍した山田大投手、5年目の高橋投手の3人だけです。16年ドラ1の寺島投手が怪我もあり思うように投げられない中、同い年でSB育成だった長谷川投手をオフに支配下で獲得したのは発破をかける意味もあったと考えられます。

まずは先発投手ですが、ロバートさん(@Robertsan_CD)作成の表になぞってQS率を縦軸、投球回を横軸に取ったチャート表をご覧ください。

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ここからブキャナン投手が退団していることを考えると、2本柱の小川・石川両投手のQS率向上ならびに高橋・高梨・原およびそれに続く投手がイニングを稼がないと苦しいことは明らかです。当然フロント~首脳陣も先発投手の苦境は理解しており、怪我が多くイニングは消化できなかったもののQS率は50%あったスアレス投手の残留および新外国人として先発型のイノーア投手・クック投手の獲得に乗り出しました。ドラフトでも2位で吉田大喜投手を獲得し、先発投手を補強しようとする意図は見えています。

こちらのデータは先発投手に絞った時の2019年各チームの主要指標です。

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スワローズの先発防御率は5.05とリーグワースト、5位阪神の4.04とも大きく差を付けられています。ホームランの出やすい神宮球場でシーズンのほぼ半分を過ごしていることもありHR/9は1.35、つまり9イニング当たり1.35本のホームランを打たれているという点が防御率の悪さに直結しています。一方で、K%はリーグ中位、BB%はリーグトップタイと純粋な投手対打者の勝負に関しては悪くない指標が出ています。

今年は石川ー小川ー山田大ーイノーアースアレスー高梨の6投手で開幕ローテーションを組み、現時点で山田大樹投手と高橋投手が入れ替わるにとどまっています。防御率は10日(金)時点で4.96とほぼ昨年並み、K%とBB%は昨年に比べてともにやや悪化しています。最大の問題は17試合で85イニング、つまり平均5イニングしか消化できていない点で、ここまでチームとしては貯金2つあるもののリリーフにしわ寄せが行っています。最大の誤算は練習試合で好投を続けていたイノーア投手の不調で、3試合に登板し11イニングしか消化できず防御率10.64と打ち込まれています。

20年ドラフトにおいては、当然試合を作れてイニングを稼げる先発投手が求められますが、どこのチームであってもそのような投手は欲しいですし、たとえドラフト一位を割いても1年目からその期待をかけるのは酷というものでしょう。先発投手を厚くするために即効性があるのは、外国人投手の補強かFAで実績ある投手を獲得することだというのが私の持論です。過去のスワローズのドラフトを見ても1年目に獲得後から継続的に活躍したケースは石川投手ぐらいなのがそれを物語っています。とはいえ、投手の枚数が欲しいのは事実なので、高卒なら3年後に一軍先発デビュー大社なら1年目に先発として6試合約30イニングというラインで投げられる選手の獲得を目指したいところです(先のマッピングの通り、19年は30イニング投げた先発投手は7人しかいませんでした。一年目ならなおのこと過度の期待は禁物でしょう)。

そもそもあの狭い球場を本拠地に先発投手が長いイニングを投げるのはきついのです。こちらは直近5年の球団別先発投手の投球回です。

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優勝した15年で810回、二位だった18年に至っては768回。打撃とリリーフに依存する戦い方は勝ってる年も負けてる年もそこまで変わりないのです。

次にリリーフ投手です。まずは昨年の主要指標からみていきましょう。

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リリーフにおいても昨年はリーグワーストの防御率4.42に沈んでしまいました。また、68試合65イニングとフル回転したハフ投手が退団しています。被本塁打は神宮球場が本拠地の割に1を切り、難しい場面を迎えるため先発に比べて悪くなりがちなBB%も1ケタ台に抑えていますが、奪三振能力を表すK%がリーグ最低の20.3%だった点は気になります。150kmを超すボールを投げられるのがマクガフ投手と梅野投手の2選手に留まっている点に原因はあると考えています。オフに元楽天の今野投手と元ソフトバンクの長谷川投手を獲得し、特に長谷川投手は左腕ながら150kmを超えるなどここもフロントは最低限の対策を打っていますが、新たな選手の台頭が無いとリリーフに関しても苦しいやり繰りがシーズン開幕時点では予想されていました。

さて、実際開幕してみるとクローザーを石山投手が担い、7・8回を当初は梅野投手→マクガフ投手で勝ちパターンを組んでいました。しかしマクガフ投手の調子が現在まで上がらず、現在は清水投手・寺島投手のドラ1コンビがともにここまで無失点と健闘し序列を上げてきています。20年のここまでの防御率は3.69でリーグ2位。前年課題のK%は19.9%で良化したもののリーグ5位ですが、BB%は2位巨人の9.4%を大きく上回る7.7%で、スワローズに貯金をもたらしてくれている要因の一つはリリーフ投手陣の頑張りにあると言えます。

まだ開幕してから日がたっていないとはいえ、かなりフレッシュなメンバーでリリーフ陣を形成することに成功しています。今後、寺島投手・清水投手については先発転向もあり得ますが今年に関してはドラフトでのリリーフ投手の獲得は比較的後回しで考えていいでしょう。クローザーは石山投手が務めていますが、昨年石山投手の故障中は梅野投手が任命されており本人のクローザー希望意志も強いことから将来を見据えた配置・起用がみられるでしょう。

2.捕手

次にキャッチャーを見てみましょう。まずは年齢チャートから。

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捕手で登録されているのは育成の内山選手含め8名。コアプレイヤーの中村選手は18年オフに2021年までの3年契約を結び、2019年は好成績を残しました。

19年オフに嶋選手を戦力外から獲得したものの、当初の予想では1軍の枠は中村選手が確定2番手を嶋選手と古賀選手が争うという形でした。西田選手は主に一塁がメインとなり、捕手としての出場は緊急時になる可能性が高く、二軍では井野選手・松本直樹選手・内山選手が主にマスクを被るというのが既定路線でした。

さて、実際開幕してみると中村選手が開幕戦の練習でまさかの故障、二軍落ち。7月10日現在でも2軍戦含めて復帰しておらず、2番手捕手候補だった古賀選手は打撃不振で二軍落ち。結果として、19オフに獲得した嶋選手と西田選手がスタメンマスクを交互に被り、井野選手が試合終盤で出場するという当初の予想とは大きく外れたかたちでの運用を余儀なくされています。松本直樹選手も故障で2軍では内山選手がマスクを被る機会も増えています。さすがに正捕手と2軍のメイン捕手両方が離脱することは想定していなかったでしょう。19オフに嶋選手を獲得しておいてよかった、と首脳陣含め肝を冷やしていると思います。

古賀選手は16年ドラ5ながら打撃力向上し練習試合でも結果を残していただけに、二軍で再度調整し打撃に目途が立てば上がってくるでしょう。年齢バランス的には20代の選手が6人で、最年少の古賀選手が21歳であることから、今年大社卒の捕手を獲得しても一軍での出番はなかなか回ってこないと思われます。高卒捕手は古賀選手以降の3年間で一人も獲得していないので可能性はありますが、優先順位は比較的低いと言えるでしょう。

3.内野手

つづいて内野手です。年齢チャートはこちら。

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右打者5人に対し左打者が10人とかなり偏ったチャートとなっています。特に20台中盤に選手が固まり切磋琢磨していますが、まだ殻を破って出てくる選手はいないというのが現状です。

今後を見据えるうえで最大の焦点はセカンドの圧倒的レギュラー、山田哲人選手のFA。この2年のキャンプ~オープン戦では二塁に荒木選手・吉田大成選手を起用するなど緊急時に備えた準備はしていますが、もし山田選手がFA移籍をした場合は攻守ともに大幅な戦力ダウンは必至です。

直近5年のドラフトでドラフト4位以上で二遊間を指名したのは18年ドラ1入札の根尾選手(クジにより獲得できず)と15年の廣岡選手の2人のみで、打力・守備力共に備えた二遊間は不足しています。西浦選手が今年は好調ですが、昨年は怪我で悩まされているように通年の活躍ができるかは楽観できず、エスコバー選手も33歳の外国人であることを考えると3年後・5年後のセンターラインには不安があります。

ちなみに今回の仮想ドラフトでは、「山田選手がFA移籍をする」という最悪のシナリオをとるか、「山田選手が残る」という幸せなシナリオをとるかを一番最初に協議しました。結果として、山田選手が残っても残らなくても二遊間のコアプレイヤー候補に上位指名を割く必要があると判断しました。

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こちらのデータに見られるように、山田選手の貢献度は凄まじく、彼が怪我等で抜けた時のバックアッパーは誰もが必要とするところでしょう。昨年長岡・武岡の両選手を5位・6位で獲得したものの、やはり下位指名であり3年後・5年後に攻守でレギュラーレベルに達しているかは楽観視できません。12球団見渡しても二遊間で打てて守れる選手がいるチームはAクラスに行き、逆もまた然りという状況です。将来を見据えても二遊間のコアプレイヤーをそろそろ上位指名を割いて獲得しないと山田哲人選手の去就如何関係なくチーム力のダウンは待ったなしと考えています。

また、上記のチャートはポジション別の攻撃指標を示すものですが、守備指標もポジション別にDELTAGRAPHSさん(@Deltagraphs)は出してくれています。

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青い棒で示された守備による得失点も、内野の要である遊撃で-12.4サードで-12.1と大きなマイナスを背負っています。ホームラン・四球・三振以外のすべてのプレーは守っている守備選手の動きでヒットにもアウトにも変わりうるもので、守備指標はチームの失点に大きくかかわる部分です。チームとして、昨年のUZRは12球団ダントツ最下位の-40.9。UZRは同じ守備位置を守る平均的な選手と比べてどれだけ失点を防いだかを、打球の位置、種類、速度ごとに細分化したうえで算出した指標で、スワローズに関してはシーズン通して平均より40.9点も失点を増やす守備をしている、というのがUZR-40.9の意味です。遊撃・三塁の内野守備のほころびはチームの失点増、すなわち敗北に直結するもので、守備型の新外国人エスコバー選手の補強はフロントの動きとして的確なものでした。

一塁・三塁については成長著しい村上選手がどちらかに入り(しかもどちらでも2020年はここまでUZRプラスを記録)、坂口選手も好調で、廣岡選手もサードであれば守備も安定しているので緊急性は低いですが、やはり村上・坂口の故障時に向けて長距離ヒッターと交互に使えると運用が幅広く出来るでしょう。もちろん、特に一塁は外国人長距離砲を入れやすいポジションであるので、やはりドラフトにおける優先順位は低いでしょう。

4.外野手

年齢チャートを見てみると、最も歪なのが外野です。

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26歳のラインで右打者は26歳以下のみ、左打者は26歳以上のみとかなり偏った編成となっています。さらに主力選手が38歳の青木選手、35歳の坂口・雄平の2選手とベテランへの依存も高くなっています。オープン戦〜練習試合にかけて塩見選手がアピールを続けていましたが、開幕後に故障してしまいました。ただし山崎選手が配球読みとプル方向への強い当たりを見せるようになり、現在はゲームを乗り切れています。

山崎選手の活躍により坂口選手・青木選手を交互に休ませることができ始めていますが、山崎選手は足を生かした守備範囲の広さがあるものの肩は弱く返球には難があります。塩見選手がいいところで怪我でいなくなるので、恒常的にセンターで悩む日々が続いています。

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ライトの雄平選手も攻守に衰えが顕著で、それが19年はこちらの大きなマイナスに反映されています。先に挙げたベテラン勢はやはり休みを入れながら打撃で高いパフォーマンスを発揮して欲しい選手たちで、山崎選手のように若い外野手の台頭が望まれます。

年齢構成的には左打者、しかも足の使え肩もいいような三拍子揃ったセンターが取れればピンズドの補強となります。これまで左打外野手は坂口選手、榎本葵選手、田代選手と戦力外からの補強に終始してきましたが、そろそろ外野を廻すためのコアプレイヤーが欲しいところです。

5.さいごに

ここまで年齢チャートをもとに各ポジションの戦力分析を行いました。優先順位としては、二遊間のコアプレイヤー→打撃力があり足も使える左打センター→先発投手候補、となります。

昨年、投手4人にドラフト上位4つを費やしただけに、今年は思い切って野手に行ける年だというのが私の認識です。次回のnoteでは今回の分析に沿った指名選手の決定プロセスを紹介したいと思います!


■参考文献

<Twitter>
・ロバートさん(@robertsan_CD)
・DELTAGRAPHSさん(@Deltagraphs)

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